物体は通常、正負の電荷が平衡状態にありますが、その平衡状態が崩れて電荷の偏りが生じると静電気が発生しやすくなります。静電気が発生すると、小規模の電圧でも電子部品は破損してしまうことがあります。
分析機器本体では対策が取られていますが、大きな静電気が発生した場合には装置の誤作動を引き起こすことがあります。また、実験室で可燃性のある有機溶媒を使用するHPLCに関しては、静電気の発生により火災を引き起こす危険性があります。ここでは、実験室で発生する静電気に対する注意点をご紹介します。

秤量時に発生する静電気

試料調製時に粉末試料を秤量する際、摩擦帯電(粉末と容器の壁面との摩擦)や接触帯電(異なる2つの物質の接触によって片方からもう片方への電荷の移動)により、薬さじへの付着や飛散が起こることがあります。
除電器により静電気を取り除くことで、粉末試料を安定的に秤量することができます。

参考資料

  • 内蔵イオナイザSTABLO-APによる静電気除去

  • 除電器の効果 スプーン編

 
 
その他、静電気が秤量に与える影響がわかる動画はこちら
 
 

HPLCの廃液付近で発生する静電気

HPLCに使用されるような細い配管に液体を高速で送液すると静電気が発生しやすくなります(流動帯電;図1)。とくに有機溶剤のような導電性の低い溶媒を樹脂製の配管に送液する場合に発生しやすく、さらに気泡が多い場合は静電気が増幅される可能性があります。樹脂製の容器を廃液タンクとして用いる場合には、容器に使用される素材の絶縁性が高いため、容器内で静電気が溜まることにより電荷量も徐々に大きくなります。こうした環境では数kVの高電圧が発生することがあります。この条件下で他の導電体が近づくと放電が起こり、熱エネルギーが放出されます。周囲に可燃性ガスがある環境では着火する可能性もあるため危険です。
静電気の発生の原因とその対策法を図2に示します。
静電気による事故を防止するためには、「静電気の帯電および蓄積を防止」することが重要です。特に、大量の可燃性溶剤を使用する際は十分に対策してください。

​図1 固体、液体類の流動による静電気の発生
  A:液体の流動とともに移動する電荷
  B:固体表面に固定され移動できない電荷

(a) 静電気による事故が起こる原因

(b) 静電気発生の対策

発生の原因
対策法
室内の乾燥
適度な室内の加湿(65%以上が好ましい)
配管における流動帯電
太い内径の配管の使用
気泡の発生
配管接合部の確認
廃液の滴下
配管の廃液出口を廃液の液面より下に配置
低電導性素材を用いた廃液容器
金属性(内壁が導電性のある容器やメッキ缶など)の使用
電気を逃さない床(ゴムマットなど)
アースの徹底
静電マットの使用


図2 静電気の発生の原因とその対策