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LCtalk特集号「移動相の脱気」

5-5)Heパージによる脱気

 移動相にHe(ヘリウム)をバブリングすると,溶解している空気が追い出されて代わりにHeが溶解することになります。Heは,図32に示したように各溶媒への溶解度がおしなべて低く,またその溶解度は図33に示したように温度の影響がわずかしかありません。従って,溶存酸素の影響が強いUV検出や蛍光検出は勿論,屈折計においても高感度で安定したベースラインが得られます。本法は,Heパージ,あるいはHeガスバブリング,スパージ(sparge)などと呼ばれています。
 ただし,移動相ビン中でHeパージをしても,ビンが開放になっている状態(図36)では,逆に余計ベースラインが安定しない場合があります。何故なら,接液気体に常に空気が含まれることになり,空気の完全な追い出しが不可能になるからです。さらに,He流量を変えると空気の分圧も変動し,ベースラインドリフトが生じることになります。 従って,Heパージをする場合は,できるだけ密閉加圧式で行うことが望ましいと言えます。
脱気ユニット製品ページ

<操作>
 密閉加圧式のHeパージは,図35のような流路が必要となる。注意点は移動相ビンのキャップに専用の密閉キャップ(DGU-10Aなどには標準付属品として含まれる)を用いることである。まず,初期にHe流量を上げて(圧力で調整する。例えば 0.02~0.05MPa =0.2~0.5kgfcm-2)10~30分流し,移動相中から空気を追い出す。次に排気バルブを閉じると,接液気体は少し加圧された状態となる。この時点で移動相は「分析に使える」状態になる。以後,ポンプの送液により移動相が減った分だけ,Heガスが供給されることになる。
 分析終了時は,排気バルブを開けた後,調圧弁の圧力をゼロにするか,INバルブがあればそれをOFFにする。このとき,He OUTチューブを通してHeが徐々に抜けるために(空気は入りにくくチューブ内が減圧になり),He OUTフィルタから移動相が逆流することがある。リーク用抵抗管がユニット内にあれば,空気が逆流することにより,この問題を防止できるが,これが無い場合はHe OUTチューブとユニットの接続部を緩めて空気を導入する。
 また,ユニット内のリリーフバルブは,調圧弁がこわれた場合や,高い圧力に設定し過ぎた場合,Heを逃がして移動相ビンに過剰な圧力がかかることを防止する。勿論,より安全性を高めるため,移動相ビンにもシートやネットを巻いて安全対策する(図37)ことが好ましい(シートやネットはDGU-10Aの標準付属品に含まれる)。
 なお,溶媒ガストラップは,移動相中の揮発性溶媒蒸気が室内に拡散するのを防ぐために用いるが,密閉加圧式でないHeパージの場合に,接液気体の圧力を一定に近づけるのに役立つ。

<長所>

  • 脱気能力は最も優れている。
  • 脱気能力の送液流量依存性はない。
Heパージのイメージ

図34 Heパージのイメージ

溶媒1mlに対する気体の溶解量

図32 溶媒1mlに対する気体の溶解量(分圧1atm,25℃)
* 1気圧(1atm) = 1.013×105Pa

水1mlに対するCO2,O2,N2,He溶解量への温度影響

図33 水1mlに対するCO2,O2,N2,He溶解量への温度影響
(気体分圧1atm)

<短所>

  • Heガスボンベ・レギュレータ・配管が必要となる。
  • 密閉加圧式でないと,ベースライン安定性が保てない場合があるため,移動相ビンの口径・形状に制限がある。
  • 揮発性溶媒を含む移動相を脱気する際には,溶媒組成が変化することがある。(密閉加圧式で定常状態に入った後は,組成変化は起こりにくい)

<用途>

  • UV検出をはじめとする各種検出での高感度検出(密閉加圧式の場合。なお,開放系の場合は,蛍光検出・電気伝導度検出・電気化学検出での高感度検出)。
  • 低圧・高圧混合グラジエントを用いた分析(それぞれの移動相ビンに単一溶媒を入れる場合は,高精度分析が可能)。

図35 Heパージによる脱気(密閉加圧式)

「ビンの口開放でのHeパージはnot good!」

図36 「ビンの口開放でのHeパージはnot good!」

密閉加圧器式の移動相ピンの安全対策

図37 密閉加圧器式の移動相ピンの安全対策

 ところで,Heパージのランニングコストは,方式の違い(例えば密閉加圧式か開放式か)や,使用法,機種の違いによって大きく異なりますが,例を示しておきます。

<DGU-10A(密閉加圧式,全4流路)のランニングコスト計算例>
 (条件;2流路のみ使用,移動相1Lビン×2,1日20時間運転,He圧力0.3kgfcm-2,初期パージ20分,He(99.995%)ボンベ7m3=15000円*)

  • 初期パージ 300mL/min×20min×2=12L
  • 定常状態 10mL/min(リーク流量)×1200min=12L
  • 移動相減少分補給 約2L

 トータル1日当り約26L(56円)
 *Heボンベ7m3の市価は7000~20000円と幅がある。

* 本ページはLCtalk特集号5(1991年)をhtml化して一部修正を加えたものです。
従って,最新の装置情報・技術情報とは一致していない所があります。