vol.75 第20回クロマトグラフィー科学会議 (20 周年記念大会)を終えて

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vol.75 第20回クロマトグラフィー科学会議 (20 周年記念大会)を終えて

中村 洋 先生

東京理科大学薬学部
教授 (ご所属・役職は2010年1月発行時)

標記20周年記念大会が2009年11月11日(水)~ 13日(金)の三日間,約200名の登録者を得てヤクルトホール(東京,新橋)で開催された。 クロマトグラフィー科学会議は(社)日本分析化学会液体クロマトグラフィー研究懇談会のメンバーを核に1989 年,奥山典生教授(東京都立大学理学部教授,当時)を初代会長として創設された若い学会である。 2008 年の夏頃,田中信男現会長より電話を戴き,20周年記念大会の東京地区での開催を依頼された。 そこで,金澤秀子教授(慶應義塾大学薬学部),相山律郎氏(ヤクルト本社医薬開発部),千田正昭氏(千田分析技術研究所)に実行委員をお願いして準備に入った。

クロマトグラフィー科学会議は漸く成人に達した段階であり,幼年期を過ごした新橋のヤクルトホールに立ち返って開催することにして,早速北海道大学で開催された日本分析化学会第58年会の会期中,新たに中沢真子氏(ヤクルト本社医薬開発部)を交えて実行委員会を開き骨格を相談した。ヤクルトホールは新橋駅から徒歩5分程度と地の利が良い上,素晴らしい会場であるが,その分会場費も嵩むため,最近はクロマトグラフィー科学会議発祥のホームグラウンドでありながら開催できずにいた。(下表)

 

会場と実行委員長

※第1回~第13回(世話人),第14回~第20回(実行委員長)

 

しかし,幸いにも20周年記念大会開催準備金が用意されており,またヤクルト本社のご援助もあり,記念すべき会場での開催が可能となった。 有難いことに,記念大会の詳細を検討して行く過程で自然に役割分担が決まり,講演会場,ランチョンセミナー,昼食(実行委員・スタッフ,役員),展示,ポスター,協賛企業の募集,垂れ幕,情報交換会などは相山委員と中沢委員,事務局,ホームページ,20 周年記念バッジ(純銀台),褒章・副賞などは金澤委員,および後に実行委員をお願いした金澤研の伊藤佳子氏と西尾忠氏,教育講演を行う外国人演者との折衝と回顧講演は千田委員がそれぞれ担当し,筆者は総括に加えて国内講演者との交渉,参加賞の手配などを受け持つことにした。 また,最終段階では会計担当として竹内豊英教授(岐阜大学工学部)にも実行委員をお願いすることができ,最終的には総勢8名の素晴らしいチームワークで記念大会の運営を行うことができた。

さて,記念大会の大まかな構成としては,二日目と三日目を記念式典関係にあて,初日に一般講演(口頭,ポスター)と海外の研究者による教育講演(2件)を行うこととした。 先ず,目玉の特別講演には田中耕一氏(島津製作所)と神原秀記氏(日立製作所),展望講演には北野大教授(明治大学工学部)をノミネートし,幸いなことにお三方とも講演して戴けることとなった。 初日は,島津製作所提供によるランチョンセミナーが終了した午後一番に,「Towards New Bonded Stationary Phases for HILIC Separations」(Merck SeQuant AB) EinarPonten, Wen Jiang, and Camilla Viklund,「汎用型検出器コロナCAD の役割—汎用型検出器の比較とLC-MS の補完装置として—」(ESA Biosciences)Paul H.Gamache の2件の教育講演が行われ,その前後に学生講演(口頭発表11 件,ポスター発表15 件)26 件,一般発表(口頭発表8 件,ポスター発表18 件)26 件を行った。 初日の講演が終了後,優秀発表賞の受賞者選考委員会を開催して学生の部と一般の部から各々口頭発表2名,ポスター発表1名,合計6名を決定し,二日目夕刻に行われた情報交換会で表彰した。

二日目からの記念式典は田中信男会長の挨拶で開始され,千田正昭氏(千田分析技術研究所)による回顧講演「クロマトグラフィー科学会の20年」を拝聴した。 続いて表彰式に移り,20周年を記念する特別表彰として礒辺俊明教授(首都大学東京)に学術貢献賞,寺田清氏(ヤクルト本社 専務取締役)に運営貢献賞が田中会長より贈呈され,通常表彰として宮部寛志教授(富山大院理工)に学会賞,加藤くみ子氏(国立衛研)と轟木堅一郎氏(福岡大学薬学部)にそれぞれ奨励賞が授与された。 また,クロマトグラフィー科学会を長年支援して戴いた企業に対して,島津製作所には特別企業貢献賞,その他の企業には企業貢献賞が筆者より贈呈された。 表彰式の直後には,「モーメント理論に基づくクロマトグラフィー挙動解析法の開発」と題して宮部寛志教授から受賞講演が行われた。 昼休みの時間を利用してクロマトグラフィー科学会の役員会が別室で行なわ れ,引き続き講演会場で行われた総会では2009 年度の事業報告,2010 年度の役員・事業などが承認された。 午後の部は日本を代表する著名な研究者2名による特別講演が行われた。 先ず,神原秀記氏(日立製作所)から「DNA解析技術の進展とクロマトグラフィーへの期待」と題して講演が行われ(座長:寺部茂教授),単一細胞分析への夢が語られた。 次に,田中耕一氏(島津製作所)から「MALDI による高分子分析の過去・現在・未来」をテーマとして講演が行われ(座長:筆者),ノーベル化学賞受賞後にもMS に情熱を傾けられている研究者としての熱意 が語られた。 何れの特別講演も参加者の大きな関心を引き,示唆に富む質疑応答が展開され,20 周年を記念するに相応しい内容であった。

 

田中耕一 特別講演の様子

田中耕一氏(左)講演風景(右は筆者)

 

特別講演の余韻に浸る中,奨励賞を受賞した加藤くみ子氏(国立医薬品食品衛生研究所)より「生体物質の機能解析と高性能分離分析法への応用」,轟木堅一郎氏(福岡大学薬学部)より「生理活性物質の高感度・高選択的蛍光誘導体化分析システムの開発」の2 件の受賞講演が行われた。 休憩後,クロマ トグラフィー科学会議の現在の主要メンバーにより以下に示す8件の記念講演が二日間に渡って行われた(敬称略)。 「クロマトグラフィーと分子認識」(東北大学病院)後藤順一,「分離科学における繊維媒体の利用」(豊橋技術科学大学)神野清勝,「ミセル動電クロマトグラフィー研究とその後」(兵庫県立大学)寺部茂,「ミクロスケール電気泳動の高性能化」(京大院工)大塚浩二,「糖タンパク質糖鎖の機能解析を目指した高性能分析法の開発」(近畿大学薬学部)鈴木茂生,「ポリオキシエチレン基が発現する保持特性」(岐阜大学工学部)竹内豊英,「アフィニティーを利用した液体クロマトグラフィー用充填剤の開発と応用」(武庫川女子大学薬学部)萩中淳,「Differential MS Display Method by micro-LC-MS for Key Molecular Exploration of Cells」(広島大院医歯薬総合)升島努。 二日目の講演が全て終了した後,自然発生的に記念写真を撮ろうということなり,参加者が多いため年代別にほぼ4 世代に分かれて写真に納まった。

 

年代別記念写真

年代別記念写真(老年組)

左から(敬称略)・・・,財津潔,斎藤宗雄,神野清勝,寺部茂,田中信男,筆者,星野忠夫,
小林英三郎,後藤順一,千田正昭,中島憲一郎,豊岡利正

 

その後,5 分程度歩いたビルの2階にあるムーディーな「OLD MAN’S UN 汐留」に会場を移し,和風創作料理を楽しみながら情報交換会を行い,大いにその実を挙げた(有料参加者93名)。

三日目,午前中の最後には,「HPLC カラムの高性能化」と題して会長講演(田中信男教授)があり,カラム充填剤の開発と解析に賭ける情熱に溢れたプレゼンテーションに会場が圧倒された。 ㈱ワイエムシィと日本ミリポア㈱による並列ランチョンセミナー後,北野大教授(明治大学理工学部)より「環 境問題と分析化学の役割」と題して展望講演があり(座長:金澤秀子教授),環境問題解決における分析化学への期待が語られた。 最後に,新領域開拓講演として若手研究者による2件の講演,「アミノ酸研究の新領域-生体・食品等における D-アミノ酸二次元一斉分析法の構築と機能解析-」(九大院薬,浜瀬健司准教授),「ヒ素の水圏生態系における循環と最近の話題」(産総研,黒岩貴芳氏)が行われ,三日間にわたる20 周年記念大会は幕を閉じた。

最後に,本20 周年記念大会の開催に当たり,ご協力戴いた関係各位に心より御礼申し上げます。 本記念大会がクロマトグラフィー科学会の30 周年,50 周年に向かうマイルストーンとなることを願って筆を擱く。(2010年 1月 11日 記)

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