執筆者紹介

vol.64 「医薬部外品とHPLC」

小池 茂行 先生

ライオン株式会社 研究開発本部 分析技術センター 主任研究員 (ご所属・役職は2007年4月発行時)

私と液体クロマトグラフィーとの出会いは,大学4年の卒業研究の時である。 都立大学・荒木研究室で,毎日粉を引き調製した TLC で工業原料中不純物の分取・同定という研究室内では異質なテーマに従事した時に始まる。 ライオンに入社し化粧品・医薬部外品の品質管理セクションに配属され,器用な先輩達の下で滴定・比色などの分析に従事する中で,不器用な私は「いつかはこれらをクロマトグラフィーに変えてやる」と意気込んだ記憶がある。 入社3年目の時点で国内販売が始まったばかりの HPLC を上司に懇願し導入することができた。

化粧品・医薬部外品は香料を含む多成分の混合系であるため HPLC は絶大なる威力を発揮した。 このため,当初は再現性の確保に悩まされながらも,1970年代後半から製品開発や生産品の正規の検査に用いられていようになった。 そして,1991年8月の化粧品原料基準(粧原基)第二版追補IIで一般試験法に液体クロマトグラフ法が収載され,化粧品・医薬部外品の公式な試験法となった。 本法は1999年の粧原基の最終改定でも改訂されずに2003年の化粧品の全成分表示にともない廃止されてしまった。 粧原基の廃止は医薬部外品の申請に不都合を生じたため,医薬部外品原料規格(外原規)の整備が急がれ,昨年,医薬部外品原料規格2006が施行された。 外原規2006で液体クロマトグラフ法は大きく拡張された。

具体的には,粧原基の液体クロマトグラフ法に比べ外原規のそれでは「装置」の項が著しく拡張されていることがわかる。 検出器では,電気化学検出器,化学発光検出器や質量分析計までが記載されている。 移動相組成の制御では,各種のグラジエントが,カラム恒温槽の記載からは昇温分析も含まれている。 また,ポストカラムラベル化用の装置に混じりサプレッサーが記載されている。 このことは,「イオンクロマトブラフ法」を独立の方法としてではなく液体クロマトグラフ法の中に包摂したことを意味する。 これらの装置は収載規格各条の中これらを用いた方法が採用されているわけではない。将来に向け「一般試験法の頑健性」を高める意図があったのだと思う。 このことにより,各社が提出する医薬部外品の有効成分の分析,別紙規格原料の分析で「外原規・液体クロマトグラフ法に準じて操作するとき・・・」の一文を挿入することによりこれらの手法を自由に使える。 もちろん,各条には同等の結果を再現するための固有の操作条件を記載する必要がある。 そして,当然にも試験依託が行われる場合もあるが,申請者の製造現場での設備対応も必要とされる。とはいえ,医薬部外品の開発,品質管理で HPLC の最近の手法は使用可能となっている。

さて,話は変わるが昨今 2~3μmの微粒充填剤をカラムにつめ,超高圧で用いるHPLCが人気を集めている。 理論段数が高いため,通常の1/5程度に分析時間は短縮でき,感度も 3倍程度高くなるという。 大きな進歩である。 ただし,抵抗の小さい水/アセトニトリルの混液系では耐圧性能の向上により任意の組成で使えるが,水/メタノール混液ではアセトニトリル系と同じ流速では装置の耐圧上限に達してしまうという。 さらに,耐圧を増せばこの制約は突破できるであろうが,今度は充填剤の耐圧が問題になり,シール材の耐久時間も著しく短くなるであろう。 この点のイタチゴッコが延々と続きそうである。 その先に未来が広がるとは思えない。 故に,筆者はオールド(液体)クロマトグラファーの永遠の憧れ・キャピラリーGCの分離能に近づくために,モノリスキャピラリーへの期待は捨てがたい。 汎用HPLCの高度な完成度をもたらしたような多くの企業,研究者の参入が可能な環境を作り,是非とも早期の実用化が可能になることに期待したい。

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