示差屈折率検出器(屈折計)におけるベースライン安定化

LCtalk63号LAB

 示差屈折率検出器(RID : Refractive Index Detector, 屈折計)は,紫外吸収の乏しい成分の分析など多くの物質に対して広く用いられていますが,ベースラインの安定化に時間がかかり,困った経験をお持ちの方も少なくないと思います。 ここでは,溶離液として主にテトラヒドロフラン(THF)を使用する 非水系 サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に話を限定し,べースライン安定化に関わるノウハウについて解説します

● 検出器の温度調節

 溶液の温度は示差屈折率に対して大きな影響を与えます。 したがって,現在市販されているRIDの多くは,フローセル周辺を温調し,可能な限り一定温度に保たれるよう設計されています。 では,微小な検出温度変化がベースラインに対してどの程度影響を与えるのでしょうか?
フローセル温度を変化させた時の示差屈折率変化

図1 セル温度を変化させた時の示差屈折率変化
カラムなし,溶離液:THF,流量:1.0 mL/min

 図1はフローセル温度を 40.0℃から 40.1℃に変更した時のデータ例です。 たった「 0.1℃」の違いなのですが,明らかにベースラインが揺らいでいます。 溶離液が流れているサンプルフローセルと溶離液が封入されているリファレンスセルとで加熱速度に差が生じ,このような現象が発生したものと推察されます。 

 実際にはフローセル部は温調されているわけですから,実験室内の温度が 0.1℃変化した程度ではこれほどのベースライン変動は生じません。 しかし,室温が急激に変化した場合や空調の風が吹き付けている場合には,検出器内の温度制御がこれに追随できない場合もあります。 室温をなるべく一定にすること,検出器入口への配管を断熱材で覆うことなどの対策をとるのが有効です。

● 溶離液中溶存空気量の調節

 RIDは溶離液中の溶存空気をも検出してしまう性質があるため,ベースライン安定化のためには溶離液の脱気状態を常に一定に保つ工夫が必要です。 図2は溶離液として水とTHFを用い,脱気装置をOFFにした状態でベースラインを安定化させた後,脱気装置をONにしたときのベースラインの変動の大きさを比較した結果です。 
脱気装置OFF/ON時の示差屈折率変化

図2 脱気装置OFF/ON時の示差屈折率変化
カラムなし,流量:1.0 mL/min 脱気装置:DGU-20A3

 1)については,200nm付近のUV検出とは逆の傾向と言えます。 UV検出では,通常空気の溶解量が大きくなる方が,吸光度が増大します。 
 2)については,一般に溶媒の極性が小さくなるほど,溶存空気量の変化が示差屈折率に与える影響が大きくなることがわかっています。 これは,極性溶媒よりも非極性溶媒の方が空気が溶け込みやすい性質  (参考:気泡発生のメカニズム)  を持ち,脱気装置を起動させた後の溶存空気量変化が大きいことに起因していると考えられます。 
 水系SECと非水系SECの両方の経験をお持ちの方は,おそらく後者の方がベースラインが安定しにくいことを実感されたことがあるでしょう。 非水系SECで示差屈折率検出を行なう場合(および 200nm付近のUV検出を行なう場)には,細心の注意を払って溶存空気量をコントロールする必要があります。
 なお,ここで用いている脱気装置 "DGU-20A3" は 気-液分離膜方式 で,従来品よりも空気透過性の高い膜を採用しており,流路内容積は従来の約 1/20となっていますので,脱気開始から平衡状態に達するまでの時間が大幅に低減されています。 
※この方式では,流路材質の関係上「ヘキサフルオロイソプロパノール」など一部溶媒が使用できないことがありますので,溶離液に使用する溶媒選択にご注意ください。 

 また, アスピレータを用いた減圧脱気 などでオフライン脱気をしすぎると,オフライン脱気後徐々に空気が溶離液に再溶解し,溶存空気量が変化してベースラインが安定しないことがあるので併せてご注意ください。

● 溶離液の温度調節

図3は溶離液びんをウォーターバスに浸け,25℃から 35℃へと加熱した時のベースライン変動を記録した結果です。 
溶離液びん加温時の示差屈折率変化

図3 溶離液びん加温時の示差屈折率変化
カラムなし,溶離液:THF,流量:1.0 mL/min

RIDやカラムオーブンを一定温度にしておいても,溶離液びんの温度を変えただけでベースラインが変動します。 この原因のひとつとして,液温によって空気の溶解量が変化したことが考えられます。 液体は温度が上がるほど空気が溶けにくくなりますから,加温によって溶存空気量が減少し,その結果示差屈折率が大きくなったというわけです。  この影響は効率の良い脱気装置を用いればある程度抑えられますが,ベースラインが安定しない時には,カラムや検出器だけでなく溶離液びんもできるだけ一定温度に保つように工夫しましょう。 また,十分室温に慣らしてから分析を開始すること,断熱材などで溶離液びんを覆うことも効果的です。 

● 溶離液の組成変化とその抑制

 THFやクロロホルムは空気と長時間接触させると酸化等により組成変化するため,これを防ぐため安定剤が添加されています。 THFでは,試薬特級には多くの場合,安定剤としてブチルヒドロキシトルエン(BHT)が添加されています。 一方,HPLC用THFの場合,BHTが強いUV吸収を持つなどの理由から,安定剤不含,窒素ガス封入の状態で販売されています。 さて,どちらの試薬を選んだらよいものでしょうか?
 一般には,BHTを検出することにより測定が妨害されてしまうような検出器を使う場合には,安定剤不含品を選択すべきでしょう。 一方,安定剤が含まれている方がTHFの組成変化が抑えられるため,BHTが直接的な妨害を及ぼさない場合は安定剤含有品を選ぶ方が適切と思われます。 
これを簡単にまとめると表1のようになります。 
表1 THFにおける安定剤の有無と検出器
安定剤を含む試薬を使う方がよい検出器
・示差屈折率検出器

安定剤を含まない試薬を使う方がよい検出器
UV検出(特に200nm付近の短波長域)
蒸発光散乱検出
LC/MS,LCMS/MS

 なお,安定剤を含まない試薬を使用する場合には,試薬の開封日をびんなどに記録し,開封後の経過時間にご注意下さい。 一度開封した溶媒は,窒素ガスを封入した状態で遮光,密閉保存するのが望ましいと考えられます。 また,一連の分析が長時間に及ぶようなら,分析中も溶離液びんを窒素ガスでごく弱く加圧しておくとよいかもしれません。 (このあたりの詳細は,各試薬メーカに問い合わせください。)THFについては,必要以上に大きい容積の溶媒を購入するより,多少割高でも小容量でこまめに購入することをお勧めします。 

 さらに,湿度が高い季節には溶離液びんの口に除湿管としてシリカゲルを詰めたチューブなどをとりつけると,水分の吸収に起因するベースライン変動を抑えることができます。 心配なときは試してみるとよいでしょう。 (Gt)

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