顕微鏡測定のためのサンプリングアクセサリの紹介

赤外顕微鏡測定において,質の良いスペクトルが得られるかどうかは,試料のサンプリングテクニックの巧拙によると言っても過言ではありません。 装置の性能がいくら優れていても,サンプリング方法が不適切であれば,必要とされる情報が得られないこともあります。 サンプリングをうまく行うためには最低限必要な道具をそろえて,それをうまく使いこなすことが必要になります。 ここでは試料のサンプリングを行うための道具として,最低限必要なもの,あれば便利なものなどをご紹介します。

1.最低限必要なもの

実体顕微鏡

赤外顕微鏡測定においては,100μm 以下の試料を測定することが多く,試料を確認するためには,実体顕微鏡が必要になります。 双眼タイプで倍率が数倍〜数十倍の範囲で可変のものが最適です。 最近ではデジタルカメラ内蔵のものや,鏡筒に後付できるデジタル CCD システムなども市販されています。

サンプリングツール

異物などをサンプリングするために必要なものとして,精密ピンセット,精密針,精密ナイフの 3 点セットがあります。 いずれも先端が鋭利なものほどより小さい試料には適しています。 精密針の場合は針の先端が 1μm,5μm などがあり,一つのホルダーで替え針を取り替えるものが便利です。 これらは必要に応じて実験器具カタログなどを参考に買い揃えることをお勧めします。
透過測定を行うために試料の薄片を切り出す場合は,できるだけ厚みの薄い刃を使用します。 安全剃刀やミクロトーム用のステンレス替刃などが適しています。

サンプリングツール
図1 サンプリングツール

透過用窓板

サンプリングした試料を透過法で測定するためには,透過用の窓板に試料をのせなければなりません。 よく用いられる窓板としては,直径 13mmφ,厚さ 2mm の KBr や BaF2などがあります。 KBr は安価ですが傷がつきやすく,また潮解性があって水には弱いので,耐水性を要求される場合は BaF2が適しています。 さらに耐久性が要求される場合にはダイヤモンドの窓板があります( 図2 )。

ダイヤモンドウィンドウ
図2 ダイヤモンドウィンドウ

2.あれば便利なもの

ダイヤモンドセル

ダイヤモンドセルは 2〜3mm のダイヤモンドの窓板が埋め込まれたディスクが 2 枚セットになったもので,試料を挟み込んでプレスすることができます( 図3 )。 硬いものや不定形なものを薄くするときには重宝します。 試料を 2 枚の窓板でプレスした後,測定は試料のついた窓板 1 枚のみを用いて行ないます。 これはダイヤモンドの吸収の影響を少なくするのと干渉縞を防ぐためです。

ダイヤモンドセル
図3 ダイヤモンドセル

マイクロバイスホルダー

顕微 ATR 法,あるいは顕微反射法で局面上の試料を測定したい場合は測定部分を水平に保持することが必要になります。 このような時に便利なものがマイクロバイスホルダーです( 図4 )。 例えば,錠剤表面の異物などを ATR 法で測定する場合は,異物が最上部になるよう試料の角度を調整しながら挟み込んで固定します。 また,バルク試料の切断面を測定するような時も利用できます。 ステージ上で水平方向の回転も可能なのでラインマッピング時の試料の角度調整が簡単にできます。

マイクロバイスホルダー
図4 マイクロバイスホルダー

ミクロトーム

ミクロトームにはさまざまな種類がありますが,FTIR 用の前処理用としてはロータリー式ミクロトームをお勧めします。 多層フィルムの断面を切り出して各層の分析をしたり,樹脂中に内包された異物の分析をするときなどに使用します。 試料が小さくて単独で保持できない場合は,エポキシ樹脂などで包埋する必要があります。 包埋専用の樹脂がありますが,2 液混合型のエポキシ系接着剤で代用できます。
10μm の厚さ設定で切りだした薄片は,透過法で測定すると適度なピーク強度となります。 また,試料断面を顕微 ATR で測定したいときもミクロトームで切り出した断面は適しています。

本箇所に マイクロマニピュレータシステム の 説明文 と 図5(外観図) を掲載していましたが,生産を終了しましたので,本ページから割愛しました。

EZ-Pick

マイクロマニピュレータシステムは精密な作業ができる反面,高価で設置場所に関しても制約があります。 これに対して,仕組みも簡単で操作も簡便なものとして「EZ-Pick」があります。 これは固定した試料に対して針を動かすマニュピレータとは逆の発想に基づいたもので,固定した針に対して試料を載せたステージを移動させるものです。 図 6 の写真のように視野内に針先が見えるように,対物レンズに針のついたホルダーを取り付け,針先に試料を引っ掛けるようにステージを移動させてサンプリングするものです。 針先に付着した試料を落とすためには,ステージ上に固定した針を用意して,それに擦り付ける要領で窓板に落とします。

EZ-Pick
図6 EZ-Pick

実体顕微鏡に応用されたシステムも市販されています( 図7 )。 デジタル画像が PC に取り込めるソフトも付属されており,スケール機能も備わっています。 倍率が数十倍であるため 50μm より小さい異物の摘出は難しくなります。

問い合わせ先:株式会社エス・ティ・ジャパン
TEL(03)3666-2561

Prep Scope II
図7 Prep Scope II

顕微鏡用冷却・加熱装置

温度上昇に伴う接着剤の硬化過程や樹脂の劣化過程を赤外顕微鏡のステージ上で測定するための装置として,冷却・加熱ステージがあります( 図8 )。 温度制御は,室温〜600℃ までの範囲で可能ですが,冷却する場合は,冷却ユニットと液体窒素が必要になります。 この装置を使用すると,特定の温度プログラムのもとで赤外顕微鏡での透過あるいは反射測定が可能です。

問い合わせ先:ジャパンハイテック株式会社
TEL(092)281-7055

顕微鏡用冷却・加熱装置
図8 顕微鏡用冷却・加熱装置

3.まとめ

赤外顕微鏡を用いると,透過法,反射法あるいは ATR 法などによって,さまざまな試料の測定をすることができます。 さらにここでご紹介したアクセサリを利用すれば,より効率的に前処理をしたり,応用範囲を広げることが可能になります。