パワースペクトルの形状は,測定に使用する付属品に使われている窓材や光学系,使用する検出器により変化します。 また,水蒸気や炭酸ガスなどのノイズ成分が重畳するなど,測定環境も大きく影響を与えるために,測定前に,パワースペクトル上に現れる特徴を良く調べておく必要があります。
それでは,実際にいろいろな付属品のパワースペクトルを測定してみましょう。

(1)1回反射形全反射測定装置

全反射測定法(Attenuated Total Reflection 略してATR法)は,赤外光を通す高屈折率物質で作られたプリズム表面にサンプルを密着させて測定します。
サンプルを化学的に前処理したり,機械的に加工せずに分析することができるために,この測定法を利用した付属品は,FTIRの感度向上に伴ってますます増加傾向にあります。

図1は,ZnSe(セレン化亜鉛)のプリズムを,図2は,Ge(ゲルマニウム)のプリズムを取り付けた1回反射形全反射測定装置(製品名:MIRacle)で得られるパワースペクトルです。
ZnSe(セレン化亜鉛),Ge(ゲルマニウム)ともに低波数側において赤外吸収があるため,おおよそ600 cm-1以下でのスペクトルデータは得られません。

ZnSeプリズムのパワースペクトル
図1. MIRacle(ZnSeプリズム)のパワースペクトル
Geプリズムのパワースペクトル
図2. MIRacle(Geプリズム)のパワースペクトル

この全反射測定法は,プリズムからサンプルへの赤外光のもぐり込みにより,スペクトルを測定しますので,サンプルとプリズムの密着性は非常に重要ですが,ゲルマニウムは,Knoop数(硬度)が24と比較的柔らかいために,使用しているうちに表面にキズが付き,サンプルとの密着が悪くなったり,強く押し付けたためにプリズムが割れてしまうなどの不具合が起こることがあります。

DuraSampl IR-IIのパワースペクトル

図3. DuraSampl IR-IIのパワースペクトル

サンプル接触面にダイヤモンドを使用したダイヤモンドATR付属装置は,サンプルを強くプリズム面に接触させることが出来るために,これまでATR法での測定が困難であった硬いサンプルなども測定することができます。
図3は,ダイヤモンドプリズム下にZnSe(セレン化亜鉛)をサポートエレメントとして取り付けた1回反射形全反射測定装置(製品名:DuraSampl IR-II)で得られるパワースペクトルです。
図3を見ると,2700〜1500 cm-1にゆるやかな吸収が観察できます。 これがダイヤモンドの吸収で,屈折率の高いサンプルを測定した場合に,この領域のベースラインが変動するなどの影響があります。

(2)ガスセル,液体セル

ガスや液体を封入するために赤外透過窓板は欠かせません。
サンプルの特性により種々の窓板が使用されますが,定量するピーク位置と窓板の透過領域とを確認する必要もあります。

20μm角にアパーチャを設定した時のパワースペクトル

図4 20μm角にアパーチャーを設定した時のパワースペクトル

(3)赤外顕微鏡

微小サンプルを測定する場合には,赤外顕微鏡が有用です。
微小サンプルを測定する赤外顕微鏡の場合,高感度が要求されるためにMCT検出器が使用されます。
MCT検出器は,微量の赤外光を検出することに優れているため,赤外顕微鏡など光量ロスの多い測定に適していますが,波長感度特性を持ち,カットオフ周波数(感度がゼロになる波長)以下の低波数側に感度がありません。
図4は20μm角にアパーチャーを設定して,測定したパワースペクトルです。