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2050年の質量分析装置

当社グループ海外子会社のMS製品担当者に取材したインタビュー記事です。グローバルにおけるお客様の要望や市場動向,未来のMSへの展望についてご紹介いたします。

1. 初心者でも使いこなせる装置

Levi Mikael

Mikael: 近年では質量分析計は多種多様なラボに設置されています。経験が少なくても業務で質量分析装置を使用しなければならない人が増えてきました。私の経験では,お客様が装置に求めているのは,ソフトウェアあるいはAIによる自己チューニング機能,装置の自動診断機能,そしてとてもシンプルなソフトウェアインターフェース,と感じています。

Nigel: そうですね。お客様は操作が容易で,全てがまとめられたソリューションの提供を受けることに慣れはじめています。装置自身がお客様の作業のワークフローを予想して,次のステップで必要になる情報やアプリケーションを提供することを期待されています。消耗品とメンテナンスサービスをまとめたソリューションの提供も条件になります。今の装置はメンテナンス時期や消耗品の交換日などを予測できるようになりました。ユーザーは今そういうAnalytical Intelligenceを期待するようになっています。

Aniruddha, Nargund sandhya

Sandy: アジアでも同じような傾向が見られます。スマートな装置が求められているのです。島津が持っている技術を効果的に利用して,ユーザーの代わりにMS装置が決断できるようになれば,その期待に応えることができると思います。

Chris: お客様が求めているのは,いろいろな用途に使用できる汎用的な質量分析計というより,特定の課題を解決する「ブラックボックス」だと考えます。私はこれからの数年間に大きな変化があると思います。近い将来には,特定のアプリケーションにカスタマイズされている装置を購入することが一般的になると思います。島津では,優れた装置ハードウェアを活かし,ソフトウェアとファームウェアに注力して,特定の目的に最適化した装置,例えば「農薬分析LCMS」や「ペプチド分析LCMS」などを開発すべきだと思います。

Nigel: アメリカでは少し複雑な課題に直面しています。MSの普及につれて,以前から容易に使えることが求められてきたのは確かなのですが,その一方で,操作する際の柔軟性や自由度を必要とする「エリート」なユーザーも少なくありません。簡単で使いやすい装置も,高度な専門性を持つユーザーがイノベーションを進めるための柔軟性を持つ装置も,メーカーは両方を提供しなければなりません。特に製薬会社は両方の装置を提供するメーカーを評価しています。製薬会社はもちろん最先端のイノベーションを目指しています。一方,日常の定量分析やデータ解析をできるだけ簡単にすることも重要です。メーカーにとって,その異なる目標を同時に満足させるのは大きな課題です。

2. トータル・ソリューションの提供

Song: 自動化が使いやすさと関係していると思います。中国には経験が少ないユーザーも多いので,自動化することで人的ミスを減らすことができます。最近のお客様は装置メンテナンスの自動化も求められています。例えばNexeraが備えている自己診断と自己復帰のような機能です。

Sandy: 確かに自動化は求められていますが,特に私たちが担当しているアジア地域では,装置にかかる費用も重要な考慮事項になります。自動化にかかるコストと労働コストの両方を考えて,バランスをとらないといけません。

Song: 中国では,予算が比較的少ない研究所にもMSの導入が進んでいます。ユーザーはMS以外の装置も操作しなければならないことがよくあって,効率的なワークフローを求めます。ユーザーが不在でも可能な限り稼働するMSが理想です。

Stéphane Moreau

Stephane: 2022年に導入されるEU規制(IVDR)に向けて,MSをラボ自動化システムに接続したいというお客様が最近増えました。これには自動前処理機能と臨床評価済の特定の試薬キットも含まれています。

Sandy: 現在お客様が期待されているのは「トータル・ソリューション」です。そういうソリューションは前処理,消耗品,メソッド,レポートテンプレートなど,全部含むはずです。メソッド開発や試行錯誤に時間を費やすことを避けるのが目的です。そのため,メーカーとして島津は「トータル・ソリューション」を提供する必要があると思うのです。

Moderator: ヨーロッパでも同じ動向が見られていますか?

Stephane: そうです。それに加えて「標準化」が重要だと思います。食品安全や臨床分析などの分野では,国の機関から認可されなければなりません。よって,標準化されたソリューションを求められることが多いです。

Sandy: 1年間のアプリケーションサポートを求めるお客様もいます。島津の技術者が現地でメソッド開発を支援するのです。

Chris Bowen

Chris: もちろん,営業と技術の専門知識を利用して長期間のサポートを提供するのですが,ユーザーがご自身の目標を達成できるようになるまで支援するべきです。その到達点についてはソリューションの一部分としてお客様と相談して決めることになります。

3. 可搬型で省スペースな装置

Sandy: 装置サイズ・寸法の要求が厳しいお客様もおられます。ラボのスペースが全体的に限られているだけではなく,ラボに設置するMS装置の台数も増えているからです。

Nigel Ewing

Nigel: その通りです。特に複数の装置を統合するソフトウェアがある場合は,設置面積が小さくなるなら,装置の性能が少し低くてもいいという場合も少なくありません。ボストンやニューヨークでは多くのイノベーションが目指されていますが,不動産が極めて高くてラボのスペースが限られるので,コンパクトな装置を優先的に導入するラボが増えています。その視点で,LC装置ではNexeraは非常に魅力的ですし,最近はMALDImini-1もお勧めしています。

Chris: MALDImini-1は小さい装置で,そのコンパクトさで関心を持たれる製品の好例です。多くのお客様から「MALDImini-1について詳細を知りたい」と島津にお問合せを受けています。

Nigel: それに,島津は環境にやさしい取り組みを積極的に進めています。これはアメリカのお客様にとって大切なことで,搬入・据付の際には梱包材の量さえ気にされるのです。また,装置を持ち運びできるかも重要なポイントでしょう。例えば環境や食品の分野では,現地・現場で分析できることが求められています。

Jin Song

Song: 中国でも,現地での分析が必要な場合が多いです。例えば,町の屋台の食品の検査では,ラボで分析すれば数日間かかるかもしれません。そうすると結果が出る前にその屋台はもう違うところに移動してしまっています。また,お客様は定性・定量分析で信頼性高い結果を求めていますが,現在の携帯可能な装置はまだその要求を満たしていません。

Chris: ある市場では性能が低くても小さい装置は需要が高いです。例えば,オーストラリアでは,バーやナイトクラブ現場での乱用薬物検査が注目の話題になっています。

Sandy: 私もそう思います。例えば島津のDPiMSは薬物検査が速くて,高感度です。しかし,サイズがまだ大きいのです。この用途でさらに小さくて,さらに速くて,さらに簡単に使える製品を開発したほうがいいと思います。乱用薬物は濃度が高いので,高感度な装置は必要ないでしょう。

Chris: 私が想像しているのは空港で使われているふき取り式爆発物検査装置のようなものです。

4. 未来を想像していく

Moderator: Mikaelさん,MS技術者の視点から,小さくて,使いやすくて,自動化されている装置を開発するために,どうしたらいいと思いますか?どうやって実現できますか?

Mikael: 課題は寸法を小さくするだけではなくて,性能をそのまま,もしくはもっと高くするのが島津の目標です。現在,MS装置を省スペースにするように努力しています。まずはシングル四重極MS装置に取り組みます。新しい技術を開発する必要があって,時間がかかりますが,それができたら同じ技術をトリプル四重極MS装置に,たぶん高分解能MS装置にも適用できると思われます。

Nigel: 理想的な装置を目指してひとつひとつ技術を積み重ねていかなければなりません。技術が開発されたらすぐ製品に適用できるように,理想的な装置とはどういうものか常にビジョンとして持っておくべきだと思います。

まとめ

島津グループの質量分析に関わるメンバーが未来の質量分析装置についてのアイディアを議論しました。高度な専門知識を必要としない使いやすさ,トータル・ソリューションの提供,装置の小型化などはどこの地域でも共通している今後の質量分析装置に求められる要求事項と考えられます。このような要求を満たしたり,ソリューションを提供するために,島津は技術開発を重ね,AIなどの先端技術をさらに活用し,新しい価値を創造に挑戦しつづけます。

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