執筆者紹介

vol.81 分析装置と付き合う心得

土橋 均 先生

大阪医科大学
予防・社会医学講座
法医学教室 准教授 (ご所属・役職は2011年10月発行時)

学生時代,前職の大阪府警科学捜査研究所,現職の大阪医科大学法医学教室で,主に薬毒物分析に携わりながら様々な分析機器を使用してきた。この40年ほどの分析業務の中では,分析装置や分析法などについて,多くの先生,先輩,メーカーの技術者などから種々の知識やアドバイスをいただくことができた。また自分自身でも,分析のやり方のコツのようなものが身に付いてくる。そのような知識や知恵は,折に触れ,後輩たちに伝えてきたのであるが,この機会に「心得」としてまとめてみたので気楽に読んでいただければと思う。

「まず,装置の前に座れ」
機器分析で最も重要なことは,装置を熟知すること。参考書や解説書を読んで知識や理論を身につけることも大切だが,それよりも装置の前に座って実際に作動させる,分析する,メンテナンスをすることが,なにより大切なことだ。良い分析をしようと思えば装置を熟知して,的を射た分析ができるようになることが大切。

「装置を可愛がれ」
分析装置は生き物と同じ。粗末に扱えば良いデータを出さないし,十分に世話をして最高のコンディションを保てば,最高のデータを出してくれる。分析前後にはメンテナンスを怠らず,常に装置の調子を把握しておくことが大切である。その上で,大切な分析の前に「頼むよ」,良いデータを出したときに「さすが」と声をかけてやれば,不思議と良いデータが得られる。

「分析には勘も必要」
どれだけ高額・高性能な装置でも,裁量でデータを出してくれるほどの優秀さはない。特に未知試料の分析には型どおりの分析法で済ますのでなく,試料の外観から採取状況,各種分析結果などを見たうえで,さらに勘を働かせるのが,限られた時間で正しい結果に辿り着くコツ。

「分析結果を疑え」
最近の装置はコンピュータ制御が普通だ。コンピュータが出す結果だから間違いないと考えてしまいがちだが,果たしてそうか? ライブラリ検索,定量計算値などは,最終的には人間の目で確かめて,妥当なデータ処理が実行されたかどうか,結果に矛盾がないかどうか,装置が正確に作動していたかどうかなど分析者自身が確認して,コンピュータを過信しないことが意外に重要である。

「装置は台数分の仕事をするが,人間は人数分の 仕事をしない」
人間は感情の動物なので,人数が増えるほどに人間関係が難しくなって仕事がうまく進まない。その点,分析機器は,導入台数を増やすほどに仕事を捌いてくれる。とはいえ,装置が増加してもメンテナンスが追いつかなければ宝の持ち腐れ。人間はうまく協力して連携できれば,人数以上の能力が発揮できるチームとなるのも世の常だ。

「装置は使わないほど長持ちする」
化学者は装置のこともよく知らずに,乱暴に使いっ放しでメンテナンスもろくにしないから,装置を最高感度で長持ちさせるには使わないことが一番。とは,メーカーで装置の製造経験のある技術者の弁。実際,装置のメンテナンスは分析と同じくらい重要なこと。メンテナンスをこまめにするようになれば,自然と機械を大切に扱うようになるし,イザというときに最高感度で酷使することもできる。

「装置は改良し,開発するもの」
業界により分析内容は様々なので,汎用分析機器で100%の満足を得られるとは限らない。既存の分析装置をニーズに合うように改良したり,専用機を開発したりすることで,分析の高度化,迅速化を計っていく努力が大切である。

「分析の前にまず観察」
機器分析を覚えてしまうと,ついつい機械に頼ってしまいがちになる。均一化して分析装置にかけて定量? そんなことをする前に,拡大鏡下で観察すれば,目的物が目視できることもある。実際,毒物分析で目的毒物の結晶を食品中からより分けられたこと,メーカー識別が製品断面の観察だけでこと足りたことなど,「観察」の重要さを思い知らされたこともしばしばあった。

以上,思いつくままに挙げてみたが,分析を愛する皆さんにはもっと役に立つ心得があるかも知れない。いつか,そんなお話が共にできる機会があることを期待して,拙文を終えたい。

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