vol.86 NOW スポンジ状分離剤を用いた環境分析の簡便化と高感度化

NOWのご執筆
久保 拓也 先生

2013年1月発行
久保 拓也 先生

京都大学大学院工学研究科
材料化学専攻
准教授

(ご所属・役職は2013年1月発行時)

液体クロマトグラフィー(LC)に関連する近年の研究において,充填剤開発ではモノリス型あるいはコアシェル型カラム,システムとしてはUltra High Performance Liquid chromatography(UHPLC)の登場,また,検出に関しても様々な質量分析計や高感度蛍光検出器などが開発されており,LCによる高性能/高感度分析が達成されている。

一方で,分析前段階における技術開発に関しては,ここ10年余り革新的な技術はほとんど開発されておらず,汎用の固相抽出剤の最適化程度に留まり,高感度化は後段の分離カラム/検出器に委ねられてきた。しかし,環境試料や生体試料等の実試料分析においては,前処理における目的物質の濃縮が必須であり,試料に含まれる夾雑成分によっては定量値が不確かな場合も多々ある。例えば,質量分析計において多量の夾雑成分が含まれる場合には,イオンサプレッションの影響で目的成分の定量値が実際よりも低く検出されることがあり,環境試料や生体試料中の特定の成分を知る上では致命的な問題になる。

このような問題を受けて,我々の研究グループでは環境汚染物質の効率的な濃縮技術および環境分析の簡便化/高感度化を目指して,新たな分離剤開発に取り組んできた。通常,環境分析では,低濃度の目的成分(1 ppb以下)を含む試料を多量(場合によっては1L以上)に濃縮する必要があるため,高い通水性と高流速下での吸着能を有した分離剤が有効である。しかし,一般的な粒子充填型あるいはモノリス型の固相抽出剤では,上記を満たすことが難しく,さらに生産性および充填作業等の操作性からもスケールアップが容易ではない。また,もう一つの重要な点として,通常ディスポーザルとして用いられる固相抽出剤は低価格であることが望まれる。そこで,これらの要件を満たす新たな分離剤形態として,我々はスポンジ状基材に着目した。
スポンジと言っても,台所用のスポンジが活用できるわけではなく,吸着性を有して,ラボレベルで合成できる材料を模索し,最終的にエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を基とする多孔性樹脂が有効であることを見出した。

「スポンジモノリス」と称したこの分離剤は,EVAと水溶性高分子の熱混練,成型,水洗浄により得ることができ,成形時の金型で自在に形状を選択することが可能であり,スポンジ状に起因する柔軟性から,合成後に簡便に任意の管内に充填することが可能である(図1参照)。さて,肝心の分離剤としての性能については,図2に示すとおり,一般的な充填剤と通水性を比較した場合には,30 μmの粒子充填型と比較しても高速通液時の負荷圧は低く,通水性の指標である透過度KFは8.5×10-13(m2)となり,一般的な分離剤よりも通水性に優れていることがわかる。さらに,基材であるEVAは比較的疎水性であり,C18型の充填剤とほぼ同等の疎水性を示すこともわかった。

図1 スポンジモノリスの外観とSEM画像
図1 スポンジモノリスの外観とSEM画像
(a)充填時のカラムエンド,(b) 成型後の外観,(c) SEM画像

図2 各充填剤のLCにおける線流速とカラム負荷圧
図2 各充填剤のLCにおける線流速とカラム負荷圧
LC conditions: column size, 100 mm × 4.6 mm i.d.;
mobile phase, MeCN/H2O = 7/3; temperature, 40 ºC

 

これらの基本的な性能を踏まえて,次に,分析前得処理剤としての可能性を見出すために,カラムスイッチング型のLCシステムを用いたビスフェノールA(BPA)の分析例について紹介する。カラムスイッチングLCシステムの詳細については省略するが,分析ラインとは別に独立した前処理ラインを導入し,多量試料濃縮後にバルブ切り替えによって前処理用分離剤への吸着成分を分析ラインに送り,定量分析する手法で,本検討では前処理剤としてスポンジモノリスを適用し,その濃縮効果を検討した。河川水にBPAをスパイクした試料の濃縮前後のクロマトグラムを図3に示した。この比較から明らかなとおり,濃縮前では検出できなかったBPAのピークが濃縮後(50mL濃縮)は,汎用のUV検出ではっきりと見ることが出来る。この際の前処理時の流速は5mL min-1であるが,10mL min-1においても同様に95%以上の回収率でBPAを検出することが可能であった。また,同様のカラムスイッチングシステムを用いることで,図4に示すとおり多種の多環芳香族(polycyclic aromatic hydrocarbons, PAHs)の蛍光検出器での高感度分析も可能となっており,スポンジモノリスが分析前処理剤として有効であることが明らかとなった。

図3 スポンジモノリスを用いた含BPA疑似環境試料の分析前処理
図3 スポンジモノリスを用いた含BPA疑似環境試料の分析前処理

(a): before pretreatment (injection: 50 mL), (b): after pretreatment on spongy monoliths (50 mL)
LC conditions: Analysis– column, Mightysil (150mm × 4.6mm i.d.); mobile phase, MeOH/H2O=6/4; flow rate, 1.0mL min-1; detection, UV 274 nm; temperature, 40 ºC
Concentration– column, spongy monolithic column (100mm × 4.6mm i.d.); temperature, 40 ºC; flow rate, 5.0mL min-1; sample, 0.5mg L-1BPA aqueous solution (50mL)

図4. スポンジモノリスを用いたPAHsの分析前処理
図4 スポンジモノリスを用いたPAHsの分析前処理

LC conditions: Analysis– column, Restek Pinacle II PAH (250mm × 4.6mm i.d.); mobile phase, MeOH/H2O (40 to 100% gradient for 22 min); flow rate, 1.5 mL min-1; detection, fluorescence; temperature, 40 ºC
Concentration– column, spongy monolithic column (50mm × 4.0mm i.d.); temperature, 40 ºC; flow rate, 1.0 mL min-1; sample, PAHs spiked river water including 10% MeCN (10 mL)
PAHs:1. naphthalene; 2. acenaphthene; 3. fluorene; 4.phenanthrene; 5. anthracene; 6. fluoranthene; 7. pyrene; 8. benzo[a]anthracene; 9. chrysene; 10. benzo[b]fluoranthene; 11. benzo[k]fluoranthene; 12. benzo[a]pyrene;13. dibenz[a,h]anthracene; 14. benzo[g,h,l]perylene; 15. indeno[1,2,3-cd]pyrene
PAHs Conc.:2, 3, 4, 7, 8, 12, 13, 14, 15 (10 ng L-1); 5, 6, 9, 10, 11 (20 ng L-1); 1,13 (100 ng L-1)
Detection (excitation/ emission):λ1(270/330 nm); λ2 (250/370 nm); λ3 (330/430 nm); λ4 (270/390 nm); λ5 (290/430 nm); λ6 (370/460 nm)

 
 

上述のように,スポンジ様材料を分離剤として用いることで,実試料分析の高速化および低コスト化の可能性が示唆された。冒頭で述べたとおり,LCシステム本体の技術開発による分析の高性能化/高感度化が進む一方で,今回紹介したような分析前処理の効率化による高感度化は,汎用の検出機器で十分に対応できることから,まだまだ研究開発の余地があると考えられる。現状,スポンジモノリスは通常の分離剤と比べ吸着容量の点でやや劣るが,近い将来,汎用の分離剤として広く普及することを期待する。

 

参考文献

  • Tanigawa, T., Kato, K., Watabe, Y.,Kubo, T., Hosoya, K.J. Sep. Sci. 2011, 34, 2193–2198.
  • Watanabe, F.,Kubo, T., Kaya, K., Hosoya, K.J. Chromatogr. A 2009, 1216, 7402–7408.
  • Kubo, T., Watanabe, F., Kaya, K., Hosoya, K.Chem. Lett. 2008, 37, 950–951.

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