vol.84 大学人も少しは日本のイノベーションを支えたい

talkのご執筆
安井 裕之 先生

2012年7月 発行
安井 裕之先生

京都薬科大学 代謝分析学分野 教授

(ご所属・役職は2012年7月発行時)

今年になってからiPad とiPhone を購入し,片道約1 時間の通勤電車で活用するようになりました。
購入前は,利便性や機能性をあまり期待していなかったのですが,実際に使い慣れてくると「これは確かにすごい!」と痛感するようになりました。まず,大学のWeb メールにアクセスして事務的なメールのやり取りはほぼ片づけられます。PDF ファイルが読めるので文献のチェックはもちろんのこと,Word,Excel,PPT ファイルの作成,修正もお手の物です。その時に思いついたことや思い出したこと,事務的な連絡事項などをメモソフトで入力し,そのままメールで秘書さんに送っておけば,オフィス到着時には体裁が整えられた立派な書類がデスクの上に置いてあります。何故もっと早く日常生活に導入しなかったのかと,今では悔やむ有様です。

しかし,大きな不満もあります。「ワンセグ」による地上デジタルテレビ放送をiPad やiPhone では見ることが出来ないからです。ご存じのように,「ワンセグ」は携帯電話などの携帯機器を受信対象として開発された日本独自の地デジ技術です。これって,世界に誇れるジャパンオリジナルのイノベーションだと思いませんか?それなのにグローバルにはほとんど普及していない,いわゆるガラパゴス化してしまっているのは何故なのか。

そんなこともあって,昨今とみに話題となっている日本のイノベーションについて今更ながら興味がわいてきてサーチしてみると,着眼点が面白いレポートを見つけました。ニューヨーク・タイムズのサイエンス・コラムにInnovation Report Cardという記事があり,欧州諸国によるThe Innovation for Development Report という特集が紹介されていました。これによると(米国領導でないところに公平性を感じます),世界各国の起こしうる総合力(Innovation Capacity Index: ICI)を評価したところ,世界の131 カ国中での総合ランクは,1 位スウェーデン,2 位フィンランド,3 位米国であったそうです。
ちなみに日本は15 位です。ICI は次の5 つのカテゴリー(内の数値は日本の順位)について各国のパフォーマンスを総合的に評価し点数化したもので,ICI に経済収入や政治形態を加味して上位の27 カ国を世界の一流国と見なしています。

  1. [1] イノベーションをサポートしやすい政治・経済の仕組み(35 位)
  2. [2] 高い教育レベルと女性の社会活動参画率(29 位)
  3. [3] 起業しやすいビジネス環境を醸成する規制や法制度の整備(17 位)
  4. [4] 効率を考量した研究開発によるアウトプット・インフラ・パテント(4 位)
  5. [5] IT 技術のインフラ整備と一般家庭・公共サービス・政府のIT 普及度(22 位)

日本は研究開発の成果数では世界トップクラスですが,なんと他のカテゴリーでは2 流国のようです。特に[1]と[2]が低いわけですが,これは政府主導によるイノベーション改善策が失敗していること,大学における高等教育のレベルが低すぎること,女性が活躍できる雇用の流動性が確保されていないこと等を意味しています。大学で働く人間が日本のイノベーション向上に少しでも貢献できるとすれば「教育レベルの質的向上と女性の社会進出促進」だと痛感します(研究開発の野望も捨て切れませんが)。

今の日本は転換期の局面にありますが,この閉塞的な状況の中で新しい運動・移動・活動を導入できる若い世代を何としてでも育てなければなりません。では,どんな人を?となると,本当は意外なところから登場する「思いがけない才能の人」かも知れません。歴史的に見ても,転換点に活躍する人は「誰も見ていなかった場所」から出てきている様に思います。大学であれ企業であれ,この混乱期を生き残る(目的)組織は「3%くらいの異才を含めた個人の創意・工夫を潰さないこと」(手段)をまじめに実践している組織だけと予感しています。

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