vol.80 六年制薬学教育と分析化学 -京都薬科大学の場合-

talkのご執筆
坂根 稔康先生

2011年7月発行
坂根 稔康 先生

京都薬科大学
薬剤学分野 准教授


(ご所属・役職は2011年7月発行時)

2010年は日本の薬学教育にとって,新たな歴史が始まった1年であった。薬学部が六年制へと移行して四年が経過し,六年制の1期生が5年生へと進級した。初の学部5年生の誕生である。京都薬科大学では研究重視の観点から学部生は3年生後期から研究室へ分属し,研究活動を開始する。学生生活六年間の三年半を研究室に籍を置くことになる。この間「総合薬学研究」の名のもと,卒業研究を行う。三年半があるとはいうものの,4年生後期には共用試験対策と病院・薬局実習の事前実習,6年生後期には国家試験対策があり,研究する時間はない。3年生と4年生の午前中は全て授業で埋まっている。5年生では五ヶ月におよぶ病院・薬局実習が入る。このように研究できる期間はコマ切れであり,長くても半年である。コマ切れの時間を足し合わせても,実質一年半から二年ではないかと思われる。このようなコマ切れの期間では,研究に関連する様々な技術やノウハウを身につける時間は十分とは言い難い。

たとえば,HPLCの使用はマニュアル化されている。メーカーが異なるHPLCの使用はゼロからのスタートであろう。HPLCによる薬物の定量条件を最初から決定できる学生,HPLCのメインテナンスやトラブルに対応できる学生は皆無といっても過言ではない。これまではある程度の知識やノウハウを持つ大学院生が学部生の研究指導の一部を(いや,大部分を)担ってくれた。HPLCの使い方や原理なども含めて,先輩・後輩の仲で技術やノウハウが伝えられてきた。しかし,本年4月からは大学院生は激減し,学部学生の研究指導の手薄な状況に拍車がかかる。ちなみに,私の研究室では教員3名に対して各学年30名弱で,学生総数は約80名である。後期には3年生が新たに分属し,約110名に膨れあがる。

京都薬科大学では,卒業後,製薬メーカーの研究職や開発職を希望する学生の比率が高い。大学教員の立場からみた印象としては修業年限こそ六年間であるが,これまでの修士課程大学院生とは異なり,六年制薬学部卒業生は研究に関して明らかに力不足,経験不足である。このような状況で学生の就職状況がどうなるか心配していたが,杞憂であった。一部の6年生に対して内定が出始めたが,大手製薬メーカーの研究職に内定する学生もいて,過去の大学院生の内定状況と遜色はない。ただ,一期生の評価がその後の就職状況を大きく左右する可能性が高いと感じている。一期生の責任は重大であるが,健闘を期待したい。

ところで,私の研究分野は薬物動態学である。研究の中で,細胞層を用いたin vitro透過実験や動物への薬物投与実験を行い,薬物濃度を測定する。低濃度の薬物を測定する必要がある場合も多い。このような時,かつては放射標識体を利用することが多かったが,薬物に代謝物が存在する場合,代謝物と親薬物を区別して測定することは非常に煩雑であった。また,一般に放射標識体は高価で,入手できるとは限らない。さらに放射性廃棄物の処理などに多大なコストがかかった。しかし,近年の質量分析機器の発展にともない,LC/MSあるいはLC/MS/MSが身近な存在となり,特異性の高い高感度測定が可能となった。LC/MSは現在,最も必要性を感じている分析機器の一つである。以前に比べると値段は下がったとはいうものの,いまだ高価である。共同利用機器としては利用可能であるが,これらの機器が身近にあって自由に使える環境では研究の幅が大きく拡大するだろうと感じている。学生の頃からずっと島津さんのHPLCを利用し,その優れた性能,使い勝手の良さや耐久性を実感してきた研究者の1 人として,島津さんの価格破壊を期待している今日この頃である。

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