vol.74 アフィニティーを利用した液体クロマトグラフィー用充填剤

talkのご執筆
萩中淳先生

2009年10月発行
萩中 淳 先生

武庫川女子大学薬学部
教授

(ご所属・役職は2009年10月発行時)

液体クロマトグラフィー(LC)の今日の発展は,高性能充填剤の開発に負うところが大きい。 高分離能のLC 用充填剤として,従来の全多孔粒子充填剤とともに,モノリス型,シェル型,全多孔性微粒子充填剤が分析対象物質の高速分離に適用されている。 しかし,これらの高分離能充填剤の対極にあるのが,高機能充填剤である。例えば,生体試料の直接注入のための浸透制限型充填剤(restricted access media, RAM),光学活性化合物の分離のためのキラル充填剤,分子インプリント充填剤などが高機能充填剤と言えよう。 高機能充填剤のなかでも,筆者が関わってきたアフィニティーを利用したLC用充填剤について述べてみたいと思う。

タンパク質を固定化したキラル充填剤は,アフィニティーを利用した充填剤である。 タンパク質および糖タンパク質は,キラリティーをもったアミノ酸あるいは糖から構成されているため,光学認識能を有している。 牛血清アルブミン,ヒト血清アルブミン,α1- 酸性糖タンパク質,オボムコイド(OVM),アビジンなどのタンパク質を固定化した充填剤,セロビオヒドラーゼ,ペプシンなどの酵素を固定化した充填剤が市販されている。 市販されているOVMを固定化した充填剤は,約90% のOVM と約10%のオボグリコプロテイン(OGP)からなる粗OVMから合成されている。粗OVM より,OVM およびOGP を単離し,キラル充填剤を合成したところ,OVM 固定化充填剤には光学認識能が全く無く,OGP 固定化充填剤は市販のOVM 固定化充填剤より優れた光学認識能を示したことから,市販のOVM カラムの光学認識能は,OGP に起因していることが明らかとなった。 さらに,OGP のアミノ酸配列を決定したところ,OGP はヒト,ウサギあるいはハクチョウのα1- 酸性糖タンパク質と約30% の相同性を示した。 これらの結果は,市販のOVM 固定化充填剤の光学認識能の本体はOVM ではなく,ニワトリα1- 酸性糖タンパク質であることを示唆している。

分子インプリントポリマー(MIP)は,分析対象物質(鋳型分子)と相互作用を持つモノマー(機能性モノマー)との複合体を形成させ, 架橋剤の存在下で重合させた後,鋳型分子を除去することでポリマー内に分析対象物質を特異的に認識する部位を形成させる方法である。 MIP は,人工抗体あるいは人工レセプターとも呼ばれ,アフィニティーを利用した充填剤として分析対象物質の特異的認識に利用されている。 また,MIP はスウェーデン,フランス,アメリカの企業から,現在市販されている。

従来,MIP は非水系での塊状重合法により調製され,LC 用充填剤として利用するためには,破砕した後,分級するという煩雑な操作が必要であった。 さらに,カラム性能が低い,水系での分子認識能 が低いという欠点も有していた。 そこで,多段階膨潤重合法を用いた,粒子径の均一なMIP および浸透制限型-MIP(RAM-MIP)の調製法を開発した。 MIP およびRAM-MIP は,目的対象物質の分子認識あるいは光学認識への適用,目的対象物質の選択的捕捉,不要成分の除去,生体試料および環境試料中の分析対象成分の選択的濃縮等に利用されている。 抗体が交差反応性(目的対象物質の類縁化合物とも反応すること)を示すことはよく知られているが,MIP も交差反応性を示すため,群特異的な認識(一連の化合物群の認識,薬物とその代謝物の認識等)にも利用されている。 アフィニティーを利用した充填剤は,分析対象物質の特異的な認識が可能なことから,今後のさらなる発展が期待される。

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