vol.62 「HPLCの発展とLC/MS」

talkのご執筆
大津 善明 先生

2006年10月 発行
大津 善明 先生

アステラス製薬株式会社 代謝研究所

(ご所属は2006年10月発行時。 2007年10月時 Astellas Pharma Europe B.V.  Exploratory Development Department Section Bioanalysis, オランダ)

ベンチャー企業が急成長して,新聞の一面を飾る。 外部からは順風満帆に見えた会社がある日突然破綻する。 最近の新聞は驚くことばかりです。 変化の激しい時代にあって,どの会社も従業員を漫然と働かせるのではなく,一人ひとりにはっきりとした成果をもとめるようになってきているようです。 ちなみに弊社もその例外ではありません。

目を転じて,10年前。 私は大学の4回生でした。 研究室に配属され,HPLCを使い始めたときです。 LC/MSは身近なものではなく,UV検出器をdetectorとしたHPLCが研究室で主役を務めていました。 たしか,島津製作所の10Aシリーズであったと記憶します。 複雑なマトリックスから微量な対象物質を分離定量できるさまに目を見張ったものでした。 また,しばらく経ってHPLC分析には分析カラム,移動相,カラム温度,グラジエントプログラム等々,多くのパラメーターが用意されていることを知り,これらを早く使いこなし何でも分離できるようになりたいと真に願ったものでした。

会社に入ってもHPLCとの縁は切れず,薬物動態といわれる分野で生体試料中の微量薬物濃度を測定するようになりました。 大学時代に引き続いて分離技術の上達に励んでおりました折,急速にLC/MSが私たちの研究分野に導入されるようになりました。 前処理やLC分離はそこそこに,質量分析器の選択性を頼りに早く高感度に分析できることがいわば流行だったように思います。 HPLCと質量分析器を接続するだけで,こんなすごいことができるのかと感心する一方,大学時代から分離技術に親しんできた私としては,すこしばかりさびしい思いをしたのも事実でした。

しばし時は流れ,LC/MSでの分析例が増えてきた頃のこと。 高濃度試料を注入後,ブランク試料を注入するとないはずの分析対象物質が検出される,いわゆるキャリーオーバーが散見されるようになりました。 また,分析対象物質と同時に溶出する物質が分析対象物質のイオン化を抑制する,いわゆるイオンサプレッションも話題となりました。 こういった事例は,LC/MSを使うにあたって,質量分析器ばかりに注目してきた私たちにとって,新鮮な驚きでした。 しかし,考えてみればあたりまえのことで,LC/MSというからには,その要素の一つであるLCも無視してよいわけはないのです。 以前「接続するだけで,こんなすごいことが」と驚いた私はやはり浅はかでありました。 なお,キャリーオーバーはオートサンプラー洗浄液の選択,さらにはオートサンプラーの設計により大幅に軽減できることが分かってきました。 また,イオンサプレッションは,前処理の徹底,もしくはHPLCによる分離によりかなり解決することも知られるようになりました。

先に会社と成果主義に触れました。 会社も多くの要素(従業員)が組み合わさったものという意味では,LC/MSに似たところがあります。 今,LC/MSの成長段階に立ち会って学んだように,どの要素(従業員)も軽視してよいわけはなく,皆が十分働いてこそ会社としても厳しい時代をくぐり抜けていけるのでしょう。 そう考えると身の引き締まる思いがいたします。

今年9月に幕張メッセで開催された分析展にも行ってまいりましたが,島津製作所ブースのみならず,某MSメーカーのブースにも島津製作所製HPLCの姿がありました。 LC/MSを購入者が選定する際,HPLCもかなり慎重に選ばれるようになったそうです。 HPLC分離技術が再び注目を集めるようになったと言うこともでき,私としてはうれしい限りです。 装置の横に立ってらっしゃった島津製作所社員さんの顔が誇らしげだったのが印象的でした。 まだ若輩者の私としては,すばらしい装置に負けないような成果を挙げ,会社さらには社会に貢献したいと考えています。

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