vol.60 「研究生活30年の反省と期待」

talkのご執筆
竹内 豊英 先生

2006年1月 発行
竹内 豊英 先生

岐阜大学工学部 教授

(ご所属・役職は2006年1月発行時)

筆者が卒論に着手して丁度30年になる。 名古屋大学工学部工業分析化学第1講座を主宰しておられた石井大道先生からいただいた卒論のテーマは,液体クロマトグラフィーにおけるミクロカラムの材質に関する研究で,テフロンカラムが他の材質に見劣りすることがないことを検証することであった。 当時,内径が 0.5mm程度のチューブはテフロン管の他に,ステンレス管,ポリエチレン管などが入手でき,ガラス管や石英管は実験室で延伸して作製した。 結果は研究室の期待に反することとなり,ガラス管や石英管で作製したカラムが群を抜いてよい性能を与えることがわかった。 一方,ガラスをエッチングした後で充填すると性能の低いカラムしか得られなかったことから表面の滑らかさと不活性さが重要であると結論した。 ただ,ガラス管や石英管は脆弱で取り扱うにはとても不便であった。 しかし,これも 3年ほど経つとフューズドシリカキャピラリーの登場で救われることになる。 これをきっかけにガスクロマトグラフィーではキャピラリーカラムが充填カラムを次第に置き換えていき,キャピラリー電気泳動関連の研究が急速に広まっていく。 このようにひとつの材料開発が大きな技術革新をもたらすことがあり,そのような開発研究を目指したいと常々願う。

キャピラリー電気泳動の高性能と急速な研究の進展を横目でにらみながら,筆者は移動相や固定相に支援された検出法の開発をはじめとしてキャピラリーLCの特徴を活かした研究を目指してきた。 少しでも新しいこと,何かオリジナリティーのある研究を模索した。 もしかしたら論文の書きやすい研究を目指したのかもしれない。 そのためか,わがままな研究が多かったのではないかと反省している。惜しむべきことはキャピラリーLCの普及がまだ充分図られていないことである。 この一因として高性能なキャピラリーカラムおよびその周辺技術の開発が遅れたことが挙げられる。 ただ,最近になって海外のメーカーによりキャピラリーカラムに適した六方バルブ,インジェクター,コネクター,フィルター等が開発され,ユーザーフレンドリーなシステムの登場も近い予感がしている。 是非日本発のパーツや技術が発信されることを期待して止まない。

1985年から1年1ヶ月,米国アイオワ州のAmes研究所(E.S. Yeung研究室)に留学する機会を得た。 幸か不幸か使う予定だった HeCdレーザーが故障で計画した研究実験も始められない中,当時小生が占有できたのはミルトンロイのポンプ1台と古いUV検出器であった。 研究室には天びんもなく,試料瓶は検出器の熱で乾燥させた。 確かに実験器具には不自由したが,毎日自由な時間をもつことができたのは今から考えると羨ましい限りである。

歳を重ねるにつれて会議や講義で研究の現場から遠ざかることが多くなりつつあることに危惧の念を抱いている。 国立大学が法人化され,それに一層拍車がかかったような気がする。 現場での手取り足取りの指導も次第に難しくなり,学生諸君には大変申し訳なく思う。 一方で,彼らが自由奔放に実験を行うことで思ってもいなかったことが展開するかもしれないと淡い期待を抱くことで自分を慰めている。 研究室のセミナーで「カラムを作りましたが,よい結果が出ませんでした」と,数枚のプレゼンテーションで研究報告を済ませる学生もこのごろ少なくない。 帰り際に実験室をちょっと覗いてみると,キャピラリーカラムがコンベンショナルLC用のインジェクターに連結されているのを見て愕然とすることもある。 指導者はやはり現場を離れてはいけないとそのたびに思う。

研究室の努力目標としてどんな小さなことでもよいから「社会に貢献しよう」と謳っている。 家族や知人にも容易にわかってもらえるような社会に役立つ研究を残された時間に展開できることを切に願っている。

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