vol.53 「タンパク質の逆相分離でわかったこと」

talkのご執筆
二村 典行 先生

2004年1月 発行
二村 典行 先生

北里大学 薬学部 講師

(ご所属・役職は2004年1月発行時。 2007年9月時:城西国際大学 薬学部 生体分析学講座 教授)

 タンパク質のグラジェント逆相分離は,ごく日常的に行われるようになってきたが,以外と知られていないポイントが多くあるのも事実である。 そこで,筆者らの検討で得られた知見を中心にまとめてみることにする。

長いカラムは必要ない:
逆相HPLCに注入されたタンパク質は,カラム入り口付近の固定相に分配吸着され,移動相中の有機溶媒含量がある一定濃度に達すると固定相表面から脱離するが,一旦脱離したタンパク質は,二度と固定相と相互作用することなくカラム内を素通りする。 従って,最初にタンパク質を保持するに必要な固定相表面が存在するだけでよい。

充填剤の粒子径依存性は小さい:
前述のように,タンパク質の挙動は,非保持成分の挙動に類似している。 すなわち,カラム内で保持(吸着)と脱離を繰り返すことによるピーク拡散は考慮する必要がない。 従って,20μm程度の粒子径の充填剤カラムでも,分離効率を低下させることなく高速分離が可能となった。

低温での高速分離が回収率を向上させる:
室温以下の低温で高速分離を行うことで,従来カラムからの回収が著しく低かった,疎水性が高い,あるいは分子量の大きいタンパク質の回収が著しく改善された。

低温での高速分離でタンパク質の高次構造識別が可能になる:
一般的な逆相分離の条件下では,タンパク質は固定相上でunfoldして(折りたたみ構造が解除されて)保持されるが,低温で高速分離を実施すると,一部のタンパク質ではnativeな(folding)タンパク質が溶媒先端付近に回収されるようになり,逆相LCでタンパク質の高次構造の違いが識別されるようになった。

固定相のアルキル鎖長の影響は小さい:
一般的な低分子化合物は化学結合相中(アルキル鎖間の間隙)に浸透して保持されるため,化学結合相のアルキル鎖長に依存して保持時間が変化するが,タンパク質は化学結合相中に浸透しないため,固定相のアルキル鎖長が変化しても保持時間はほとんど変化しない。

C30アルキル固定相は分解能が高い:
炭素鎖30のアルキル固定相でタンパク質を逆相分離すると,従来のC18以下の固定相で分離した場合より,理由は定かではないが,クロマトグラム上の細部での分解能が向上していることがわかった。

タンパク質とペプチドとの境は分子量3,500付近:
上述してきたように,タンパク質の逆相分離は,低分子のそれとはずいぶん様子を異にする。 アミノ酸誘導体や小さなペプチド(アミン酸残基数個程度)の逆相分離の機構は,一般的な逆相分配モードに従っていることが知られており,同じペプチド構造を有しているペプチドとタンパク質とで異なった分離機構が関与していることになる。 そこで,分離量範囲の広範なペプチド,タンパク質を試料として詳細な検討を実施したところ,タンパク質のような特殊な分離機構を示す臨界点は分子量3,500~4,000付近にあることが示された。

ジオールシリカゲルカラムで血清試料直接注入分析が可能:
前述したように,低分子化合物は化学結合相中に浸透するがタンパク質は浸透しない。 ジオール結合相は,表面に親水性,内部に疎水性を併せ持っている(binary-layered phase)ため,タンパク質はサイズ排除のモードで溶媒先端付近に回収されるが,低分子化合物は内部の疎水性部分に浸透して適当に保持される。 これにより,ジオールシリカゲルカラムに薬物を含む血清試料を直接注入して,血中薬物の測定が可能となった。

溶媒和クロマトグラフィーで血清試料直接注入分析が可能:
逆相LCにおいて移動相中の有機溶媒濃度を,血清アルブミンが完全に溶媒和される濃度に設定しておくことにより,アルブミンがサイズ排除のモードで溶媒先端付近に回収されるようになる。 この条件下で逆相カラムに保持される低分子化合物は相互に分離される。これにより,一般的な逆相カラムでも血清試料直接注入分析が可能であることが示された。

以上,タンパク質を扱っているクロマトグラファーの方に多少なりとも参考になれば幸いと思います。

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