vol.106 液体クロマトグラフィー研究懇談会に関わる最近の話題

東京理科大学 中村 洋 先生

2019年1月 発行
中村 洋 先生

東京理科大学
(ご所属・役職は2019年1月発行時)

2019年の干支は己亥(つちのとい)です。己は成熟・完成したものが次の発展を目指して準備する意,亥はエネルギーが蓄えられた意味があるので,「2019」の語呂合わせで「ブレイク」する年にしたいものである。奇しくも今年はクロマトグラフィーの創始(Tswett,1903~1906)から約115年,HPLCの誕生(Kirkland,1969)から50年,液体クロマトグラフィー(LC)研究懇談会の創設(1974)から45年の節目に当たる。この度,執筆の機会を戴いたので,LC研究懇談会(LC懇と略記)の活動を通してLCに関する最近の動きを以下にご紹介したい。

先ず,2018年度から新規事業として取り挙げた下記①~③,及びその他の事業④ ~⑦についてその要点を説明する。なお,①~③の何れについてもLC懇が主催する第24回LC & LC/MSテクノプラザ(2019年1月17日・18日,横浜情報文化センター)において関係者から講演が行われる。詳細については,LC懇ホームページの該当する項目をご覧戴きたい。

① LC科学遺産
我が国に海外のLC装置が導入されて以来,国産化と関連製品の高度化,手法開発の努力が継続され,その成果として世界に誇るハード・ソフトが日本に誕生している。人の記憶や資料の保存も概ね50年が限界であるので,将来のために温故知新の材料として,優れたLC科学遺産を認定する事はLC懇の使命でもある。LC科学遺産は,「日本における液体クロマトグラフィーの発展にとって,歴史的な観点から顕著な貢献があったと認められるもの」との定義に則り,選考委員会で選考の結果,1991年2月に上市された「高速液体クロマトグラフLC-10Aシリーズ」(島津製作所)がその第1号に認定された。
私共の今回の科学遺産認定制度の発足が契機となり,同様の動きが(公社)日本分析化学会(JSAC)或いは他の研究懇談会にも広がる事を願っている。

② CERIクロマトグラフィー分析賞
本賞は,(一財)化学物質評価研究機構のご厚意で「液体クロマトグラフィーを利用した研究分野で優秀な研究成果を挙げた者」を年間1件表彰し副賞(10万円)を差し上げる制度に基づくものであり,今回がその第1回目に当たる。複数の候補者を慎重に選考した結果,三上博久氏(島津総合サービス)が栄えある初の受賞者と決定した。研究業績は,「誘導体化HPLC検出法の開発と装置化」である。

③ 優良企業認定制度
本制度は,LC及びLC/MSに関連する企業を対象に,その製品の性能・品質並びに社会的責任(CSR)の達成度や永続性などの観点を総合して優良企業を認定するものであり,専門家集団の立場から信頼に足る企業を提示し,ユーザーが製品を選択・購入する際に有益な判断基準を提供する事を目的としている。現在,2019年度の優良企業を3月上旬に発表すべく,LC懇内に設置した優良企業認定委員会において,i)HPLC装置,ii)LC/MS装置,iii)カラム・充塡剤,iv)前処理器材,v)試薬・溶媒・水,vi)その他の6分野において認定作業を開始している。

④ 創立45周年記念事業
本年12月3日(LC懇談会制定によるLCの日)に記念式典,記念講演会,記念祝賀会を開催し,参加者にLC懇創立45周年記念誌を無料で差し上げる予定で準備を進めている。10章から構成される本記念誌の第10章には,LC懇会員の方々による記念寄稿を掲載するので,奮って投稿戴ければ幸いである。

⑤ その他のLC懇主催事業
年間12回行う例会,LC & LC/MSテクノプラザ(2日間の発表会),LC- & LC/MS-DAYs(1泊2日の研修会),年に2回程度実施される液体クロマトグラフィー特別講演会・見学会,LC/MS, LC/MS/MSに関する実用書の出版(オーム社)についてはLC懇のホームページをご覧戴きたい。なお,上記の主要な活動に参加された役員・準役員以外の一般会員のうち,ポイントが多かった方を対象に最優秀一般会員賞を2017年度から創設し,2017年度は6名の方を表彰した。

⑥ 他機関への協力事業
JSAC関東支部主催の機器分析講習会における第2コース「LC, LC/MSの基礎と実践」講習会,JAIMAセミナー(これであなたも専門家―LC編,これであなたも専門家―セパレーションサイエンス編),JISにおける高速液体クロマトグラフィー通則,高速液体クロマトグラフィー質量分析通則などの原案作成委員会(日本規格協会)などへもLC懇から積極的に講師・委員の派遣を行っている。

⑦ JSAC分析士認証制度
第1回目の2010年度LC分析士初段認証試験以来,島津製作所東京支社イベントホール等を今日まで無料で拝借し,2017年度からは同社京都本社でも試験会場を拝借出来る事になり,LC分析士初段試験とLC/MS分析士初段試験の東京と京都での同時開催が初めて実現した。更に,2018年度からは初段に加えて二段についてもLC分析士とLC/MS分析士の東西同時開催が実現した。これは島津製作所の絶大なご協力により実現出来たものであり,感謝に堪えない。お蔭様で,LC,LC/MS,IC(イオンクロマトグラフィー)の3分野の何れかで登録された分析士は,現在までに2,300名程に達している。
2018年12月3日(月),久し振りに分析士会総会・研修講演会が五反田文化会館で開催され,全国から参加した17名が幹事に就任した。なお,LC及びLC/MS分野における分析士認証試験解説書は現在17冊目を印刷中であり,合計30冊(初段から三段までを5年間分)を出版する予定である。

分析士会新幹事(2018年12月3日)

分析士会新幹事(2018年12月3日)

さて,最近の例会で頻繁に飛び交う用語は,分離ではコアシェル充塡剤・カラム,HILIC,検出ではMSである。中でもMSは,他の検出器と比較して格段に多機能・高感度・高選択的であり,LC用万能検出器として爆発的な普及を遂げている。所で,筆者が助教授であった1980年代後半,科学新聞の対談前後の時間に石田泰夫氏(当時島津製作所技術部長,後に事業部長)と雑談した折,『島津はトップランナーを目指さないんですか』と質問したところ,『それをやるとリスクが大きいので,行けると分かったら追い抜く実力を普段から蓄えておくのが当社のポリシー』と切り返された。島津製作所初のLC-MS/MSであるLCMS-8030を上市した折には,大阪と東京のキャンペーンにお付き合いしたが,最新のLCMS-9030の実力を拝見すると石田氏の言葉を想い出す。やれば出来る企業力,技術力は流石という外ない。昨近,学協会の会員減少が顕著であるが,LC懇は2018年度までに会員増強小委員会,活性化小委員会を立ち上げ,会員数を維持出来ている。島津製作所にはLC懇に今後も変わらぬご支援をお願いして筆を擱く。

執筆者紹介

東京大学大学院博士課程中退(1971)後,直ちに東京大学薬学部教務職員(1971),助手(1973),米国NIHのResearch Fellow(1974~1976),助教授(1986)を経て,東京理科大学薬学部教授(1994),同・嘱託教授(2011),同・名誉教授(2015)。現在,(公社)日本分析化学会分析士会会長,同・液体クロマトグラフィー研究懇談会委員長など。

【専門分野】分析科学,分離科学
【将来の夢】人財育成
【趣  味】植物育成と旅行

関連情報

Top of This Page