vol.101 HPLCとの出会い,発展,
そして糖タンパク質の糖鎖解析へのHPLCの適用

2017年10月 発行
水野 保子 先生

株式会社東レリサーチセンター
(ご所属・役職は2017年10月発行時)

私とHPLCの出会いは,学生時代に遡りますが,自分で精製したタンパク質(レクチン:糖鎖を認識するタンパク質)のアミノ酸組成を算出するために使用した「アミノ酸分析計」になります。4種類の移動相とポストラベル用のニンヒドリン試薬を使用しなければならなかったこと,装置の立ち上げが大変だったこと,プログラムを入力する部分の基盤が扱いにくかったことなどから,複雑で面倒な装置という印象でした。

入社直後はイムノアッセイや電気泳動を担当していましたが,その後幸運にも?糖タンパク質の構造解析に携わることになり,多くの分離モードのカラムを使用してきました。その際の測定機器はほぼ島津製作所のHPLCでした。その頃は機器導入時の据付担当者にメンテナンスも含めHPLCに関して多くのことを教えてもらいました。そのおかげでHPLCの扱い・知識が増え,また自分でもかなり修理ができるようになりました。機器トラブルは喜ばしいことではありませんが,機器の内部を観察しながらの修理は意外と楽しく,修理が完了したときには達成感も感じていました。今は機器のブラックボックス化が進み,またCSVやPart 11対応が必要なことから,自力で修理することも少なくなっているようですが。

さて,糖タンパク質の構造解析の担当になったものの,現実は途方に暮れていました。というのも,タンパク質の精製・分析は学生時代に経験していますが,糖分析の経験が全くなかったからです。糖関連の研究室出身ということで担当を任されましたが,糖分析についての知識もなく,社内で誰もやったことがないため相談相手もなく,と悲惨な状況でした。とにかく糖分析に関係ありそうな文献・書籍を片っ端から読み,行き詰ったときには文献の著者に直接電話して教えを請うなどして,何とか糖分析を立ち上げました。

糖組成分析では,島津の三上博久先生,近大の本田進先生(当時の所属)などの論文・書籍を参考にし,中性糖,アミノ糖,シアル酸など糖の種類や性質に応じた加水分解条件及びHPLC条件を最適化し,測定法を構築しました1)。糖は紫外や可視に吸収がないので,選択性と検出感度をあげるためポストカラムで蛍光標識する方法を採用しました。実際に分析を始めると,環境などから混入するグルコースやキシロースのコンタミや,塩濃度の高い移動相の使用による塩の析出など多くの問題がありました。例えば,塩の析出対策として測定ごとにポンプヘッドを分解洗浄したり(当時の機器には自動洗浄機能はありませんでした),頻繁にプランジャーやプランジャーシールを交換したり(当時の機器はプランジャー交換のたびにカバーを外す必要がありました)とかなり大変でした。

糖タンパク質の糖鎖のうちN-グリカンの構造解析では,阪大の長谷純宏先生,名市大の高橋禮子先生(いずれも当時の所属)に直接ご指導いただく機会に恵まれ,本当に助かりました。長谷先生開発の「2-アミノピリジンで蛍光誘標識(PA化)し,ODSカラムで高感度かつ構造の違いで糖鎖を分離する方法」2)と,高橋先生考案の「既知構造のPA化糖鎖をODS(構造で分離,横軸)及びHILIC(分子量で分離,縦軸)カラムで測定して得た保持時間情報(グルコースオリゴマー換算)から作成した2次元糖鎖マップのデータベースを用いて解析する方法」3)を取り入れ,解析を始めました。しかしながら,実際に解析を始めると,データベースにない糖鎖などこの方法では容易に構造を決定できないものもあり,頭を抱えることもたびたびありました。

そのころ,高分子を高感度で測定できるソフトイオン化法であるMALDIやESI(両イオン化法に対しては2002年にノーベル化学賞が授与されました)を搭載した質量分析計(TOF/MS)が相次いで商品化されました。分子量やMS/MSの情報があれば,構造決定できなかった糖鎖も容易に解析できるのではと考え,N-グリカンの構造解析にMALDI-TOF/MS(その時は島津製でした)をいち早く導入し,新2次元糖鎖マップ法4)及び糖鎖解析ソフト5), 6)を開発しました(図1)。新2次元糖鎖マップ法は原法のHILICカラムの保持時間情報を質量に置き換えたマップで,コンピュータによるデータベース検索,及び構造から保持時間を予測できる機能ももたせました。結果,予想通り構造解析が容易になりました(解析例:図2)。

図1 新2次元糖鎖マップ

図1 新2次元糖鎖マップ

図2 PA化糖鎖の逆相カラム及びMALDIによる構造解析例(試料:抗メチル化DNA抗体) ピーク③と⑤、ピーク⑥と⑦の構造異性体も分離可能

図2 PA化糖鎖の逆相カラム及びMALDIによる構造解析例(試料:抗メチル化DNA抗体)
ピーク③と⑤、ピーク⑥と⑦の構造異性体も分離可能

その当時はN-グリカンの構造解析にMALDI-TOF/MSを活用している研究者がほとんどいなかったため,学会で発表したところ大反響でした4), 5)。またこのHPLCとMALDIを組み合わせた方法の開発により,医薬品申請用データとして糖タンパク質医薬品の糖鎖構造解析を確実に実施できるようになり,競合他社と差別化できる極めて優位性の高い分析メニューとなりました。

時が経ち,糖鎖構造解析の分野も超高速LCが取り入れられ,ESI-Q-TOF/MSなどに直接接続し測定することが多くなりました。また,シアル酸が遊離しにくい,過剰試薬を除きやすいなどの理由で2-アミノベンズアミド(2AB化)標識7) (HILICカラム法使用)が海外で主流になると,日本でも2AB化を使うようになり,日本人が先に開発したPA化標識が世界標準にならず,非常に残念に思っています。CHO細胞で発現したIgG抗体の糖鎖のように解析が容易なものは2AB化でもいいのですが,実際には複雑な構造のものも多いため,構造異性体の分離に優れているPA化-逆相カラム法も必要なので今は併用しています。すなわち試料により,最適な手法を見極め解析しています。これからも進化するHPLC,そしてカラムを上手く活用し,確実かつ迅速に,そして他社に先駆けた手法で糖鎖解析を行っていきたいと思います。

 

参考文献

  • 1) 水野保子ら, 第60回日本生化学会大会 (1987)
  • 2) Hase, S., et al., J. Biochem. 85, 989–994 & 995–1002 (1979)
  • 3) Tomiya, N., et al., Anal. Biochem. , 171, 73–90 (1988)
  • 4) 水野保子ら, 第68回日本生化学会大会 (1995)
  • 5) Mizuno Y., et al., 19th International Carbohydrate Symposium (1988)
  • 6) Mizuno Y., et al., Anal. Chem. 71, 4764-4711 (1999)
  • 7) Bigge, J. C., et al., Anal. Biochem. 230, 229–238 (1995)

執筆者紹介

京都大学大学院薬学研究科修士修了,東レ株式会社入社と同時に株式会社東レリサーチセンターに入社,入社後2年間はELISAなどを担当,その後20年以上,糖タンパク質の構造解析を担当,その過程でバイオ医薬品の特性解析の受託をいち早く導入,最近5年間はGMPや信頼性基準で実施する安定性試験や特性解析分野の品質保証責任者を担当,この4月より医薬品の分析の営業を担当。

【専門分野】糖タンパク質の構造解析,バイオ医薬品の特性解析
【将来の夢】世界遺産めぐり?
【趣  味】茶道,華道,旅行,スポーツ観戦

関連情報

Top of This Page