電子天びんを知ろう(その2)・・・適切な計量のためには?

分析の留意点

LCtalk 67号LABより

 電子天びんを正しく使うためにはどうしたらよいか,より正確に安心して計量するにはどんなことに気を付ければよいか・・・について,2回にわたってお話ししています。前回はその1回目として,天びんの計量値に含まれる不確かさの種類を中心にお話ししました。今回は2回目として,適切な計量を行うためにできることは何か・・・についてお話しします。

不確かさの種類(前回のおさらい)

前号でお話しました,電子天びんの計量値に含まれる不確かさの種類についておさらいをしましょう。

1. 感度の誤差
   天びんのひょう量(測定上限荷重値)付近の計測値が正しい値からズレている量です。そのズレ量の荷重比例量が感度の誤差成分として測定範囲全域に含まれます。最も注意を要する誤差ですが,ご自分で感度調整を行なうことにより矯正ができます。
2. 直線性
   任意の計量値におけるズレ量から,前記した感度の誤差成分を除いてなお残る誤差のことです。天びん自体に起因する性能ですのでお客様の手で矯正することはできません。
3. 繰り返し性
   同じものを繰り返し計量したときにどれ位違う値をとることがあるのか,バラツキの程度を表したものです。天びんの使い方や環境に左右されます。
4. 偏置誤差
   天びんの皿上にのせる位置の違いによって現れる誤差です。お皿にのせる位置に気を付ければ抑えられます。

不確かさの要因と対策

不確かさがどのようにして生まれるのか,発生要因を知ることで適切な計量を行う手法が見えてきます。計量に影響を与える主な要因を対策も交えてお話しします。

1. 重力加速度
   感度の誤差を生む一番手が重力加速度です。
一例を示します。東京で感度をピッタリ合わせた天びんを鹿児島まで運ぶと,1 kg 分銅の計測値は以下のように変わってしまいます。
  東京 1000.00 g
  鹿児島 999.70 g
 これは,緯度によって重力加速度が違うことにより生じる現象です。つまり,南へ移動すると天びんは軽い目に表示し,北へ移動すれば重い目に表示するように感度の誤差が生まれます。また,重力加速度は緯度だけでなく,高さでも変わります。
 ここで大切なことは,天びんをどれ位移動したら,また,ビルの何階分移動したらどれ位の感度の誤差が生じるのか,ということではなく,どのような短距離であっても 天びんを移動したら感度調整をやり直す ということです。
2. 温度
 

感度の誤差を生むニ番手が温度です。天びん自体の温度が変化することで感度の誤差が生じます。電子天びんの仕様には,必ず感度の温度係数という数値があります。これは,温度が 1  ℃変わると天びんの感度がどれ位の割合で変化するか,を表した数値です。表示がどれだけ変わるのか,分析天びんの例を示します。

  感度の温度計数: 2 ppm/℃
  温度変化前 : 200.0000 g
  5 ℃変化後 : 200.0020 g

 天びんの温度を変化させる要因には室温があります。「私の実験室は,朝すぐに適温になってその後は安定するので,大丈夫」と思われるかもしれませんが,天びん自体の温度は室温のようにすぐには変わってくれません。変化した温度に時間をかけてゆっくり馴染んでゆきます。朝エアコンを入れて室温が安定した頃に天びんの感度調整を行っても,その時の感度は正しく合いますが,すぐまたズレてしまいます。室温変化をなくすことがベストですが,現実的には 重要な(高い精度を要する)測定は午後 (天びんが室温に十分馴染んだ後)に行うことをお勧めします。そして, 測定直前には感度調整 を忘れず行いましょう。天びんの温度を変化させる要因は,室温以外にも直射日光や天びん内部の電子部品による自己発熱などがあります。 直射日光は当てない ,天びんはできれば 24 時間通電しておく などが有効です。

3. 容器
 

こんな経験はありませんでしょうか?フラスコの ような容器を使うと天びんの指示値がじわじわと一定方向に変動してしまう ・・・ これは,ドリフトという現象で容器の中に入っている空気の悪戯です。例えば,容器の温度がひょう量室内より低い場合,容器内の空気はひょう量室内で暖められて膨張し,容器から溢れ出ます。そのため,天びんの指示値は徐々に小さくなってゆきます。

この空気密度の変化は,例えば容積100 cm3の容器で 2 ℃変化した場合,0.82 mg にも相当します。この状態では, 測定値の繰り返し性が大きく(悪く)なってしまいます。これを防ぐには,できるだけ天びんの温度に馴染ませるため, 容器は天びんの側に置く,素手で触らない などの配慮が有効です。

4.
  重さを量っている機械式天びんに外から風を当てる と,竿が揺れて不安定になることは容易に想像できます。電子天びんも同じことです。風の存在は不安定,繰り返し性が悪くなるなどの要因となります。
  1) 外から当たる風
   エアコン,人の行き来など風の発生要因は身近にたくさん存在しますが,意外と見落としがちなのが部屋の扉です。扉が開き戸の場合,扉が団扇のように風を生むことに加えて,部屋の気圧が変わることで天びん内部の空気の安定が乱されることも影響します。これらは,できるだけ 風が天びんに当たらない設備上の配慮 ,天びんの使用者以外の方も含めて みんなで気を遣い合う ことで随分防げます。また,できることなら 扉は引き戸式 が有効です。
  2) ひょう量室内で生まれる風
 

 ひょう量室内の空気が対流を起こすと,皿や測定物に風が当たってやはり不安定になります。対流の発生要因には,測定物とひょう量室内の温度差による上昇 / 下降気流や,測定物をひょう量室内に出し入れする際の空気の乱れなどがあります。

 対流をできるだけ抑えるには, 測定物を天びんの温度に十分馴染ませる 手をひょう量室内に入れない 測定物の出し入れは短時間に 行い, ひょう量室の扉は必要以上開けない ,といった配慮が必要です。さらに,ひょう量室内外の温度差をできるだけ少なくすため, 使わないときはひょう量室扉を数ミリ開けておく こともお勧めします。また,いくら配慮しても対流を完全に抑えることは困難ですから,その影響を最小限とするため, 皿から測定物をはみ出させない ことも有効です。薬包紙の隅を折るなど細かい配慮が功を奏します。

5. 静電気
 

 前回でもご紹介しましたが,空気が乾燥してくると現れる静電気により,天びんの表示が不安定になったり繰り返し性が悪化したり,厄介な目に遭われている方も多いでしょう。部屋を加湿すれば静電気は空気中に放電して消えてしまいますが,除電器を使うことも有効です。 STABLO-AP という商品がありますので下記Webを参考にしてください。

https://www.an.shimadzu.co.jp/balance/products/p01/stablo_ap.htm
また,天びんについてのご相談はこちらへ。
https://solutions.shimadzu.co.jp/form/balance/contact.html
 以上,2回にわたって電子天びんの計量に影響を与える要因についてお話ししました。お読みいただいたみなさんの何かのお役に立てば幸いです。今回お話した他にも,振動,測定物の密度など様々な要因があります。それらはまた機会がありましたらお話ししたいと思います。
 なお,今回付録として,天びんの日常点検と島津「ユニブロック」について簡単にご紹介します。

- 付 録 -

天びんの日常点検について

自動車を運転する前の点検,みなさんはされていますか?最近の車はほとんど故障しなくなりましたが,車は不調になると何らかのメッセージを発してくれます。しかし,天びんは,例えばどんなに感度の誤差が出ていても何も言わず平然としていますから,異常に気付くことが難しいのです。よって日常的な点検が大切になります。日常点検の推奨内容を簡単に紹介しますので,みなさんの事情に合わせてアレンジしてみてください。
1. いつするか
   使用する当日の朝,または測定を始める前
2. 何をするか
 
1)  外観上,汚れや異常がないか目視確認する。
2)  スイッチや扉開閉など機能動作を確認する。
3)  ゼロ点(荷重なし)表示の安定を確認する。
4)  感度校正用分銅が内蔵されている天びんの場合は感度調整を行なう。観測点(*1)を最低 1 点決め,相当する分銅を載せて器差を測定し,許容範囲内(*2)であることを確認する。
*1:  推奨観測点の例は以下のとおりです。
A) 日常使用する測定範囲の上限を超え単一分銅となる最小の荷重点
B) 天びんのひょう量付近できりの良い荷重点
*2:  許容範囲は,天びんに要求される精度に応じて個々にお決めいただくものですが,天びん性能上の限界や作業現場における現実的なレベルもありますので,詳しくはご相談ください。
3. NGだったらどうするか
   前記 4)項の場合,再度感度調整を行なって再測定(感度校正用分銅が内蔵されていない天びんの場合は外部分銅にて感度調整を行なって再測定),これを3 回程度繰り返し,それでも NGの場合は,サービス会社にご相談ください。他の項目も状況に応じサービス会社にご相談ください。

 

おもしろメカ・・・「ユニブロック」

前号で電子天びんの仕組みのひとつに電磁平衡式があることをお話しました。電磁平衡式は高精度な電子天びんに広く使われています。荷重を受けてバランスをとる機械部分はその命ともいえ,多くの部品が複雑に組み合わされて成り立っています。島津製作所では,その機械部分をひとつのアルミニウムの塊から削って作り 1 個の部品とすることに成功しました。そのユニークで高い技術の詰まったただ 1 個の部品を「ユニブロック」と名付けました。以下に概要をご紹介します。

電磁平衡式を簡単に言うと「てこ」の構造です。てこの片方に測定物を載せる皿が,他方に電磁力を発生させるコイルが取り付いています。下図参照ください。実際はより複雑な構造になります。

この,てこ構造の主要部分をアルミニウムの塊から削って作ったのが以下のユニブロックです。それもてこが2段階削り込まれています。

関連製品のご紹介

-高速応答,高安定性を実現。分析天びんの新たなステージへ-
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高速応答、高安定性を実現した分析天びん APシリーズ
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