LC-MSのはなし その5「質量分析部の種類と扇形磁場型MS」

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LCtalk60号INTRO

 これまでマススペクトロメトリーは,原子・分子の質量を測る手法であると述べてきましたが,実際にはどのように測定しているのでしょうか。 今回より数回に分けて,LC-MSの質量分析部について説明します。

●「質量分析部の役割」

 通常,物質の重さをはかる場合,天秤やはかりを用いますが,これらは地球の重力を利用しています。 では分子など質量が非常に小さく,その受ける重力が測定できないくらい小さい場合はどうすればよいのでしょうか。
 イギリスの物理学者 J.J.Thomson は荷電粒子流が,電場や磁場により曲げられることを利用し,質量の分離を行う装置を開発しました。

 陽極線管を用いたこの装置では,同一の電荷 e と質量 m の比をもつ正イオンは同一の放物線上に収れんします。 ネオンの気体分子イオンを測定したところ,20Neと22Ne(共に1価の正イオン)の放物線がわずかにずれることから,その中に同位体が存在することを証明しました(1912年)。 このように電磁気的相互作用を利用すれば,イオン化した化合物を 質量/電荷比(m/z) に応じて分離,測定することができるのです。

● 「質量分析部の種類」

 質量分析計の基本構成は,試料導入部,イオン化部,質量分析部,イオン検出部に大別されることは既に述べました。 近年LC-MSではほとんどの装置が ESI,APCIなど大気圧イオン化法を採用しています。
  一方でイオンを分離する質量分析部には,さまざまの型が存在します。  歴史的には,扇形磁場型四重極型飛行時間型が有機化合物測定に良く用いられましたが,徐々に比較的安価な四重極型が市場を占めるようになりました。

 この他にも,選択範囲のイオンを一旦蓄積してから質量分離するトラップ型MSや,複数のMSを組み合わせたタンデムMS,ハイブリッドMSも開発されています(表1)。 これらさまざまな形のMSは,各々の特長を生かし目的に応じて使い分けられています。

表1 質量分離方式の異なる各種質量分析計
イオン透過型 走査型 扇形磁場型 (magnetic sector : B)
電場磁場二重収束型 (double-focusing : EB)
四重極型 (quadrupole : Q)
非走査型 飛行時間型 (time of flight : TOF)
トラップ型 イオントラップ型 (ion trap : IT)
イオンサイクロトロン共鳴型 (Fourier-Transform Ion Cyclotron Resonance : FTICR)
複合MS タンデム EBEB(電場-磁場-電場-磁場), BEBE(磁場-電場-磁場-電場)など, QqQ
ハイブリッド Q-TOF, Q-IT, IT-TOF, TOF-TOF, Q-FTICR

● 「扇形磁場型MS」

  扇形磁場型は,歴史的に最も古くから利用されているMSです(図1)。

扇形磁場型MSの模式図

図1 扇形磁場型MSの模式図

イオン化部で生成したイオンを 2~8 kVの高電圧をかけ加速し,扇形磁場に導入します。 イオンはフレミングの左手の法則に従い,速度v と磁場の方向とに直角に加速度を受け,軌道が曲げられます。

(フレミングの左手の法則: 図1 磁場入口部分において,正電荷イオン動き(=電流方向)が右向きなので左手中指は右向き。 磁場は奥から手前へ流れており人差し指は手前向き。 発生する力(親指方向)は下向きとなる:正電荷イオンの進行方向からみて右向き)

 イオンが磁界から受けるローレンツ力 f1は(1)式で表せます。

式1


  (B:磁束密度,z:電荷数,e:電気素量,v:速度)

また運動する物体の方向が変わるということは,そこには(2)式で表せる遠心力f2が働きます。

式2


  (m:質量,r:軌道半径)


 イオンが磁場領域を通過して検出器に到達するには,ある曲率半径の軌道に沿って通過する必要があります。 すなわちf1とf2が釣り合った状態で運動するので(3)式が成立します。

式3


一方で加速電圧Vによるイオンの運動エネルギーは(4)式で表され,

式4


(3),(4)式より(5)式が導き出されます。


ここでイオンは(5)式を満足するように運動します。 (5)式より,イオン加速電圧Vを一定にして,磁束密度Bを変える(あるいはBを一定にしてVを変化させる)事により,任意の m をしかるべき軌道半径 r 上の検出器で捉えることができます。
  実際の磁場型MSでは,イオン検出器を1個置き,加速電圧と曲率半径を一定に保って磁束密度を走査(Scan)します。 すると質量の異なるイオンすべてが,次から次へ磁場内の軌道を通過し,検出器に到達できます。 磁場を一回Scanする毎に一つのマススペクトルが得られるわけです。

● 「扇形磁場型MSの特徴」

  扇形磁場型MSの測定範囲は,加速電圧Vや装置設計に依存しますが,およそ10~10000です。 分解能は,単収束扇形磁場型でおよそ2000,静電場を追加した二重収束扇形磁場型で数万程度が得られます。 近年の高性能飛行時間型MSやイオンサイクロトン型MSが出現する以前は,二重収束扇形磁場型MSは高分解能測定が可能な唯一の装置でした。 扇形磁場MSは磁場の強度が性能に大きく作用するため,高性能の装置になればなるほど大型の装置になります。

LCMS, 液体クロマトグラフィー質量分析装置

  扇形磁場型MSは,極めて高い真空度10-7Paが要求されるため,LCとの結合が難しく,またスキャンスピードも他のMSに比べて遅いという欠点があり ます。 そのため,LC-MSとして利用されることは少なくなっています。 一方GCとの結合は比較的容易であり,扇形磁場型MSの精密質量選択イオン検出(HR-SIM)MS機能が特に選択性に優れているため,GC-MSとして ダイオキシン分析に利用されています。
 次号では飛行時間型,四重極型MSについて解説します。 (Ym)

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