逆相クロマトグラフィーにおけるアセトニトリルとメタノールの違い

分析の留意点

LCtalk35号Lab

1. はじめに・・・アセトニトリルは高価

 逆相クロマトグラフィーの移動相によく用いられる有機溶媒といえば,アセトニトリルとメタノールですよね。 ちなみに市販試薬の定価(例)は,

  LC用3L  特級3L
アセトニトリル  \12,300  \5,700 
メタノール  \2,780  \2,400 

でアセトニトリル,特にLC用が高価です。 ところが,文献やLCメーカーの示す条件ではアセトニトリルの方が多く用いられています。 それは一体何故でしょう? 今回はこのお話です。

図1,2

2. 吸光度・・・LC用アセトニトリルの方が小さい

 図1,2は,それぞれアセトニトリルとメタノールの市販試薬 LC用と特級の吸収スペクトルです。LC用というのは,(絶対的な純度が高いというものではなく)UV吸収を持つ不純物を取り除いて,規定した波長における吸光度を規格値内に抑えてあるものです。この4試薬の中ではアセトニトリルLC用が最も吸収が小さいことが,特に短波長で小さいことがわかります。移動相に用いる有機溶媒の吸収は小さい方が,UV検出におけるノイズが小さくなりますので,UV短波長での高感度分析にはアセトニトリルLC用が適します。また、UV検出でのグラジエントベースラインについても、アセトニトリルLC用がゴーストピークが少なくなります。なお、他にも水と相溶性の高い有機溶媒はいろいろ有りますが,LC用アセトニトリルよりも吸収の小さいものはまず見当たりません。

 さて余談ですが,試薬グレードに関するトラブル例を一つ。Aさんが麻黄中のエフェドリンを210 nmで測定した所、前任者に比べてノイズの大きいデータしか取れません。分析が下手なのではと落胆しましたが,たまたま前任者に聞き直してみると,LC用アセトニトリルを使っていたとのこと。Aさんは勿体ないからと特級を使っていました。お分かりですね。数十倍大きいバックグランドの移動相で苦労していたのです。その後,分析条件には必ず試薬メーカー名とグレードを記述するルールを徹底したそうです。
 また,メタノールは、LC用と特級とであまりスペクトルに差がありませんが,特級は吸光度保証をしていませんので,ばらつく可能性が大です。価格もあまり変わりませんので出来るだけLC用を用いましょう。

3. 圧力・・・アセトニトリルが低い

 カラムにかかる圧力は,有機溶媒の種類や混合の比率によって,異なります。図3に,水/アセトニトリル,水/メタノール混合液の比率と送液圧力の関係例を示します。メタノールは水との混合で圧力が高くなりますが,アセトニトリルはそれ程でもありません。従って,アセトニトリル系の方が,同じ流速ではカラムに余計な圧力をかけなくてすみます。さて,以上の2項目でアセトニトリルが使われる意義を確認できたと思います。では,メタノールが価格以外でメリットはないのでしょうか? 続いて比較してみましょう。

図3
 

4. 溶出力・・・一般にはアセトニトリルが強い

 アセトニトリルとメタノールを各々同じ比率で水に混ぜ合わせた場合,一般にアセトニトリル系の方が溶出力が強くなります。 特に混合比率が低い時には,カフェインやフェノールに見られるように同じ保持時間を得るのにアセトニトリル比がメタノールの半分以下で済むことがあります(図4)。

 一方,有機溶媒が100%かそれに極めて近い場合は,カロチンやコレステロールに見られるようにしばしばメタノールの方が溶出力が強くなります(図5)。  混合溶媒の物性はなかなか理解しにくいものですが,このような場合は単独溶媒の性質(極性)が前面に出てくるようです。
 さて,混合比が50対1などと極端なとき,作成時の誤差が大きく保持時間に影響したり,平衡化に時間がかかりがちです。 アセトニトリル系でこのようなことがあったとき,メタノール系で10対1などと混合比が小さくて済むなら,そちらが操作上は良い場合があります。

図4,5

5. 分離(溶出)の選択性・・・両者で異なる

 アセトニトリルとメタノールでは分離の選択性が違います。図6の例では,フェノールと安息香酸の溶出順序が逆転しています(但し水比率の高いときはアセトニトリル系でもフェノールが先に出ます)。これは,有機溶媒分子の化学的性質(メタノールやエタノールはプロトン性,アセトニトリルやテトラヒドロフランは非プロトン性)の違いによるものと考えられます。従って,アセトニトリル系で分離の選択性が得られない場合は,メタノール系を試してみる,ということが考えられるのです。

図6

6. ピーク形状・・・違いが出ることがある

 サリチル酸のような(オルト位にカルボキシル基やメトキシ基を持つフェノール)化合物などで,アセトニトリル系ではテーリングが大きく,メタノール系では抑制される,という場合があります。これはシリカ表面と目的成分との(吸着)相互作用に対する移動相の関わり方が,有機溶媒分子の化学的性質によって異なるためと考えられます。

 また,一般にポリマー系逆相用カラムでは,シリカ系カラムに比べてピークがブロードになる傾向があります。特にポリスチレン系カラムでの芳香族化合物などによく見られます。これは,移動相がメタノール系のとき顕著に見られ,一方アセトニトリル系では目立ちませんので,ポリマー系逆相用カラムには後者が推奨されます。なお理由は,有機溶媒のゲルに対する親和力によって細孔の構造が変化するためと考えられています。

7. 移動相の脱気・・・アセトニトリル系は注意

 混合溶媒作成を,LC装置内ではなく予め移動相ビン内で行うとき(イソクラティック)のお話です。
 メタノールは,水と混ざると発熱し余計な溶存空気が気泡となって抜けやすく(脱気されやすく)なります。一方アセトニトリルでは,吸熱して冷えてしまうために,徐々に室温に戻るにつれて後から気泡が発生してしまいます。従って,より脱気(加温撹拌,膜脱気ユニット,Heパージなど;LCtalk特集号5参照)に配慮が必要です。

8. まとめ

 以上,逆相クロマトグラフィーの移動相によく用いられるアセトニトリルとメタノールを比較しました。手荒く言えば「アセトニトリルLC用を使えば無難。選択性・ピーク形状の悪い時はメタノールLC用を試そう」ということですが,それぞれの性質を考えて分析条件を設計するのも有効です。 (Y.Eg)

☆Topics
2008年12月現在アセトニトリルの入手が厳しくなっています。HPLC移動相をアセトニトリル系からメタノール系に置き換えるのは,上述のような理由により,スムーズに代替にできないケースが大半です。
 そこで,アセトニトリルを節約して使う分析系が望まれます。そのひとつは分離能(または理論段数)を確保しながら,小さなカラムサイズを用いる方法です。詳細は超高速分析による省溶媒化の実現とランニングコストの削減をご覧ください。

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