電子天びんを知ろう(その3)・・・天びんの点検について
LCtalk 101号 in the LABより

電子天びんを使っていて,何気なく「サンプルをお皿に載せて,表示パネルに表示されている質量表示をそのまま記録する」といった計量作業をされていませんでしょうか?電子天びんも日を追うごとに性能が向上し,簡単に精度よく計量できるようになっています。しかしながら,その簡単さ故に知らぬ間に不確かさが混入し,そのまま鵜呑みして最終計量桁まで信用してしまうというケースもあります。「この計量値って,本当に正しく安心できる値だろうか?」と今一度,ご確認ください。そのために,今回お話する「天びんの点検」の内容を参考にして,天びんを使った安心できる計量を実施していただくことをお薦めします。
天びんの点検・校正について
天びんには,お使いになる方が行う点検作業として,毎日の計量作業前に行う「日常点検」と,一定の時期あるいは使用期間を決めて行う「定期点検」とがあリます。
前者の「日常点検」は毎日の作業となりますので,効率性を考えて「必要最小限の作業で,天びんの点検を行うこと」がポイントです。一方,後者の「定期点検」は時期を決めて点検を行いますので,性能点検を含めた一通りの点検作業が必要となります。
日常点検
毎日あるいは使用前に行う点検項目は,以下の通りで「最小限の作業で天びんが正常に働いていることを確認する」という内容となリます。
ひょう量値の点検では,既に質量の判っている分銅を皿に載せ,その表示値との差が基準値(使用者が独自に決めた数値)以内にあることを確認します。基準値を越えた場合の処置も手順書で決めておく必要があり,再調整を行って基準値内になったことを確認するか,修理に出すなどの手順を決めておきます。
最近では日常点検においても,通常,使う点とひょう量近くの点といった2か所,3か所で点検する場合が増えています。表1の様に,日常点検では性能点検だけではなく,お皿やひょう量室内の汚れの点検やデジタル表示の動きを点検するなど,電子天びんの状態もあわせて点検することをお勧めします。表2に,日常点検記録書の例を示します。
表1. 日常点検の点検項目
点検項目
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点検方法 |
管理基準
|
処置
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---|---|---|---|
(1)設置状態 | 土台(安定)を確認する 水準器(水平)の確認 |
机・土台が安定していること 水平であること |
据付環境の整備 水平調整 |
(2)皿およびひょう量室
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サンプルが散乱して汚れていないか確認する | 散乱していないこと 汚れていないこと |
アルコール等で拭く 刷毛で掃除する |
(3)動作
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十分に通電し,表示状態を点検する | 表示が静止していること | 外乱のない状態で表示不安定ならば修理する |
(4)性能 | (校正をおこなった後,)ひょう量に相当する分銅を選定する | 使用公差内であること | 公差内であれば日常点検としては終了し通常作業に移る |
表2. 日常点検記録書(例)
点検月日
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天びんの状態 |
性能,使用分銅番号,測定値
|
判定
|
点検者
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---|---|---|---|---|
2017/9/14
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異常なし
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200.0005 g,使用分銅A-01
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OK
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島津太郎
|
|
|
|
(毎日の作業前に記入します。特に,使う分銅番号の記入をお願いします。)
定期点検
定期点検の周期は,特に法律で定められている訳ではありません。お使いになる方が用途,要求仕様にあわせて決めていただくことになります。最近では,一般に1~2年に1回程度で点検を行われる場合が多いです。それでは,具体的に定期点検での性能点検はどのようなものか説明して行きましょう。
● 繰り返し性(デュアルレンジの場合は,大小レンジ共に点検)
①校正用おもリ内蔵型の機種は,その内蔵おもりによる校正を行う。
②ひょう量の1/2 付近またはそれ以上の単一分銅(やむを得ない場合、2個まで可)を5回以上載せ降ろしし,ゼロ 点と荷重時の測定値を記録する。ゼロ点の測定値を記録する代わリに,毎回表示をゼロに設定してから荷重を載せて荷重時の値のみ記録する方法でもよい。
③ゼロ点と荷重時の値それぞれ(前項でゼロ点の測定をしなかった場合,荷重時の値のみ)において,幅(最大値ー最小値)を求め,その値が点検公差以内であれば合格とする。
● 偏置(四隅)誤差(デュアルレンジの場合は、大レンジのみ点検)
下記手順で,偏置(四隅)誤差点検を行います。①ひょう量の1/3~1/2付近の単一分銅を図3に示す位置(中央,右前,右後,左後,左前,中央)に順番に載せ,測定値を記録する。(中央は皿の中心に,それ以外は皿上面を4分割した個々の範囲の中心に載せる。例えば,丸皿の場 合は,円の中心から1/2半径だけずらした位置に載せる。)

● 器差(直線性)(デュアルレンジの場合は、大小レンジ共に点検)
下記手順で,器差(直線性)点検を行います。①観測点を,ひょう量付近を含め4点以上設定する。観測点は,以下を参考にして設定する。
A) ひょう量範囲を均等に分割した値またはその近辺
B) 点検公差の切り替わる点
C) 点検依頼者が重要とされる荷重域
②設定した観測点に対応する分銅を以下の順番で載せて,測定値を記録する。
ゼロ点→第1(最小)観測点→第2観測点→第3観測点→最大観測点(ひょう量付近)→ゼロ点
なお,ゼロ点の測定値を記録する代わりに,毎回表示をゼロに設定してから荷重を載せ,荷重時の測定値のみ記録する方法でもよい。
③各観測点の測定値から,初めと最後の「ゼロ点」の平均値を差し引く。(前項でゼロ点の測定をしなかった場合は不要)
④前項で求めた値と,載せた分銅の協定値との差(「器差」という)をそれぞれ求め,それらすべてが士 点検公差以内であれば合格とする。
さて,今回の「天びんの点検」についてのお話しは,お役に立ちましたでしょうか?日常の分析業務のご参考になりましたら幸いです。
(「その1」,「その2」については,下記リンクをご覧ください)
・電子天びんを知ろう(その2)・・・適切な計量のためには?
・電子天びんを知ろう(その1)・・・計量の不確かさとは?
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