拡散反射法のイロハ

FTIR基礎・理論編

FTIR TALK vol.1(1990)
赤外分光法では,固体,液体,気体のいずれの試料でも測定可能です。 ここでは,固体,その内でも粉体試料の測定法の拡散反射法について取り上げます。
粉体試料の測定は,従来KBr錠剤法で行われてきました。 これは試料とKBr粉末を混合し,錠剤を作成して赤外スペクトルを測定する方法で,粉体試料の測定の原点的な方法です。 これに代って,FTIRの普及とともに広く使われるようになったのが拡散反射法です。 広く普及した原因は,何と言ってもKBr錠剤法に比べて前処理の容易性にあります。 また,拡散反射法では粉体表面吸着物質に対する知見が透過法に比べて多く得られ,真空加熱測定も可能で触媒分野などでも広く使われています。

(1)拡散反射法の原理

粉体試料での光拡散の模式図
図 1 粉体試料での光拡散の模式図

粉体試料に光を照射すると,図1に示したように種々の方向に反射します。 一部は粉体表面で正反射しますが,粉体の形状が様々であるために,鏡面上の正反射光に比べてその方向性は多様です。 残りの光は粉体内に屈折して浸入し,その粉体内で反射したり,あるいは他の粉体表面で反射されたり,再度屈折浸入を繰り返したりして拡散します。 このように拡散した光の一部は再度空気中に放射されます。
拡散反射光が粉体内を通過したり反射したりする間に,粉体に吸収があればその光は弱められ,結果として透過スペクトルに類似した拡散反射スペクトルが得られます。 ただし,粉体が強い吸収を示す領域では長い光路長の拡散反射光はほとんど吸収され,短い光路長の拡散反射光のみが空気中に放射されます。 逆に弱い吸収帯の場合には,長い光路長であってもすべてが吸収されるわけではなく,その拡散反射光が空気中に放射されるために,透過スペクトルに比べて強いピークとなって現われます。 このように拡散反射スペクトルでは,吸収波数位置は透過スペクトルと同じですが,透過スペクトルでの弱いピークが比較的強くなって現われるために,ピーク間の相対強度が透過スペクトルと異なります。 このため透過スペクトルとの比較や定量的な分析にはクベルカ-ムンク(Kubelka-Munk)によって導かれた,いわゆるK-M関数(f(R))が用いられます。

式1

ここで,Rは絶体反射率,Kは吸光係数,Sは散乱係数です。 しかし,試料の絶対反射率Rを測定することは困難なために,実際の測定では測定領域で K=0 に近いKBrやKCl などの標準粉体に対する試料の反射率の比r

式2

を測定し

式3

を求めます。

粉体から空気中に放射される光には,拡散反射光以外に正反射光が含まれます。 より正確な拡散反射スペクトルを得るためには正反射光を減少させることが必要で,そのために粉体の粒小径を小さくする必要性があります。 粉体の粒子径を波長と同程度まで小さくすると,正反射光の割合が減少するとともに,散乱効率が最も高くなると言われています。 また,粒子の大きさとともに,形状,充填状態も重要な因子となります。
通常の測定では粉体試料をそのまま測定するのではなく,標準粉体であるKBrやKCl で適当な濃度(1〜10%程度)に希釈して測定します。

(2)拡散反射測定装置

図2に拡散反射測定装置DRS-8000の外観を示します。 また,図3はその光学系です。 M3によって赤外光が試料に照射され,M4によって集められた拡散反射光がM5,M6を経て検出器に到達します。試料皿は直径6mmφ,深さ1.5mmです。
試料量が少ない場合には,試料皿にKBr粉末を詰め,上部に少量のKBr粉末と混合した試料をのせて測定すると感度良く測定できます。

拡散反射測定装置DRS-8000の外観
図 2 拡散反射測定装置DRS-8000の外観
拡散反射測定装置DRS-8000の光学系
図 3 拡散反射測定装置DRS-8000の光学系

(3)測定例

図4にカフェインの拡散反射スペクトル(緑色)を示します。 赤色はクベルカ-ムンク変換後のスペクトルです。 拡散反射スペクトルでは弱いピークが比較的明瞭に現われますが,変換後これらのピーク強度は減少しピーク間の相対強度は透過スペクトルの場合と類似した状態になります。

カフェインの拡散反射スペクトル
図 4 カフェインの拡散反射スペクトル


FTIR測定法のイロハ -拡散反射法,新版-(2011年)

K-M変換後のカフェインの拡散反射スペクトル
図 5 K-M変換後のカフェインの拡散反射スペクトル
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