vol.33 FTIR-ATR法を用いた水環境におけるマイクロプラスチックのモニタリング

FTIR TALK LETTER
片岡 智哉 先生, 二瓶 泰雄 先生

2019年9月 発行
片岡 智哉 先生,
東京理科大学理工学部土木工学科 助教

二瓶 泰雄 先生
東京理科大学理工学部土木工学科 教授
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(ご所属・役職は2019年9月発行時)

 

 水環境から採取した懸濁物質の中から5 mm以下のプラスチック(MP)を検出する際,主としてFTIR-ATR法が活用される。
本稿では,FTIR-ATR法を用いた河川水中に存在するMPの分析方法及び全国河川におけるMP濃度の計測結果について述べ,今後の水環境におけるMPモニタリングの課題について解説する。

1.はじめに

  世界各地の河川・湖沼・海洋で5 mm以下のプラスチックが発見されている1-3)。この細かなプラスチックは,“マイクロプラスチック(MP)” と呼称され,現在では国際的に広く認知されるようになった。MP のサイズは0.3 mm~5.0 mmと定義され4),水生生態系では動物プランクトンと同オーダーのサイズであり,多様な生物に取り込まれる。

 プラスチックは製造過程で安定剤や難燃剤として化学物質が添加される他,海洋中に拡散し低濃度に分布している残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants; POPs)を吸着する5)。プラスチックに含有する化学物質が生物の組織内に移行されると,食物連鎖にプラスチック由来の化学物質が混入し,生態系汚染が進行する。現時点でプラスチックを媒介として化学物質が移行することが実験的に確認されている6)とともに,北太平洋で捕獲された海鳥の消化管からプラスチックの難燃剤として添加されるポリ臭化ジフェニルエーテル(Polybrominated Diphenyl Ether; PBDE)が検出された7)

 多様な生物に取り込まれる潜在性をもつMPの発生は,プラスチックによる生態系汚染を顕在化させる。プラスチックの劣化は水域に比べて陸域で著しく進行することから,人間生活圏ですでにMP化して河川を介して海域に流出することが考えられる。
しかしながら,国内において河川を含む陸域でのMP汚染実態は不明確であった。そこで,本研究室では日本全国の河川でMPを採取して各河川のMP濃度(単位河川水量当たりのMP個数やMP質量)を計測してきた。本稿では,これまで当研究室で計測してきた全国河川のMP濃度を示すとともに,河川で採取されたMPのIRスペクトルの特徴について述べ,水環境におけるMPモニタリングの課題について解説する。

2. 河川におけるマイクロプラスチック分析方法

 当研究室では,これまで国内45 河川69 調査点で橋梁からプランクトンネット(目合:0.3 mm 程度)を垂らして河川の水表面で5-10分間静置し,MPを採取することで,各調査点におけるMP 濃度を計測してきた。MP調査に使用されるプランクトンネットの目合は,MPモニタリングのサイズの下限値を規定しており,MPサイズの定義の下限値はプランクトンネットの目合に合わせて設定されている4)。プランクトンネットの開口部に取り付けたフローメータでネット内流速を計測し,それに開口面積を乗じることで,ネット内通水量を計測する。その後,プランクトンネットで採取された懸濁物質からプラスチックと思われる物質を研究室で目視観察し,MP候補物質を抽出する。抽出後,60 ℃の恒温器で24 時間以上乾燥させ,全てのMP 候補物質についてウルトラミクロ天びん(XPR2UV,METTLER TOLEDO)による質量計測,実体顕微鏡(SZX7,OLYMPUS)によるサイズ計測を行い,最後にダイヤモンドATR装置(Quest, Specac)を取り付けたFTIR(IRAffinity™-1S,島津製作所)でMP 候補物質のIRスペクトルを取得し,LabSolutions™ IR Standard Libraryに含まれている標準IRスペクトルと比較することで,MP候補物質の材質を判定する。本来,FTIRで材質を判定してから質量とサイズを計測する方が効率的であるが,ATR 装置で圧着する際に,形状が変化もしくは粉砕してしまう可能性があるため,ここでは上記の順序で分析している。最終的に,各調査時におけるMP個数とMP質量をネット内通水量で除してMP濃度(ここでは,MP濃度の単位として個/m3とmg/m3を併記)を評価する。

3. 河川におけるマイクロプラスチック濃度

 2015年8月から2018年8月までの3年間をかけて45河川69調査点でMP濃度を計測した結果,69調査点の内67調査点でMPが発見された(図1)。最も濃度が高かったのは,埼玉県から東京都を流れる一級河川である荒川の新船堀橋であり,MP濃度は94 個/m3(49 mg/m3)であった。MP濃度の中央値及び平均値はそれぞれ1.3 個/m3(0.12 mg/m3)及び5.0個/m3(1.1 mg/m3)であり,最大値に比べ1-2オーダ低い。 また,MP濃度の標準偏差は12 個/m3(4.8 mg/m3)であり,調査点によるMP濃度のばらつきが非常に大きいのが特徴である。

図1 全国における河川MP 濃度マップ

図1 全国における河川MP 濃度マップ
※なお,ここではMP 濃度を単位水量当たりの個数(MP 数密度)で示す。

4. 河川におけるマイクロプラスチックの粒子特性

 河川で採取されたMPの34 %は1 mm以下であり,日本近海で採取されたMP(1 mm以下は20 % 8))に比べて相対的に細かなプラスチックが多かった1)。これは淡水よりも海水の方が比重が大きいため,浮力によって大きなMPが表面で採取された割合が多かったと推察される。一方,河川で採取されたMPの材質の多くはポリエチレン(Polyethylene; PE),ポリプロピレン(Polypropylene; PP),ポリスチレン(Polystyrene; PS)であり,全体の78 %(81 %)を占める(図2(a)及び(b))。各材質の生産割合(2017年)は,PE,PP,PSで52 %であり,河川MPの主要3種の割合が低い(図2(c))。河川のMPは水表面で採取されていることから水よりも比重の小さいPE(比重:0.91-0.94)とPP(比重: 0.83-0.85)の割合が高い。またPSはポリマー自体の比重は水よりも大きい(比重: 1.04-1.10)が製品化される際に気泡を混入するため,浮きやすい。その他としては,PEとPPの共重合体(PEPP),ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate; PET),ABS 樹脂(Acrylonitrilebutadiene styrene; ABS),アクリル(Acryl)が多く含まれる。

図2 全国における河川MP の材質構成

* 国内生産割合は日本プラスチック工業連盟が経済産業省「化学工業統計」より作成した原材料生産実績(2018 年)を元に整理
http://www.jpif.gr.jp/3toukei/conts/getsuji/2018/2018_genryou_c.htm

図2 全国における河川MP の材質構成

5. 河川におけるマイクロプラスチックのIRスペクトル

 河川で採取されたMPには,製造過程に混入させる添加物や河川等を浮遊・堆積する際に付着する自然由来の有機物が含まれる。近年,30 %の過酸化水素水(H2O2)等の酸化剤に一定時間浸水させることで,後者の付着物を除去して材質の特定精度の向上が図られている9)。ここでは,河川MPの主要な材質であるPE,PP,PS のIRスペクトルを示すとともに,H2O2 による酸化分解前後でのIRスペクトルの違いについて示す。

 今回使用したサンプルは,荒川の新船堀橋で採取されたプラスチックの中からPE,PP,PSの3種類(図3(d)-(f))を選出して自然乾燥した後,FTIR-ATRでIRスペクトルを取得する(図3(a)-(c)中の赤線)。30 mL の30 % H2O2 に24 時間浸した後,再びIRスペクトルを取得した。30 % H2O2 に浸したことにより,付着する有機物が除去できていることがわかる(図3(g)-(i))。これによりセルロース系化合物の吸光度(波数帯:900 cm-1-1100 cm-1)を低減し,各ポリマー特有の波数帯のピークが鮮明になっており,各材質の標準IRスペクトル(図3(a)-(c)中の黒線)とよく類似している(図3(a)-(c)中の青線)。

図3

図3 30 % H2O2 処理前後のIRスペクトルの比較

6. おわりに

 地球規模の環境問題としてプラスチックによる海洋汚染が懸念される中,国内における陸水の調査はまだまだ進んでいない現状がある。その主要な原因の一つとしては,ここで示してきたように現状MP の一粒一粒をFTIR-ATR 法でIRスペクトルを取得する必要があり,水環境におけるMP の分析手法が煩雑なことが挙げられる。今後,現在のMP 分析手法を基に,懸濁物質の中からプラスチックを自動判別できる検出器が開発されれば,水環境におけるMPのモニタリングが容易となり,陸域におけるプラスチック管理の改善に寄与できることが期待される。

参考文献

  • 1) Kataoka, T., Y. Nihei, K. Kudou, H. Hinata, Assessment of the sources and inflow processes of microplastics in the river environments of Japan. Environ Pollut, 2019, 244, 958-965.
  • 2) Cozar, A., et al., Plastic debris in the open ocean. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2014, 111(28), 10239-10244.
  • 3) Eerkes-Medrano, D., R.C. Thompson, D.C. Aldridge, Microplastics in freshwater systems: a review of the emerging threats, identification of knowledge gaps and prioritisation of research needs. Water Res., 2015, 75, 63-82.
  • 4) Kershaw, P.J., Rochman, C. M., Sources, Fate and Effects of Microplastics in the Marine Environment: A Global Assessment. Rep. Stud., 2016, 90, 97.
  • 5) Ogata, Y., et al., International Pellet Watch: Global monitoring of persistent organic pollutants (POPs) in coastal waters. 1. Initial phase data on PCBs, DDTs, and HCHs. Mar. Pollut. Bull., 2009, 58(10), 1437-1446.
  • 6) Browne, Mark A., Stewart J. Niven, Tamara S. Galloway, Steve J. Rowland, Richard C. Thompson, Microplastic moves pollutants and additives to worms, reducing functions linked to health and biodiversity. Curr Biol, 2013, 23(23), 2388-2392.
  • 7) Tanaka, K., et al., Facilitated leaching of additive-derived PBDEs from plastic by seabirds’ stomach oil and accumulation in tissues. Environ. Sci.Technol., 2015, 49(19), 11799-11807.
  • 8) Isobe, A., K. Uchida, T. Tokai, S. Iwasaki, East Asian seas: A hot spot of pelagic microplastics. Mar. Pollut. Bull., 2015, 101(2), 618-623.
  • 9) Matsuguma, Y., et al., Microplastics in Sediment Cores from Asia and Africa as Indicators of Temporal Trends in Plastic Pollution. Archives of Environmental Contamination and Toxicology, 2017, 73(2), 230-239.

 

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