vol.27 酸化グラフェンの構造解析

FTIR TALK LETTER
仁科 勇太 先生

2016年9月 発行
 仁科 勇太 先生
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岡山大学 異分野融合先端研究コア 准教授
(ご所属・役職は2016年9月発行時)

1. はじめに
 酸化グラフェン(Graphene Oxide, GO)は,安価かつ大量に入手可能な黒鉛を化学的に酸化することにより合成できる。GOは層の厚みを炭素1原子の単層にすることができ,さらに他の材料(高分子や金属ナノ粒子等)との複合化が容易である。取り扱い容易な溶液状態でのハンドリングが可能であるため,化学的修飾を行う際には有望な材料であり,期待されているアプリケーションは極めて広い。これが次世代ナノカーボンの一つとして注目されている所以である。
 GOの調製方法は大きく分けて3通り(Brodie法,Staudenmaier法,Hummers法)が用いられている。文献ごとに,加える酸化剤の割合や反応時間,撹拌,冷却の方法に違いがあり,どの方法が優れているかを一概に述べることは難しい。また,GOの性質は,用いる黒鉛の種類や形状・サイズや酸化手法により大きく変わる。GOの構造や物性を変えるファクターを明らかにすることは,品質の保証や再現性の確保の観点から重要であるが,未だ完全な理解には及んでいない。本稿では過マンガン酸カリウムを酸化剤として用いるHummers法に着目し,様々な酸素含有量のGOの合成法や分析方法について紹介する。

2. 酸化グラフェンの合成法と分析法
 表1 に,Hummers法1)およびその改良法の手順を示す。Hummers法は1958年に開発されたものであり,当時は"グラフェン"という概念が存在していなかった。単層のGOを得るための工夫,および簡略化するための改良が重ねられている。
 GOの構造については,長きにわたって議論されている。複数の研究者が様々な構造を提唱している(図1)。これらのうち,近年最もよく受け入れられているのが,Lerf-Klinowskiモデルである2)。このモデルでは,エッジ部にはカルボニル基やカルボキシ基が存在し,ベーサル面にはエポキシ基およびヒドロキシ基が存在する。また,非酸化のグラフェンドメインも存在すると考えられている。

表1 Hummers法およびその改良法によるGOの合成手順

手順  Hummers法  改良法
(1)  黒鉛,硝酸ナトリウム,硫酸を混合  黒鉛と硫酸を混合
(2)  過マンガン酸カリウムを添加  過マンガン酸カリウムを添加
(3)  35℃で30分反応  35℃で2時間以上反応
(4)  水を加え,98℃で加熱撹拌  水を加え,室温以上で撹拌
(5)  過酸化水素を添加  過酸化水素を添加
(6)  濾過で精製  遠心分離で精製

図1 提唱されているGOの構造

 GOは,グラフェンやカーボンナノチューブなどの炭素材料(無機材料)のような物性に加え,高分子材料に似た物性を有している。そのため,赤外分光法(IR),X線光電子分光法(XPS),CHN有機元素分析,走査型電子顕微鏡(SEM),エネルギー分散型X線分析(EDX),原子間力顕微鏡(AFM),透過型電子顕微鏡(TEM),固体核磁気共鳴(固体NMR),ラマン分光法,X線回折(XRD)などにより,特徴を把握することができる(表2)。図2 に,実際に我々が合成したGOの分析データを示す。

表2 GOの分析方法

 分析方法  サンプル形状  得られる情報
 FTIR  ペレット,膜  官能基の種類と大まかな存在割合
 XPS  粉末,基板に分散液を滴下  表面官能基の種類と割合,純度
 CHNS元素分析  粉末  元素組成,純度
 SEM  SiO2/Si基板に分散液を滴下  サイズ,層数(1~4層程度まで)
 SEM-EDX  粉末  サイズ,元素組成,純度
 AFM  mica基板に分散液を滴下  サイズ,厚み
 TEM  専用グリッドに分散液を滴下  サイズ,欠陥の形状
 固体NMR  粉末  官能基の種類と割合
 Raman  粉末,膜  欠陥の量
 XRD  粉末,膜  層間距離,残留黒鉛の有無
 pH  分散液  硫酸の残留量(精製の程度)

図2 GOの分析例。IRはATR法で測定。

3. 酸化度の制御
 酸素官能基の量や種類を変えると,GOの物性が変わる。GO複合体を作成する場合は,酸素官能基を足掛かりとするため,酸素含有量が多い方が良い。一方,GOの酸素官能基を還元により除去し,グラフェン類似物を得ることを目的とする場合は,還元しやすいヒドロキシ基とエポキシ基のみからなるGOを合成することが望ましい。GOに特定の酸素官能基のみを導入する技術は未だ確立できていないが,目的とする酸素官能基の量と割合を変える程度であれば,現在の技術でも対応できるようになってきた。
 筆者らは,"黒鉛の酸化段階"および"GOの還元段階"の2通りの方法でGOの酸化度制御を行った3)。まず前者について,酸化剤である過マンガン酸カリウムの量を10段階で変化させることにより酸素含有量を約5%刻みで制御することに成功した。加える過マンガン酸カリウムと酸素含有量の関係を図に示す(図3(a))。XPS分析により,過マンガン酸カリウムの量を増加させるにつれて酸素官能基の割合が増加することが確認された(図3(b))。XRD分析では,酸素含有量が50 w%以下では,残存する黒鉛のピークが確認され,GOとの混合物であることがわかった。また2θ = 10°付近の由来のピークは酸素含有量が増加するに従って低角度側にシフトし,層間距離が拡張していくことが確認された(図3(c))。
 酸素含有量が少ないGOは,薄膜化することができずATR法でのFTIR測定が困難である。そのため,各サンプルをKBr粉末と混合して錠剤化し,透過法にてFTIRを測定した。しかし,錠剤化が不十分なためか,満足いくスペクトルが得られていない(図4)。GOをFTIR分析するためには,ATRが適しているようである。特に,十分酸化されてsp2結合が少なく,黒さを失ったGOはFTIRで分析しやすい。GOを2回酸化すると,酸素官能基の変換が起こり,C=O基の量が増大する。このような官能基変換においては,FTIRが威力を発揮する。XPSおよびNMRでも同じ結果が示唆された(図5)。

図3 酸化度が異なるGOの各種分析

図4 酸化度が異なるGOのFTIRスペクトル(透過法にて測定)

図5 GOの(a)固体NMR,(b)FTIR(ATR法),(c)XPS解析。実線は2回酸化後,点線は通常のGO。

 次に,"高度に酸化されたGO"を還元することによる酸素含有量の制御について説明する。還元剤であるヒドラジンの量を変えることにより,酸素含有量制御を行った結果を示す(図6(a))。この方法でも酸素含有量を約5 w%刻みで制御することに成功している。この条件ではヒドラジンの量をいくら増やしても,酸素含有量は10 w%以下に還元されなかった。得られた各GOについてXPSを測定すると,主にC-O結合が減少していることがわかった(図6(b))。XRDでは,2θ = 10°付近のGOに対応するピークは,還元が進行するにつれて高角度側にシフトすることが確認された(図6(c))。これはGOの酸素官能基が除去されるにつれて層間距離が縮小したことを表している。酸素含有量が30 w%付近になるとGOに由来するピークは消失し,2θ = 20°付近にブロードなピークが観測されるようになる。これ以上還元を進行させてもピークは変化することはなく,また黒鉛に由来するピークが出現することはなかった。
 以上の結果から,酸化段階において酸化度制御を行ったものと還元段階で酸化度制御を行ったものでは,酸素含有量が同じ場合でも,結晶構造が異なる全く別の物質であることが明らかになった。それぞれのGOにおいて,電気伝導性,比表面積,キャパシタンス,酸化力などの諸物性は論文3)(インターネットからオープンアクセス)に報告している。

図6 還元により酸化度を制御したGO

4. おわりに
 GOは原子レベルでの構造解析を行うことが難しく,現段階では平均構造や部分構造を知ることしかできない。表2 にリストアップしたような複数の分析を駆使し,さらに電気伝導率,表面積,酸化力等を測定することで,手にしたGOをある程度規定することはできるようになった。これまでの経験で,GOのFTIR,元素分析,XRD,pHのデータが一致すれば,ほぼ同程度の物性を示すこともわかっている。FTIRは,大掛かりな装置を必要とせず,測定も容易である。本稿の執筆を機に,これまで以上にFTIRに注力し,どのようなGOでも満足いくスペクトルを取得できる測定方法を確立したいと思っている。

参考文献

1) W. S. Hummers, JR., and R. E. Offeman, J. Am. Chem., Soc. 1958, 80, 1339.
2) A. Lerf, H. He, M. Forster, J. Klinowski, J. Phys. Chem. B, 1998, 102, 4477.
3) N. Morimoto, T. Kubo, Y. Nishina, Sci. Rep. 2016, 6, 21715.

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