vol.23 FT-IRを用いた機能性ナノ微粒子の構造解析とバイオプローブ開発

FTIR TALK LETTER
田中一生 先生, 中條善樹 先生

2014年9月発行
 田中一生先生(助教), 中條善樹先生(教授)

京都大学大学院 工学研究科 高分子化学専攻 重合化学研究室
(ご所属・役職は2014年9月発行時)

1.はじめに
 金属ナノ粒子は金属原子やバルク金属とは違った特異な物性を示すため,ナノテクノロジーの基盤材料として注目されている。特に近年,金属ナノ微粒子が示す特異な光学・磁気的性質を元にして,様々なナノマテリアルが開発されてきている。ここで,金属ナノ粒子単独の物性は,粒子のサイズ・形状に依存しているが,これらが一定である場合には粒子間距離や高次構造に大きく依存する。そのため,サイズや形状を制御した合成法に加え,自己組織化を利用してナノ粒子を配列・集積化する技術や,外部刺激に応答して集積し,粒子間距離や高次構造を制御できる技術の開発が注目されている。これらの設計に従って所望の構造を構築していくためには,ナノ微粒子の表面の化学構造を正確に把握しなくてはならない。一方,これらの金属ナノ微粒子は紫外から可視光を散乱・吸収することのみならず,強力な消光剤として働くため光学特性を調べることはほとんどの場合難しい。さらに超常磁性酸化鉄(SPIO)の様な強磁性を有するものはNMR測定への適用が困難である。したがって,構造解析を行うにあたり,通常有機小分子で行われている手法が適用できないことが多い。そのような場合においても,IR測定はナノ微粒子の表面構造について詳細な情報を与えてくれる。本稿では,SPIOや金をはじめとした金属ナノ微粒子を用いた材料開発におけるIRの有用性について述べる。特に,金属ナノ微粒子を有機置換基で修飾し,特にIRが構造解析で役立った例について述べる。さらに,ここで得られた修飾ナノ微粒子の応用についても紹介する。
 イミダゾリウムはイオン液体の代表的な構造単位であり,近年その合成・物性・応用などについて数多くの報告がある。しかし,イミダゾリウムを機能性の部位として用いた研究例は少なく,特に金属ナノ粒子表面に被覆した報告は無かった。そこで我々はこれまでに,表面にメチルイミダゾリウムを修飾した金属ナノ粒子を合成し,水中でのアニオン添加による吸収波長制御1や,pH応答2が可能であることを報告した。より精密な粒子の分散状態制御である粒子間距離制御が達成できれば,イミダゾリウム修飾はナノ粒子機能化の基盤技術として利用できる可能性がある。これらのことから,イミダゾリウム塩で修飾されたナノ微粒子合成とIRを用いた解析について述べる。

2.イミダゾリウム修飾SPIOの応用
 粒径10~数十nmの酸化鉄の微粒子は,粉末の状態では強磁性体であるが,水中への分散状態では粒径が小さいために熱運動の効果が無視できず,磁気ヒステリシスを示さないなど常磁性物質と似たような挙動を示す(超常磁性)。このため,超常磁性酸化鉄(SPIO)と呼ばれる。NMRの測定において,SPIOは周囲の原子核における横緩和を促進する。この現象を利用すると,MRIにおけるT2強調画像において黒い影を得ることができる(陰性造影効果)。さらに,局所的な部位での横緩和時間の測定から,定量的にSPIOの存在量を見積もることができる。また,SPIOにはその大きさに由来した重要な特性がある。正常組織と比べ,腫瘍組織では血管新生が不完全であることから,血管壁に隙間が多く,透過性が亢進した状態となっている。このため,数十から数百nmの大きさを持つ物質を血中に滞留させると,それらの隙間から漏出し,徐々に蓄積されることがある(Enhanced Permeation and Retention effect, EPR効果)。実際,SPIOの表面に生体適合性付与のために修飾を施したものは,腫瘍領域へ蓄積することが確認されている。したがって,癌の検出においてSPIOは多用されている。このようにバイオプローブ開発の分野においてもナノ微粒子は足場材料として有用性が高い。
 SPIOは現在,市販MRI造影剤として用いられており,水溶媒中での粒子の分散性を保つために,デキストランなど多量の表面修飾剤が用いられている。しかし,これらの修飾剤は分散性と生体への親和性のみを担っており,応答や認識などの機能は示さない。我々はこれまでの研究で,SPIO表面にシリカコーティングを施し,表面にイミダゾリウム塩を有するコアシェル型ナノ粒子を報告した3。生体中で高い安定性を示しつつ,外部刺激に応答して凝集挙動の変化が見られた。一方で,シリカコーティングによって造影剤としての感度は低下するという問題がある。そこで我々は,この問題を解決するため,複数のSPIOをコアに持つコアシェル型ナノ粒子を作製し感度を向上させることを目的とした。また,シリカ層を削ることによる磁気シグナル増強も試みた。
 界面活性剤を用いた逆ミセルをテンプレートとしてコアシェル型ナノ粒子(Fe3O4@SiO2)を作製した。さらにスキーム1に示すように,メタノール中でイミダゾリウムカチオンを修飾した(Fe3O4@SiO2@MImCl)。ここで,イミダゾリウム塩の導入を調べるため,解析を試みた。得られた試料はどちらも黒色の粉末であり,可視光領域の光は吸収されてしまう。また,磁性を有していることからNMR測定ができない。以上のことから,得られたナノ粒子の構造解析をFT-IRにより行った(図1)。イミダゾリウム塩はC−N結合間の伸縮振動に由来する吸収帯を1167 cm−1に示すことが知られており,実際,修飾後の試料より1200 cm−1付近に吸収の増大がみられている。このことは,Fe3O4@SiO2@MImClの表面にはイミダゾリウム塩が導入されたことを示している。

スキーム1. イミダゾリウム塩修飾SPIOの合成法。

スキーム1. イミダゾリウム塩修飾SPIOの合成法。

図1. 修飾SPIOのFT-IRスペクトル。

図1. 修飾SPIOのFT-IRスペクトル。

 Fe3O4@SiO2@MImClのメタノール分散液を6000 rpmで5分間遠心分離した後の上澄みをサンプルAとした。また,1000 rpmで5分間遠心沈降させて得られた沈殿をサンプルBとした。さらに,粒径の測定は透過型電子顕微鏡(TEM)により行った(図2)。また,サンプルA,Bをそれぞれのナノ粒子の分散液をアガロースゲル中に封入し,MRI測定を行った(図2)。遠心分離により得られた複数コアをもつFe3O4@SiO2@MImClの沈殿を10,1,0.1 mMの水酸化ナトリウム水溶液に再分散させたのちに,時間経過によるシェル厚の変化をTEM画像より測定した。アルカリ処理の過程でイミダゾリウム塩の層が剥離してしまったFe3O4@SiO2の表面を再度イミダゾリウム塩で修飾して,これをサンプルCとした。さらに,NMRによりT2緩和度の測定を行った。

図2. サンプルAとBのTEM画像とMRI撮像の結果。

図2. サンプルAとBのTEM画像とMRI撮像の結果。

 図2より,サンプルAでは単数コアのナノ粒子が,サンプルBには複数のコアを持つナノ粒子が主に観測され,有意な差がみられたことから,遠心分離によるコア数の選別が可能であることがわかる。またMR画像においてサンプルBの方がより高いコントラストが得られた。さらにT2緩和時間を算出したところ,サンプルBの分散液はサンプルAの分散液より大きな緩和速度を示した(100 μg/mL,A: 7.9 ms,B: 5.7 ms)。これらの結果から,コアとなるSPIOの数を選別することで造影能を改善できることが示された。一方,水酸化ナトリウム水溶液によりシリカ層のエッチングを行った結果,10 mMの溶液を加えてから2時間後までは速やかにシェル層の厚さが減少したが,その後は顕著な減少は見られなかった。得られた粒子の表面をイミダゾリウム塩で再び修飾したサンプルCについてもサンプルA,Bと同様に緩和度の測定を行った結果,A < B < C(図3)という順で大きなT2緩和速度を示した。このことから,本研究における手法が磁気シグナル増強に効果的であることがわかる。また,同じ測定条件で市販品のフェルカルボトランと比較した結果,複数コアのサンプルAの値が上回ったことからも,本手法によって得られた粒子が高い造影効果を持つことがわかる。また,表面に修飾したイミダゾリウムカチオンは周囲のイオン環境に応答し得る機能分子なので,本手法は粒子表面に機能性を持たせた上で,磁気シグナルを増強することができた。4;

傾きが大きいものほど緩和能(感度)が高いことを意味する。

図3. 修飾ナノ微粒子の緩和度測定の結果。
傾きが大きいものほど緩和能(感度)が高いことを意味する。

3.イミダゾリウム修飾金ナノ微粒子の合成とその応用
 金のナノ微粒子は表面プラズモン共鳴に由来した光吸収帯を可視光領域に有する。さらに,ナノ微粒子の粒径や凝集状態で吸収帯の波長が変化することから,光学材料としての利用も行われている。そこで本研究では,粒子間距離が制御可能なナノ粒子の合成を目的とし,3種類のイミダゾリウム塩修飾金ナノ粒子を合成した(スキーム2)。最初に表面修飾剤の親水性の違いを利用し,アニオン交換による水中での粒子間距離制御を行った。また,アニオンへ光応答性構造を導入し,光応答によって粒子間距離を変化させるナノ粒子を合成した。最後に,メチルイミダゾリウム塩で被覆し,類似構造を持つビニルモノマーに溶解し,またアニオン交換により重合性の疎水性イオン液体に相移動することを見出した。これらの合成と結果について述べる。
 スキーム2にしたがい,イミダゾリウム塩修飾金ナノ微粒子を合成した。5 金ナノ粒子は種々イミダゾリウム塩存在下,塩化金酸(III)を水素化ホウ素ナトリウムで還元することで合成した。室温で1時間撹拌後,限外濾過によって未反応成分および塩を除き精製を行った。得られたナノ粒子の構造解析はまずFT-IRにより行った。SPIOの場合と同様に,スペクトルよりイミダゾリウムの存在を示す1636 cm−1付近に吸収ピークを確認した。さらに,透過型電子顕微鏡により良分散のナノ微粒子が得られていることを確認した後,粒径の測定を行った。また,動的光散乱法(DLS)でも粒径を調べた。熱重量分析の結果より,イミダゾリウム塩の導入量の算出を行った。また,紫外−可視吸収スペクトルより,金の表面プラズモンに由来した吸収帯が観測された。以上の結果から,目的のナノ微粒子が得られていることを確認した。

スキーム2. イミダゾリウム修飾金ナノ微粒子の凝集制御。

スキーム2. イミダゾリウム修飾金ナノ微粒子の凝集制御。

 まず,イミダゾリウム塩はカチオンおよびアニオンの構造設計により親水性を微細に調整でき,アニオン交換も容易であるという特性を持つ。この点に注目し,疎水相互作用による粒子間距離の制御を検討した。NPs1a-1cの水溶液に1に対して100当量のHXaq.(X = Cl, BF4, I)もしくはKTFSIaq.(TFSI = (CF3SO2)2N)を加え,紫外−可視吸収スペクトル測定とTEMによる観察を行った。すべてのナノ粒子においてHClを加えても吸収波長の長波長シフトは観察されなかった。これに対しHI,HBF4およびKTFSIを加えると吸収が長波長シフトし,その吸収波長は1の親水性に依存した(図4)。これはアニオン交換によりナノ粒子表面の疎水性が高まり,疎水相互作用によってナノ粒子同士が会合したためと考えられる。TEM画像からも疎水アニオン添加後にナノ粒子同士が会合していることを確認した。また,TEM画像の解析から,HXaq.(X = BF4, I),KTFSIを加えた後のナノ粒子間の平均粒子間距離も1の親水性に依存していることがわかった(表1)。表面プラズモン吸収は粒子間距離のほかに会合体の大きさにも依存するが,DLS解析において会合体のサイズの顕著な増加は認められなかった。以上のことから1に導入した置換基の親水性の違いにより,粒子間に働く疎水相互作用の強さが異なるため,粒子間距離を制御できたと説明できる。

図4. イミダゾリウム修飾金ナノ微粒子に

図4. イミダゾリウム修飾金ナノ微粒子に塩を添加した場合の光吸収能の変化。

表1. 吸収スペクトルのピーク位置とKTFSI塩添加後の粒子間距離

表1. 吸収スペクトルのピーク位置とKTFSI塩添加後の粒子間距離


 さらに,イミダゾリウム塩はアニオン交換反応により様々な構造のアニオンを容易に導入できるという特徴を持つ。これを利用して,金ナノ粒子表面へ光応答性アニオン(2)を導入し,光応答性金ナノ粒子を合成した。NPs1b2のナトリウム塩(2-Na)を加え,1時間放置した。限外濾過による精製後のナノ粒子の吸収波長は515 nmから522 nmに長波長シフトしていた。得られたナノ粒子水溶液に低圧水銀ランプを10分間照射すると,吸収が530 nmに長波長シフトした(図5)。TEM画像の解析から2-Na添加の時点でナノ粒子は会合体を形成し,光照射により平均粒子間距離が2.2 ± 0.7 nmから1.6 ± 0.5 nmに縮まっていることがわかった。またDLS解析から,ナノ粒子会合体の流体力学的直径は光照射前後で11.3 ± 2.0 nmから8.3 ± 2.5 nmとなったことが観察された。以上のことから,光刺激により粒子間距離が縮まり,その結果ナノ粒子の表面プラズモン吸収を制御できたといえる。NPs1aNPs1cを用いて同様の実験を行った結果,光照射によって粒子間距離が縮まることを確認した。また,光照射後の吸収波長は1の親水性に依存し,1を設計することにより制御できることがわかった(表2)

図5. イミダゾリウム修飾金ナノ微粒子への光照射後の光吸収能の変化。

図5. イミダゾリウム修飾金ナノ微粒子への光照射後の光吸収能の変化。

表2. 吸収スペクトルのピーク位置と光照射後の粒子間距離

表2. 吸収スペクトルのピーク位置と光照射後の粒子間距離


 最後に,修飾金ナノ微粒子が類似構造を持ったイオン液体に溶解することを利用し,重合性官能基を有するイオン液体へ高濃度分散させた。得られた溶液のラジカル重合により,金ナノ粒子含有ゲルの合成を行った。NPs1b3aに溶解させ,架橋剤,水溶性アゾ開始剤とともに窒素下80℃で12時間反応させ,金ナノ粒子含有ゲルを合成した。図6に得られたゲルのFT-IRスペクトルを示す。1415 cm−1(ビニル基の面外振動),983 cm−1,839 cm−1(C-H基の面外振動)の吸収ピークが反応後に消失した。この結果から,ゲル化が進行したといえる。また,3bNPs1b水溶液を加えると3bは水に溶解しないため,二層に分離した。ここへ過剰量(1bに対して1000当量)のKTFSIを加えると,3b層へ金ナノ粒子が相移動した。このモノマー3bを先と同様にAIBNを開始剤として反応しゲルを合成した。それぞれのゲルは金ナノ粒子/モノマー組成比を変化させることで金ナノ粒子導入率を変化させることが可能であった。

4.おわりに
 以上で述べたように,ナノ微粒子は粒子の素材と表面修飾により多彩な機能を発現することが可能である。したがって,例えば生体中の様々な場面に対応したプローブを作成することができる。また,光学材料として特異な機能を得ることも期待される。この中で,IRはナノ微粒子の表面構造を調べる上で,簡便に詳細な情報を与えてくれることから,強力な解析ツールである。これらの利点から,IRはナノ微粒子を含むナノマテリアル作成において無くてはならない解析手法の一つであるといえる。

参考文献

1) Tanaka, K.; Kitamura, N.; Morita, M.; Inubushi, T.; Chujo, Y. Bioorg. Med. Chem. Lett.2008, 18, 5463−5465.
2) Minehara, H.; Naka, K.; Tanaka, K.; Narita, A.; Chujo, Y. Bioorg. Med. Chem.2011, 19, 2282−2286.
3) Tanaka, K.; Narita, A.; Chujo, Y. Compos. Interface.2013, 2, 27−32.
4) Tanaka, K.; Narita, A.; Kitamura, N.; Uchiyama, W.; Morita, M.; Inubushi, T.; Chujo, Y. Langmuir2010, 26, 11759−11762.
5) Miyoshi, E.; Naka, K.; Tanaka, K.; Narita, A.; Chujo, Y. Colloids Surf., A2011, 390, 126−133.,61, 79-89 (1977).

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