遺伝子は約10万個あり、ヒトゲノムの上に点在している。いま世界をあげて取り組んでいるヒトゲノム計画は、遺伝子を含み30億個の塩基対(DNA)からなるヒトゲノムのすべての塩基配列を解析しょうという壮大な計画だ。すでに計画は大詰めに差しかかっており、来年にも完了すると見られている。
もちろん、生命の盤源を探る旅は、そこで終わるわけではない。そこから解析した配列がいったい何を意味するのか、それを操作することで何が起きるのか、新たな探究が続くことになる。
その結果、医療は一人ひとりのカスタムメイドとなり、不治の病とよばれた数々の病に治療の道筋がつけられるだろう。これまで生物をかたくなに拒んできた過酷な環境下でも、生き延びて繁殖する生命を生みだすことができるかもしれない。
後世の人々は、救世主の誕生を暦の紀元とした2000年前の人々のように、2001年をゲノム暦の元年として、それまでの歴史を解析前、その後を解析後と区別しているかもしれない。それほどに大きな飛躍が待ち構えているのだ。
横尾氏は、もしかすると生命科学とは対極に位置する人物かもしれない。
幼少の頃から魂の存在を確信してきた横尾氏。魂は何度となく輪廻転生を繰り返し、肉体はその時代時代に現れた魂の器とする考えだ。
氏の作品の多くには、魂の神秘が色温く描かれている。そして、それこそが氏を世界的な画家たらしめている理由でもある。
だが、生命の営みも画家の創作も地球上で繰り返されるものであることに変わりない。魂が降り立つのが遺伝子のプログラムによって活動する生命体であることは、まぎれもない事実だ。
生命と魂、科学と芸術、相反するとも思える事象には、重なりあう感覚も多くあるのではないか。
東京都世田谷区の横尾氏のアトリエは、かつての多摩川が作りだした河岸段丘の上に立つ。都会とは思えないほど緑に恵まれた景観。日差しが降り注ぐ窓辺に座わり横尾氏は語り始めた。
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1997年作品─運命─
肉体が五感で感じ取る感覚は、宇宙的な神秘に満ちている…。 |
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