歯科矯正用ワイヤーの引張特性評価

  生体用材料とは体内で使用される材料、あるいは生体成分と接触する材料のことを言いますが、近年は医療技術の進歩に伴い、高機能で多様なものが開発されています。生体用材料として金属材料ではTi合金、ステンレススチール(SUS)、CoCr合金など、それぞれ特長を活かした様々な金属が使われていますが、人体に対する影響への検討、特に有害性や身体への負担の低減は大変重要な課題となっています。
ここでは、金属材料の例として歯科矯正材料として使われるワイヤーの機械的特性(引張特性)評価の実施例を紹介します。

試料及び測定

 今回測定した歯科矯正ワイヤー試料は、実際に医療用として使われているステンレススチール(SUS)、Ti合金、CoCr合金、NiTi合金の4種で、それぞれ2本ずつの評価を行ないました。
 試験は島津精密万能試験機「オートグラフAG-1kNX形」を用いて、試料(歯科矯正用ワイヤー)を細線用つかみ具で把持して実施しました。このとき、正確なひずみ量を測定するため、非接触式ビデオ伸び計を併用しました。

試験条件

1) 負荷速度 1.5mm/min (クロスヘッド位置等速負荷)
2) 試験数 各試料2本
3) 試験力計測 1kNロードセル
4) 変位計測 非接触式ビデオ伸び計による標点間測定
5) 試験温度 室温(常温)

Fig.1 試験取り付け状態 外観

試験結果(回復率の測定)

4 種の試料(各2本)に対する引張試験結果を、応力-ひずみ線図(S-S線図)として表したものを、Fig.2~Fig.5に示します。なお、応力は試験力 を試料の初期断面積で除した値、またひずみは伸び計で測定された標点間伸びを初期標点間長さで除した値(いずれも公称値)で表現しています。これらのデー タから、機械特性の代表パラメータとして、弾性率、0.1%耐力、引張強さ、破断ひずみを算出し、一覧をTable 1として掲げます。

Fig.2~Fig.5

Table 1 試験結果(機械的特性)

試料 弾性率
(GPa)
0.1%耐力
(GPa)
引張強さ
(GPa)
破断ひずみ(%)
SUS 169 1.47 2.01 2.21
Ti合金 69.0 0.82 1.12 4.39
CoCr合金 206 1.49 1.81 2.21
NiTi合金 26.6~39.0(注) 1.19 1.36 10.29

(注)NiTi合金は超弾性領域前後の弾性率を示します。

ステンレススチール(SUS)、CoCr合金は引張強度が高い反面伸びは小さく、それに比べTi合金やNiTi合金は伸びが大きい代わりに引張強度は相対的に低いことが分かります。
特に、NiTi合金は形状記憶合金としての性質を有し、マルテンサイト・オーステナイト相の遷移領域において超弾性を示します。このようにしなやかな性質 (伸びても力に変化が少ない)と、人体の骨に近い弾性率(約30GPa)を示すことから、身体への負担を軽減する材料として注目されています。

※ 試料のご提供ならびにご指導は、北海道医療大学歯学部 准教授 飯嶋雅弘先生より頂いたものです。

TRAPEZIUM LITE X

卓上形精密万能試験機AGS-X

特長

  • 高精度ロードセルを採用(高精度形は0.5級、標準形は1級)
    ロードセル定格の1/500~1/1の広い保証範囲。信頼性の高い試験評価をサポートします。
  • クロスヘッド速度範囲
    0.001~1000 mm/minの広範囲で試験可能です。
  • 高速サンプリング
    最高1 msecの高速サンプリング。
  • オペレーションソフトウェア TRAPEZIUMX LITE X
    効率を高めるシンプルなソフトウェアです。
  • ジョグコントローラ(オプション)
    クロスヘッド位置を手元で操作できます。ジョグダイヤルを用いることで微小な位置調整が可能です。
  • 応用試験装置
    ラインナップされている豊富な治具に取り替えることにより、様々な試験に対応可能です。