メタボロミクス解析について

メタボロミクス解析について

【1】メタボロミクスとは

 メタボロミクス(metabolomics)とは,生体中の有機酸やアミノ酸などの低分子化合物をはじめとする代謝物(メタボローム:metabolome)の分析を行うことで,システム・バイオロジーにおける重要な要素のひとつです。 ゲノミクス(genomics)が DNAを,トランスクリプトミクス(transcriptomics)が mRNAを,プロテオミクス(proteomics)がタンパク質を網羅的に解析することに対し,metabolomics は,代謝物を網羅的に解析するといえます。  食事,薬物,運動,各種ストレスなど環境の影響を,DNAもタンパク質も受けます。 これらの影響を受けた結果が,代謝物に反映されると考えられ,メタボロミクスは生体内におけるゲノムおよびタンパク質の活性,そして環境が及ぼす影響の総和を測定するといえます。 メタボロミクスにより,生体機能に関する価値のある情報が得られるため,バイオマーカー発見のプロジェクト(薬物代謝・動態、薬物の安全性,毒性からの薬理など)から病気の診断,生活習慣や健康に関する研究に至るまで,広範囲な研究分野で応用が広がっています。

【2】メタボロミクス解析プロジェクトの流れ

おおまかな流れは,
 ステップ 1 プロジェクトのアイディア
 ステップ 2 実験デザイン
 ステップ 3 変化したメタボライトの発見
 ステップ 4 変化したメタボライトの同定
 ステップ 5 仮説、検証、結論

と考えることができます。

【ステップ 1 プロジェクトのアイディア】
 プロジェクトを始めるには,薬剤・食事・環境に関する疑問(例えば,なぜこの薬剤は毒性を持つのか,なぜこの食物が降圧作用を持つのか),病気に関する疑問,ゲノム・プロテオミクスに関する疑問(例えば,この遺伝子,タンパク質の機能はなにか)など なんらかの解決したい疑問があり,これがプロジェクトのアイディアとなります。

【ステップ 2 実験デザイン】
 メタボロミクスには多様なアプローチが可能であり,プロジェクトを解析したときに,意味のある結果が得られるように,実験がデザインされていることが重要です。 例えば,前臨床サンプルとして,培養細胞を使うのか動物の疾病モデルを使うのか,臨床サンプルとして健常人サンプル(フェーズI)を使うのか疾患サンプル(フェーズII以降)を使うのか,また,サンプルとして組織・細胞や,血漿・血清・尿などの生物液体を使うのか,があります。 また,システムにおける生物学上の可変性を考慮して,サンプル数を決定することが必要になります。

【ステップ 3 変化したメタボライトの発見】
 変化したメタボライトを発見するには,大別して2つのアプローチがあります。
(1) 非標的メタボロミクス
 すべての化合物の中から,変化したメタボライトを探そうとするもので,探索的要素が強いアプローチです。 相対的な定量を伴います。
(2) 標的メタボロミクス
 既知のメタボライトを,選択的に分析します。 絶対的な定量を考慮しており,多サンプルの濃度プロファイル分析が可能です。

メタボロミクスには,クロマトグラフィー質量分析計を用いるもの,NMRを用いるもの,などアプローチがいくつかあります。
 クロマトグラフィー質量分析計を用いる場合,測定データは,保持時間と質量を手掛かりに解析を進めます。 保持時間を較正・アラインメントするため,必要であれば,同一サンプルで反復測定を行います。 変化したメタボライトを見つけるためには,例えば,薬剤であれば投与後経過時点を変えたデータセットを,生物学上の可変性や母集団の可変性を考慮し準備するため,データ数は多くなります。 このようにサンプル点数自身も多く,最終的に解析に供するデータ量は厖大になるため,解析ソフトウェアは必携になってきています。
 専用ソフトウェアなどを用いて,得られたデータは,通常,保持時間と質量を較正,アラインメント,ノーマライゼーションを行った上で,統計解析,データマイニングを行い,メタボライトの発見を行います。

【ステップ 4 変化したメタボライトの同定】
 ステップ 3 にて発見したメタボライトの同定のため,データベースとの照合や,メタボライトの化合物情報を解析した構造決定が行われます。 MS/MSなどの質量スペクトルを照合するもの,代謝マップと関連づけたものなど,各種データベース開発が国内外で進められています。
 データベース照合により全てのメタボライトを同定できるようになるにはまだ時間がかかるため,変化したメタボライトの情報に,MS,NMRなど分析機器で測定した情報を加え,構造同定が試みられます。

【ステップ 5 仮説・検証、結論】
 変化したメタボライトを発見し,同定の上,プロジェクトのアイディアにもどり,仮説を立て,検証し,結論を導きます。 有意な仮説・結論を導くには,再現性のあるデータ,複雑な試料から個々のメタボライトを分離する手段(通常,質量分解能とクロマトグラフィー的分離能の組合わせ),同定確度を上げるための豊富な情報(質量精度とMSn情報の組合わせ),厖大な情報から研究目的を満たす情報を抽出するソフトウェアが重要です。

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