XRD,UV,顕微ラマンによる半導体光触媒評価

XRD,UV,顕微ラマンによる半導体光触媒評価

光触媒はその酸化還元作用や親水作用などの特長を利用し,主に環境浄化やセルフクリーニング,抗菌・殺菌などの分野で発展してきましたが,最近では再生可能エネルギーの一翼として光触媒を利用した人工光合成が注目されています。
光触媒には大別して,金属酸化物や窒化物などの半導体とルテニウムやレニウムなどの金属錯体があり,今回対象としたKCa2Nb3O10は,ペロブスカイト型ニオブ酸カルシウム層とカリウムイオン層による積層構造のイオン交換体で半導体光触媒の1つでもあります1,2)。半導体光触媒の性能評価には様々な分析評価方法が用いられますが,今回は合成条件の異なる4種類のKCa2Nb3O10粉末に対し,ポリキャピラリー光学系を持つX線回折による結晶構造評価,紫外可視近赤外分光光度計を用いた吸収スペクトル測定およびバンドギャップ計算,さらに顕微ラマン分光光度計を用いたイメージング測定を行いましたのでご紹介します。

試料

合成条件の異なる4種類のKCa2Nb3O10層状粉末を試料としました。

焼成 823K 2h,PC (Polymerized Complex method/錯体重合法)
焼成1123K 2h,PC
焼成1423K 2h,PC
焼成1423K 10h,SSR (Solid State Reaction method/固相反応法)

本試料は東京工業大学 大学院理工学研究科 化学専攻 前田和彦准教授よりご提供いただきました。

1.ポリキャピラリー光学系を搭載したXRDによる測定

MAXima_X XRD-7000

ポリキャピラリーとは,多数(poly)のX線を導くガラス製の細束管(Capillary)のことで,これを用いて ポイントX線源から出たX線を高い立体角で取り込み,反対側の出口で平行ビームを得るようにしたものです。この光学系は 通常の集中法(Bragg-Brentano法)と比較して,X線管球から発生したX線を有効に利用できるため高い回折X線強度が得られます。また,光学系として平行線束法を用いているので, 試料測定面の位置ズレが起こっても回折角度は変わりません。このため, 集中法では生じやすい回折線の分離や角度シフトが改善されるなど,試料表面が平坦でない少量の粉末や曲面の試料でも高感度・高精度の測定が可能です。
今回は,粉末試料5.6mgを無反射試料板上にサンプリングして測定しました。無反射試料板上試料の写真をFig.1示します。

Table1 XRD測定条件

項目 ポリキャピラリ光学系 集中光学系
装置 XRD-7000 同左
ゴニオメータ半径 200mm 同左
X線源 LFF Cu管球
+ポリキャピラリ
LFF Cu管球
管電圧-管電流 40kV-40mA 同左
散乱防止板高さ 4mm なし
スリット なし DS1度,SS1度,RS0.3mm
モノクロメータ あり 同左
ステージ 標準試料台 同左
走査範囲 5~35度 同左
走査ステップ 0.02度 同左
走査速度 2度/分 同左
積分時間 0.6秒/ステップ 同左

Fig.2は焼成条件1423K 10h,SSR(Solid State Reaction method/固相反応法)で合成したKCa2Nb3O10粉末試料に対しポリキャピラリー光学系と集中光学系(通常法)で測定した結果です。ポリキャピラリー光学系では通常光学系に比べ3倍程度強度が高く,サンプリングした試料の状態(高さ)による2θの誤差は少ないと考えられます。 

Fig.3は合成条件の異なる4種類のKCa2Nb3O10粉末試料に対し,ポリキャピラリー光学系で測定した結果です。 823Kでは他の3試料とは大きく異なる幅広のピークが見られ,結晶性が低いことが分かります。1123K 2h PC (Polymerized Complex method/錯体重合法)と1423K 2h PCの測定結果より,焼成温度が高くなるとピーク半値幅が小さくなっており,焼成温度の上昇により結晶性が高くなっていると考えられます。さらに, 1423K 2h PCと1423K 10h SSR間でも 半値幅の差がみられ,合成条件の違いによる結晶性への影響が確認できます。

2.紫外可視近赤外分光光度計による評価

積分球ISR-2600Plusを設置したUV-2600

光を吸収し励起状態になることで触媒としての効果を持つ光触媒は,それぞれ固有のバンドギャップを持つため励起可能な波長域が異なります。紫外可視吸収スペクトルはこの励起波長確認に用いられており,光触媒の最も基本的な評価といえます。
粉末試料の吸収スペクトルは拡散反射法を用いて測定されますが,紫外可視分光光度計UV-2600と積分球付属装置ISR-2600Plusのシステムでは紫外領域から1400nmまでの近赤外領域の拡散反射測定が行えるため光触媒の評価に最適です。

今回は硫酸バリウム上に押し広げた状態で各試料の拡散反射スペクトルを測定しました。さらにバンドギャップ計算エクセルマクロソフトウェアを用いてバンドギャップを求めました。このソフトウェアではTaucプロットを用いて拡散反射スペクトルからバンドギャップを求めることができます。
Fig.4に各試料の拡散反射スペクトルを,Fig.5に250nm~500nmの拡大図を示します。
また,試料の遷移過程を間接許容遷移として求めたバンドギャップ計算結果をTable3に示します。
試料間でスペクトルの吸収端位置に若干の差異があり,それがバンドギャップ計算結果にも表れています。XRDでの結果と合わせると,結晶性の低い試料ほどバンドギャップが高い傾向を示していることがわかります。

Fig.4 各試料の拡散反射スペクトル
Fig.5 Fig.4の拡大図

Table2 分光光度計測定条件

使用装置 島津紫外可視分光光度計UV-2600
積分球付属装置ISR-2600Plus
測定波長範囲 200nm ~ 1400nm
スキャンスピード 中速
サンプリングピッチ 0.5nm
測光値 反射率
スリット幅 5nm
検出器切替波長 830 nm

Table3 バンドギャップ計算結果

試料 バンドギャップ値
823K 2h PC 3.62eV
1123K 2h PC 3.58eV
1423K 2h PC 3.57eV
1423K 10h SSR 3.52eV

間接許容遷移として算出

3.顕微ラマン分光光度計を用いた評価

レニショー社顕微ラマン分光光度計

顕微ラマン分光法は微量もしくは微小領域における分子構造情報を得ることができます。右図のレニショー社顕微ラマン分光光度計を用いて各試料の比較を行いました。
Fig.6は各試料の測定結果に対し940cm-1付近で規格化したものです。測定は試料をガラスプレパラート上に少量サンプリングし,Table4の条件で行いました。
823K 2h PCはシャープなピークが確認されませんでした。この試料はXRDの結果からも他の3試料に比べ結晶性が低いことが分かっており,結晶状態の違いによるものと推定されます。他の3試料の比較では,焼成温度の低い1123K 2h PCは1423Kの2種類に比べピーク比やベースラインなどに違いが見られています。

Fig.6 各試料のラマンスペクトル

Table4 測定条件

使用装置 inVia Reflex/StreamLine Plus
対物レンズ x50
レーザ波長 532nm(エッジフォーカス)
積算回数 30回
出力 1%
照射時間 1sec

 

Fig.6では大きな違いの見られなかった1423K 2h PCと1423K 10h SSRに関して,複数の位置で再測定を行いました。それぞれ3箇所ずつの測定結果を940 cm-1付近で規格化しFig.7,8に示します。Fig.7より,1423K 2h PCでは測定位置による差異はほとんど見られません。一方,Fig.9に示した1423K 10h SSRでは250 cm-1付近や850 cm-1付近などに測定位置による違いが確認できます。

Fig.7 処理条件1423K 2h PC 試料のラマンスペクトル
Fig.8 処理条件1423K 10h SSR 試料のラマンスペクトル

1423K 2h PCと1423K 10h SSRの違いをより明確にするため,両試料に対しイメージング測定を行いました。測定は試料をガラスプレパラート上に少量サンプリング後,ガラス板で軽く圧延して表面を一定の高さにした上で行いました。測定範囲とステップは200×200μm,2.6μmとし,ラインフォーカスによる高速イメージングにより合計6084スペクトルを約10分で測定しました。 Fig.9,10にそれぞれのラマンイメージングを示します。また,Fig.10の黒および緑で表された領域から抽出した代表的なラマンスペクトルをFig.11に示します。

Fig.9 1423K 2h PC 試料のラマンイメージ
Fig.10 1423K 10h SSR 試料のラマンイメージ
Fig.11 黒および緑領域の代表的なラマンスペクトル

Table5 測定条件

使用装置 inVia Reflex/StreamLine Plus
対物レンズ x50
レーザ ラインフォーカス
波長 532nm
出力 100%
照射時間 1sec
イメージングエリア 200x200μm
ステップ X:2.6μm, Y:2.6μm
データ点数 78x78=6084
所要時間 10mi

これらの結果より,1423K 2h PCは均一で試料中に差異はほとんど見られませんでしたが,1423K 10h SSRは843 cm-1にピークを持つ粒子が分散しており, 1423K 2h PCに比べ不均一であることが分かりました。さらにこの結果に対して多変量解析を用いた簡易定量を行った結果, 843 cm-1にピークを持つ粒子の割合は約10%であることがわかりました。

Table6 定量結果

843cm-1ピーク有無の簡易定量
あり なし
9.6% 90.4%

 

まとめ

 今回は合成条件の異なる4種類のKCa2Nb3O10粉末を評価対象として3種類の手法による分析評価例を紹介しました。ポリキャピラリー光学系を持つX線回折による結晶構造評価では少量の粉末試料でも合成条件による結晶状態の違いを確認することができました。さらに顕微ラマン分光光度計を用いたイメージング測定では試料間の違いをラマンイメージングで可視化するとともに異なったピークを持つ粒子の割合を求めることができました。また紫外可視近赤外分光光度計を用いた吸収スペクトル測定およびバンドギャップ計算についても具体例をご紹介いたしました。
 半導体光触媒は組成だけでなく合成条件などによってもその性能に影響を受けます。今回ご紹介した評価方法は焼成温度や合成方法の違いが及ぼす影響を少量の試料で評価できることから、光触媒開発における評価の効率化にご活用いただけます。
 なお,バンドギャップ計算エクセルマクロソフトウェアおよびTaucプロットを用いたバンドギャップ計算方法に関してはアプリケーションニュースNo.A460,A428Bで詳しく紹介しておりますのでご参照ください。

謝辞
本アプリケーション作成にあたり,東京工業大学 大学院理工学研究科 化学専攻 前田和彦准教授より試料提供,ご指導などのご協力をいただきました。深く感謝申し上げます。

参考文献
1 K. Maeda, M. Eguchi, W. J. Youngblood, and T. E. Mallouk Chem. Mater. 2009, 21, 3611-3617
2 今川拓昌, 村上良子, 佐々木義明, 田頭昭二 山口大学機器分析センター報告11, 8-12, 2003

Top of This Page