タンパク質の相対比較定量による大腸癌特異的バイオマーカー探索

タンパク質の相対比較定量による大腸癌特異的バイオマーカー探索

安定同位体標識キット(NBS試薬)を用いた相対比較定量による大腸癌特異的バイオマーカー探索

定量的プロテオーム解析用安定同位体標識キット(NBS試薬:13CNBS®Stable Isotope Labeling Kit-N)を用いた相対比較定量による大腸癌特異的バイオマーカー探索例をご紹介します。

(実験・研究の流れ)
1.大腸癌患者から摘出された大腸正常部位及び大腸癌病変部位(各30~50mg)組織から,主に細胞質局在タンパク質を含む可溶性画分と,細胞膜局在タンパク質を含む不溶性画分に分けてタンパク質を抽出する。  
2.正常部位由来タンパク質を軽い試薬(12C-NBS)で,癌部由来タンパク質を重い試薬(13C-NBS)でそれぞれ安定同位体標識する。
3.標識したタンパク質試料を混合し,トリプシンにより酵素消化を行い,得られたペプチドをナノフローLCで分離する。   
4.MALDIプレート用スポッティング装置(AccuSpot)により,ナノフローLCからの溶出液を直接MALDIプレートにスポット分取する。
5.384ウェルMALDIプレート上にのせられた分画試料をMALDI-TOFMS(AXIMAシリーズ)の自動測定モードによりMS測定する。
6.得られたMSデータに対し,定量的プロテオーム解析支援ソフトウェア TWIPを用いて定量解析を行い,変動の大きい注目すべきピークを選択する。
7.TWIPで選択されたピークに対して更にMS/MS測定を行い,Mascot検索(MS/MS イオンサーチ)によりタンパク質を同定する。

(結果)
TWIPを用いて検出された6Da差を有する約3000ペアのピークに関して,70%以上の症例において癌部位/正常部位由来ピークのイオン強度比が±1.5倍以上の差を有するもの(320ペア)を選択し,Mascot検索(MS/MSイオンサーチ)によって変動タンパク質を同定しました。
可溶性分画と不溶性分画からそれぞれ検出した結果を合わせ,大腸癌組織で発現が亢進するもの71種類,大腸癌組織で発現が低下するもの57種類の計128種類のタンパク質が同定されました。これらの内,98種類のタンパク質については新規に同定された大腸癌関連のタンパク質でした1)

図1:ウェスタンブロット解析による発現変動の確認例  N : 正常部位 / T : 癌病変部位

図2:免疫組織化学染色による各タンパク質の大腸組織における発現パターンの評価

検出されたマーカー候補タンパク質に対する抗体によるウェスタンブロット解析や免疫組織化学染色によって,NBS試薬を用いて得られた癌病変に伴うタンパク質の発現変動の結果を確認/評価しました。
図1では,癌部位にて発現が亢進していたタンパク質の一つ,Zyxinのウェスタンブロット解析の結果を示しています。Zyxinの他にも,Reticulocalbin 1,Galectin-1,Ras related nuclear protein,Vimentin,S-adenosylhomocysteine hydrolaseなど多くのタンパク質においても,NBS試薬による定量結果と合致する結果が得られており,NBS試薬による定量評価の妥当性が検証されました。さらに,免疫組織化学染色によって,これらの大腸癌で発現亢進が見られるマーカー候補タンパク質が癌病変組織のどの部位で主に発現しているのかを評価し,癌細胞や間質細胞に局在した発現亢進を確認しています(図2)。また,この例の他,腎臓癌に関してもNBS試薬を用いた解析からマーカー候補タンパク質が多数同定されています2)

NBS試薬を用いるバイオマーカー探索システムは、上記のような臨床検体を用いた解析においてもその有効性が実証されており、疾患特異的バイオマーカーの探索など生体試料中の微量マーカー候補タンパク質の高感度検出に極めて有効です。


参考資料
1) Watanabe, M., Takemasa, I. et al. (2008). "An application of the 2-nitrobenzenesulfenyl method to proteomic profiling of human colorectal carcinoma: A novel approach for biomarker discovery." Proteomics Clin.Appl.2(6): 925-935.
2) Okamura, N., Masuda, T. et al. (2008). “Quantitative proteomic analysis to discover potential diagnostic markers and therapeutic targets in human renal cell carcinoma.” Proteomics 8: 3194-3203.

NBS試薬キット

定量的プロテオーム解析用安定同位体標識キット
(NBS試薬:13CNBS®Stable Isotope Labeling Kit-N)

NBS試薬は血液・細胞・組織などの生体試料に対して,特定の病気に特有なタンパク質(バイオマーカー)の網羅的・定量的解析に用いることができ,バイオマーカー探索研究に高い効果を発揮します。このNBS試薬で処理したサンプルをHPLCMALDI-TOFMSを用いて解析し,定量的プロテオーム解析支援ソフトウェア TWIPと組み合わせることにより,効率良く目的タンパク質を探索・同定することが可能となります。

レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計

MALDI-TOFMS AXIMA Performanceは高エネルギーCIDを搭載したTOF-TOFタイプのMALDI-TOFMSです。
MS/MS測定の更なる高感度化で信頼性の高いプロテオーム解析を提供します。多検体の自動MS(またはMS/MS)測定とMascotデータベース検索の組合せで,マーカー候補となるタンパク質を迅速に同定します。

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