紫外可視分光光度計を用いた測定では溶液の測定が広く行われています。溶液測定で用いられるセルには多くの種類があります。セルの材質,光路長,容量により用途や目的が異なり,使用する際に注意すべき点もそれぞれ異なります。
これら種々のセルの特長と使用する際に注意すべき点について紹介します。

1. セルの材質

各種材質のセルの測定波長範囲

表1. 各種材質のセルの測定波長範囲

セルに使われる素材は測定を行う波長で吸収がないことが求められます。一般にセルによく用いられる素材はガラスと石英です。使い捨てのセル(ディスポーザブルセル)では主にポリスチレン(PS)やポリメチルメタクリレート(PMMA)がセル素材として用いられています。各種セルが使用できる波長を表1に示します。

各種セルの透過率

図1. 各種セルの透過率


このようにセルの素材により測定可能な波長範囲が異なります。空気を対照とした各セルの透過スペクトルを図1に示します。表1に示している測定波長範囲においてセルによる吸収がないことが確認できます。

2. 低濃度試料,高濃度試料の測定

また測定波長とは別に耐薬品性の問題があります。ガラス,石英は強アルカリ性の溶液以外には非常に優れた耐薬品性を示します。これに対して樹脂製セルは材質により耐薬品性が異なりますので注意が必要です。 その他の注意すべき点としてディスポーザブルセルは基本的に使い捨てで使用しますが,個々のセル光路長は若干の差異があります。このため定量値に誤差を生じることがあります。

 

通マンガン酸カリウムの吸収スペクトル(光路長100mmおよび10mm)

図2. 通マンガン酸カリウムの吸収スペクトル
(光路長100mmおよび10mm)

まず測定する波長,使用する溶媒によりセルの種類多くの溶液測定では主に光路長10mmのセルが用いられます。しかし試料濃度が低い場合は,十分な吸光度が得られないことがあります。試料を濃縮することで10mmのセルを用いることができますが,濃縮の過程で試料が揮発する場合や化学変化を起こす場合などでは濃縮が困難です。このように濃縮が難しい場合には光路長の長い「長光路長セル」を用いた測定が有効です。長光路長セルにはセル光路長が20mm,50mm,100mmのセルがあります。セルの光路長に比例して吸光度が大きくなります。図2に光路長10mmセルと光路長100mmセルを用いて10mg/L過マンガン酸カリウム溶液を測定した結果を示します。100mmセルの吸光度が10mmセルの吸光度より10倍大きいことが確認できます。

よく知られている長光路長セルを用いた測定に水の濁度測定があります。濁度の低い試料を測定する際に光路長50mmのセルや100mmのセルがよく用いられます。

一方,高濃度試料の場合,試料を希釈すれば光路長10mmのセルでの測定が可能です。しかし溶媒との相互作用の関係で試料を希釈すると吸光度変化(ピーク波長移動)が起きてしまうなど,希釈が容易ではない試料があります。

トルエンの吸収スペクトル(光路張1mmおよび10mm)

図3. トルエンの吸収スペクトル
(光路張1mmおよび10mm)

このように吸光度が高いにもかかわらず,希釈が困難な場合には「短光路長セル」を用いた測定が有効です。短光路長セルには光路長1mm,2mm,5mmのセルがあります。図3に光路長1mmセルと光路長10mmセルを用いてトルエンを測定した結果を示します。1mmセルでは10mmセルと比較して吸収の飽和(透過率が0%になること)が起きにくいことが確認できます。

短光路長セルを用いた測定でよく知られているものに近赤外領域の溶液測定があります。近赤外領域の測定において10mmセルを用いると溶媒による吸収が飽和し,試料の吸収が得られないことが少なくありません。溶媒による吸収の飽和が起こらないようにするために短光路長セルが用いられます。
低濃度試料,高濃度試料では,吸光度や透過率の大きさを目安にセル光路長を選択します。

3. 微量試料の測定

試料量が少なく通常の10mmセルでは測定に必要な量(必要試料量3mL)に達しない場合に有効なのが微量測定用のセルを用いた測定です。微量測定用のセルは,セルの容量により「セミミクロセル(必要試料量1mL)」,「ミクロセル(必要試料量400μL)」,「超ミクロセル(必要試料量50〜100μL)」があります。使用する装置の光束のサイズにもよりますが試料部分以外に測定光が当たらないようにするため,各微量測定用セルでは専用のセルホルダを使用します。図4に超ミクロセル(試料量50μL)を用いた試料の測定結果を示します。容量が少ないセルでは試料に照射する光量が減りますので若干ノイズが増えますが良好な結果が得られていることが確認できます。

ウシ血清アルブミンの吸収スペクトル(超ミクロセル試料量50μL)

図4. ウシ血清アルブミンの吸収スペクトル
(超ミクロセル試料量50μL)

これらのセル以外にも「3μL超微量測定キャピラリセルセット」があります。非常に細いガラス管に試料を入れるため光路長は0.5mm相当になりますが僅か3μLの試料量で測定可能です。 微量測定用のセルを用いる測定としては水中の非イオン界面活性剤の分析や抽出タンパク質,DNAの定量などがよく知られています。
試料が微量の際には得られる試料量を目安にセルの容量を選択します。

4. 揮発性試料の測定

溶液測定で使用される一般的なセルでは揮発性の強い試料を測定すると,測定中に試料や溶媒が揮発して濃度が変化してしまいます。このような揮発性試料に有効なのが「密栓付きセル」です。セルに試料を入れたのち密栓をすれば,試料の揮発を防ぎ正確な測定が可能です。
揮発性の試料の場合は密栓付きセルを選択します。

5. まとめ

今回は一般的に使用されているセルを中心に特長や注意点を紹介してきました。この他にも光路長0.05mm(50μm)と非常に光路長の短い組み立て式セルや試料量わずか10μLで光路長10mmの測定が可能なセルなど種々のセルが市販されています。測定に適したセルを使用することで,より正確で簡単な測定が実現できるようになります。