テキサス大学アーリントン校

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    Hyper Vision HPV-X2

航空機では寿命の予測が重要ですが,複合構造体は複雑な故障モードが相互に作用するため解析が難しいとされてきました。先端材料として航空機に使用される複合材料では破壊過程が複雑で,今まで以上に寿命予測が難しくなっています。

今回ご紹介するProfessor Andrew Makeevは,テキサス大学に複合構造体の研究所(AMSL)を設立し、先端材料を用いた研究を行っています。近年,航空機関連の企業との共同研究で複合材料の構造解析と機械的特性において多くの成果を出され,寿命の予測に加えて,先進複合材料の開発を目指しておられます。これらの研究に,当社の高速引張衝撃試験機(HITS),高速ビデオ式カメラ(HPV)が使われています。複合材料の高速衝撃過程の可視化を行う為に,当社の高速ビデオ式カメラを2台使用し,3D-DIC(3次元 DigitalImage Correlation)の手法を用いられています。

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アンドリュー・マケーエフ 教授

アーリントン校機械・航空宇宙工学部
アンドリュー・マケーエフ 教授

*お客様のご所属・役職は掲載当時のものです。

テキサス大学アーリントン校
URL https://www.uta.edu/academics/schools-colleges/engineering/research/centers-and-labs/advanced-materials-and-structures-laboratory

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インタビュー

ご自身の研究の内容と,Advanced Materials and Structures Lab UTAにおける役割について簡単にご紹介ください。

私はテキサス大学アーリントン校(UTA)の機械・航空宇宙工学部の教授とAdvanced Materials and Structures Lab (AMSL—https://www.uta.edu/academics/schools-colleges/engineering/research/centers-and-labs/advanced-materials-and-structures-laboratory)の所長を兼任しております。私がAMSLを設立したのは2011年ですが,それ以来,特に回転翼航空機の分野で産官と協力をし,材料や構造に関する切迫したニーズや長期にわたる懸念事項に対処するできる非常に成功した例となっています。AMSLは米陸軍,海軍,空軍,および航空宇宙業界の支援を受け,先駆的な理論的研究や実験研究に尽力してきました。たとえば,設計と製造の工程を統合させて複合材料の性能を高める研究,最先端の材料技術,材料特性化,構造診断,予測といったことに取り組んでまいりました。私たちが手掛けた最近の研究成果は,査読のある上位の学術誌に20本以上の記事が記載されたほか,国内外のカンファレンスで「最優秀論文」賞を受賞した実績があります。第36回European Rotorcraft Forumでは,在米の著者として最初で最後のCheeseman Awardを授与されました。American Helicopter Society Forumでは,構造・材料に関する最優秀論文賞を2013年,2014年,2016年に受賞。2013年にはAmerican Society for Compositesの最優秀論文賞を受賞しました。Office of Naval Research (ONR)からAMSLの「Integration of Design and Manufacturing Process to Improve Performance of Composites」プロジェクトに授与された助成金により画期的な技術が生まれ,2013年のONR Innovation NewsletterのBreakthrough Technologiesの「Composite Structures, A View from Inside」で紹介されました。現在は,研究の成果を活かして,より強固で耐久性に優れた航空機・航空宇宙業界向けの材料の開発と承認を早急に進めているところです。

ONRプロジェクトについてもう少し詳しくお聞かせください。AMSLの研究者は,ONRプロジェクトを通じてBell Helicopter Textronと提携して研究に取り組んでいると聞きました。これをお聞きしたいのは,当社のプロジェクトが軍事関連や,大量破壊兵器の開発に使われないことを確認したいからです。

私たちは大学の研究所で基本的な研究を行っているので,兵器の開発には関与していません。米国政府からの支援を受けた研究成果は,査読された学術誌や会議議事録の形で公開されています。特に,ONRプロジェクトに選ばれた「Integration of Design and Manufacturing Process to Improve Performance of Composites」では製造において生じる欠陥が複合材料の強度や耐久性に与える影響について,理解を深めることができました。このような取り組みによって開発された基本的な方法は,DICやCTデータで研究対象の現象の物理特性を捉えるために活用されています。

従来の材料と比べ,複合材料の試験で困難な点についてお聞かせください。

従来の材料と比べると,変形メカニズムや故障メカニズムの異方性と複雑性,製造工程の変化による影響を大きく受けやすいことです。製造上のむらや欠陥が複合構造の残留強度や残存耐用年数に与える影響はまだあまり理解されておらず,大きな影響が及ぶことも考えられます。最近,American Helicopter Society Forumで発表した講演論文「Analysis Methods Improving Confidence in Material Qualification for Laminated Composites」(PDF版はhttps://www.uta.edu/academics/schools-colleges/engineering/research/centers-and-labs/advanced-materials-and-structures-laboratoryのSelected Recent Publicationsからダウンロード可能)でも述べたように,「最近開発された低重量で高い機械的強度および剛性を実現する高性能材料の導入を遅らせる原因となっている大きな課題とは,効率の良い共通の材料試験が存在しない点である。既存の標準的技法は費用も時間も膨大にかかる。材料許容値試験の信頼度が低いため,一見すると些細な変化が複合システムに見られても,その都度数々の試験方法および多数の試験マトリックスを材料試験工程全体で繰り返さなければならない」ことも挙げられます。DICやCTなどの高度な測定技法に基づく研究は,積層複合材料の材料試験の信頼度を高めるために必要不可欠なものです。一般的に測定されていない検証なしに仮定される主な材料特性も,すべて測定することができるからです。
UTA Research MagazineがMaterial World (http://www.uta.edu/inquiry/spring16/features/material-world.php)に2016年春に記事を掲載しましたが,その一節「Predicting and Preventing Defects」で,複合材料の試験が抱える問題を解決するためにしばしば取られる方法が示されています。特に3つの重要な要素をまとめることに成功しました。1つ目は,高解像度コンピュータートモグラフィー(CT)ベースの非破壊内部計測と構造診断により,欠陥の位置と規模を3Dで正確に測定し,構造モデルに自動的に移行すること。データを自動的に移行すると,試験者の専門知識のレベルや解釈に依存せず客観性がもたらされるため,一貫した結果が得られます。2つ目は,デジタル画像相関法(DIC)による正確かつ効率的な方法により,機械的試験を最小限に抑えつつ,複合材料の特性を3Dで捉えられること。そして3つ目は,物理的観測と材料特性をコンピューター分析と組み合わせて複数の欠陥モードやその相互作用を捉え,構造的な生涯能力を予測することです。2016年,AMSLは,産業が製造過程での欠陥を制御できるようにするための4つ目の要素(製造上のむらの発生場所を予測する方法)の研究にも着手する予定です。製造関連の欠陥を予測できる複合工程のシミュレーションツールの開発にも取り組みます。これらのツールをAMSLのツールに組み込んで構造診断や性能予測に活用することで,製造工程の効果的な制御方法が確立されるため,重大な欠陥の発生を防ぎ,複合材料の可能性を最大限に引き出すことが可能になります。

AMSLでは最近,CTなどの装置をNorth Star Imagingから入手されたと聞きました。
当社の北米子会社も昨年からCT事業に参入しております。北米市場でのブランド構築や,サポートやメンテナンスを含む包括的なサービス提供も早急に行えるように積極的に取り組んでおります。非破壊検査の分野で,より密接に連携できることを願っております。

AMSLではNorth Star Imagingの最先端のマイクロフォーカスCT設備を利用しております。また,最近ONRは,11 kip (50 kN)の負荷フレームの設計と統合など,この設備の現場でのスキャン機能の開発も支援しています。UTAではSMX-100CTも購入しており,AMSLはこのシステムを少なくとも50 %以上の時間は利用することにしております。今後,用途についてさらにコミュニケーションを図ることを期待しています。

DICと従来の画像測定の違いは何ですか?

応力ひずみの材料特性の評価や,強度,疲労,耐衝撃特性など材料や構造の特性については,DICの全視野計測技法では立体画像を使用して試験片の表面のランダムな構造の位置を数値化することによって評価します。DICはひずみゲージ法に比べると柔軟性に優れており,強ひずみ勾配分布を評価できます。また,DICでは試験方法を設計することもできるため,複数の材料特性を1回の実験で測定し,なおかつさまざまな負荷比率(準静的,疲労,衝撃条件など)で同じ試験構成を使用できます。たとえば,AMSLが開発した2つのDICベースの試験方法のみを使用し,多方向の積層複合材のひびや層間剥離を予測するために基本的な材料特性を数値化することができます。これはシンプルな単一方向の試験片を使用する方法です。DICベースの方法は頑強で,他の方法に比べると試験片の準備にかかる労力も少なくて済みます。

3D測定の利点は何ですか?

3D測定は面外変形を評価できる唯一の方法です。また,小さいひずみに適用できる線形弾性の仮定の限界を超えた場合に,面内ひずみ成分を測定する際に欠かせません。通常,面内ひずみを正確に計算するには,面外変位を測定する必要があります。

研究で使われている島津製の高速カメラは何台ありますか?

最初は2台のHPV-2AカメラベースのDICシステムを使っていました。その後,HPV-Xカメラを1台入手し,最近それをHPV-X2にアップグレードしました。現在,2台目のHPV-X2カメラを入手しているところです。

HPV-2Aと比べ,HPV-X2の利点は何でしょうか?

フレームレート,解像度,光感度が高い点と,記録枚数の多さです。

研究において,HPV-X2の最大10 M fpsの速度が必要な理由を教えてください。

最大5 M fpsの速度で,カメラの最大解像度でしかDICを行えません。低速の衝撃荷重下であっても,試験片の負荷に対する反応を捉える際,少しのひずみ振動も見逃したくないので,高いフレームレートが必要なのです。

HPV-X2の感度は従来モデルの6倍にアップしました。高感度なHPV-X2をご使用中に,利点を感じられたことはありますか。

はい。ストロボライトが必要となる状況が少なくなりました。

HPV-X2に追加して欲しい機能や,改善が必要な機能はありますか?

低速カメラと同じくらい良いレベルで,DIC分析の画像前処理が行えることを望んでいます。特にCorrelated Solutions社のVIC-SNAPのフル機能が必要です。これには画像取得の前処理機能だけでなく,読み込みフレームと読み込みデータとの正確な同期も含まれます。

島津にどのような製品やサービスを期待していますか?

島津は市場でも最高の分析・測定装置を幾つか製造されてきました。そのため,今後もサポート,メンテナンス,ソフトウェアやハードウェアのアップグレードも含め,最高レベルのサービスを提供されることを期待しています。

島津に対する印象をお聞かせください。

島津は非常に信頼できる企業で,UTAとしても,コラボレーションも含めて関係をさらに強化していきたいと考えています。複合構造の製造欠陥の非破壊検査について,相互にとって興味深いコラボレーションも行えるかもしれません。特に,AMSLではX線コンピュータートモグラフィーの物質サイズの上限を解決するべく,ソフトウェア機能の開発に取り組んでいます。AMSLが開発したコードを実行すると,産業用CTで現在使われているアルゴリズムなどさまざまな再構築アルゴリズムを比較できます。また,角度制限されたトモグラフィーについて期待できる方法もあります。

本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。

インタビュアーコメント

Hyper Vision HPV-X2

Hyper Vision HPV-X2

今回Professor Andrew Makeevは,最新の高速ビデオ式カメラ(HPV-X2)対応のCorrelated Solutions社製3D-DICソフトの完成に際し,本システムで得られる撮影データと操作性の確認を目的に来日されました。 現時点で,本システムは島津しか実現出来ない強度評価システムであり,高速衝撃試験が重要な複合材料の評価では有効です。米国と欧州が中心である航空機市場は自動車産業並みに大きな市場ですが,複合材料評価向けという切り口で,当社の強みである試験機や分析機器を積極的に提案していきます。