微量不純物分析用LCシステム

Co-Senseシリーズは,複雑な試料処理を自動化し作業効率を高めることを目的に設計された自動試料前処理LCシステムで,エーザイ株式会社様と島津製作所との共同開発によって製品化されています。今回は,このCo-Senseシリーズの開発に当初より関わっておられる浅川様に,開発に至った背景や,シリーズ新製品のCo-Sense for Impuritiesの特長などについてお話を伺いました。
※Co-Sense=The Collaboration of Shimadzu and Eisai for New Systematic Efficiency
"Co-Sense"とは,「感性の合作」を意味する本製品のコンセプトです。ユーザーとメーカーが一体になって,新しい価値を生み出すことを表しています。

今回のCustomer

エーザイ 株式会社
エーザイ・プロダクトクリエーション・システムズ ファーマシューティカル・サイエンス&テクノロジー機能ユニット シニア・サインティフィック・アドバイザー 薬学博士
浅川 直樹 様

※掲載内容(所属団体,役職名等)は取材時のものです。

エーザイ 株式会社様 Webサイト

インタビュー

第一弾のCo-Sense for NMR/MSを発売させていただいてから11年が経過しました。まずは共同開発に至った経緯や思い出話などをお聞かせいただけますか。

インタビュー写真1

最初にこの技術に取り掛かったのは1988年頃です。尿中や血中の代謝物の構造解析を行う際,その精製がとても煩雑で,しかも途中で分解することもあり,もう少し楽をしたいということで検討を始めました。当時のFAB MSにLCを接続して構造解析ができないか,これがCo-Sense for MSのきっかけでした。

以前,『LCtalk』(vol.49 2003年1月発行)にご寄稿いただいたときの「“楽をしたい”と思えば“楽しい”」というお考えが,非常に印象に残っています。楽をするために何を考えていくということが研究者としての喜びでもあったということでしょうか。

インタビュー写真2

「楽」 と言うのは効率的という意味をも含みますので,それがこの装置の出発点でしたね。ところがMSのデータだけでは構造が決まらず,どうしてもNMRのデータが必要になります。特に,代謝物や分解物には不安定なものが多く,LCで精製する際に,濃縮・乾固の過程で分解することがよくあります。そこでCo-Sense for MSにも使われている固相抽出を利用し,最終的に1mLぐらいの重溶媒に置換できるシステムCo-Sense for NMRを考えました。
 島津さんと一緒に製品開発することになったのは1997,1998年頃のことです。当時,島津さんから購入した3セットのLCでの実験結果がバラつくという事態が起こり,技術の方が京都から数カ月出張してくださり,当社とともにその原因究明にあたりました。そのとき,「島津さんはユーザーの目線というのを大事にしてくれるな」と感じました。一方で,なんとかしなければという営業や技術の方の,あの真剣さが非常に印象深かった記憶があります。中本(現・島津製作所社長)さんにもこちらに足を運んでいただいて,いろいろと経緯を説明しながら,両社で解決を模索しました。この一連のプロセスがお互いの信頼関係を生み出したのですね。この時に,実はLC/NMRシステムのアイデアの特許出願をしたのだけれども,一緒に製品化しませんかとお声をかけましたら,“是非,一緒に”と言っていただきました。ですから,始めてからは13,14年は経っていますね。最初に製品として発表したのは2000年のセミナーでした。

私どもにとって,エーザイさんと一緒にお仕事をさせていただいたことは,お客様とともに考えてモノ作りをする観点を持つ上で,貴重な機会だったと思います。現在では,いろいろなお客様と継続的に共同開発を行なっていますが,お客様のお仕事を理解して共に考えるという考え方は,Co-Senseシリーズの共同開発をきっかけに広く浸透したように思います。

インタビュー写真3

そう言ってもらえると,一緒に今までやってきて良かったと思います。

Co-Senseシリーズのなかで今いちばん反響がある,ホットな製品が昨年発売させていただいたCo-Sense for Impuritiesです。背景には2006年にEMEAが,2008年にFDAが示した遺伝毒性不純物(GTI)に関するガイドラインが公表されました。その辺りを改めてお聞かせいただけるとありがたいのですが。

ICHでは,不純物に関しての構造決定,規格化および報告の義務化のガイドラインをすでに公表しているのですが,その一文に「毒性の非常に強い不純物に関してはその限りではない」という文言があるのです。それが10年経って見ると,実はGTIだったか,という感じです。このガイドラインが出たとき,先ず,Co-Sense for ImpuritiesはGTIの管理に使えるなと思いました。

当然微量な成分を分析することが求められる。そこにCo-Senseの精製・濃縮能力が適用できるということを考えたのですね。

インタビュー写真4

Co-Sense for Impuritiesの最大の特長は,検出法がUVだということです。品質管理において高感度の測定が求められる場合,MSに比べてUVの安定した検出力というのはとても魅力的です。それは,いつでも,どこでも,誰でも正確な測定が可能であることを意味します。そう考えると,カラムスイッチングで2次元のLCを取り入れたことによってUVで検出できるというのは極めて重要であるし,そこがCo-Sense for Impuritiesのポイントだと思います。

最後の品質管理の工程までお仕事の量も見越したうえで,UV検出が最適だということですね。

GTIのガイドラインのなかに,TTC(Threshold of Toxicological Concern:毒物学的閾値)という限度値が記載されています。そこでは,例えばある薬を1日1g以上,1年間飲み続けるとしたら,そのGTIは1.5ppm以下に管理しなさいという規制になっています。1.54ppmは適品ですが1.55ppmだと不適品になります。それをMSで分析した場合に,そこまで精度が得られますか?と。試験法の確立にはバリデーションを含めて大変な作業がつきまとうのですが,安定したUVの検出力は確実に定量精度が確保できる。そこが重要なのです。

重要なポイントですね。

インタビュー写真5

さらに高感度を目指すとすればCo-Sense for Impuritiesは,まだまだ改良の余地は多分にありますが,現時点でも,化合物によっては数100ppbレベルまで定量できます。最近ではLC/MSで分析するのが分析屋の1つのトレンドになっている雰囲気があり,これはいかがなものかな,と思っています。いずれにせよ,私ども製薬メーカーが,如何に高品質の医薬品を恒常的に患者さんに提供できるのか。その品質を保証する評価法の信頼性はどうなのかなど,確固としたベースがないと今後の品質確保に難しい面も出てくるかもしれません。

MSは感度と特異性が高いのですが,直線性という意味での定量性や安定性ではUVが優れています。実際の用途を考えたときに,UV検出の特徴を活かすべき分析,MSよりもUVを選ぶべき分析というのは多いと思いますし,その点をメーカーとしても正しく伝えていく必要があると思います。今回,敢えてUVを使ったCo-Sense for Impuritiesを製品化させていただき,工程管理のなかで使うという本質的な意義が,私どもにもよくわかりました。ですので,ソフトウエアも視覚的でわかりやすく,一見複雑な2次元HPLC構成においても,簡単に操作ができるように作りました。
製薬会社さんから,例えば中間体・原料メーカーさんへの要求というものは厳しくなっているのですか。

インタビュー写真6

GTIとなると,これは製薬メーカーだけではなく,原料メーカーや原薬の製造受託会社にも直接,関係してきます。GMP下では,出発物質には,不純物を始めとする規格が必要となります。出発物質から重要中間体に要求される品質は,原薬の品質と同じレベルを求められるぐらいの感覚です。つまり製薬メーカーを対象とした分析装置Co-Sense for Impuritiesは,原料メーカーや原薬の製造受託会社,要は製薬メーカーに供給する原料および原薬の分析にも応用できるとも考えられます。

EMEAやFDAのガイダンスが背景にあるので,原薬,中間体メーカーが多いインドなど,グローバルに広がりそうですね。

製薬メーカーは,海外の化学メーカーからも原料調達しますし,海外生産も行っていますので,グローバルに展開すると思います。また,不純物の構造解析にはCo-Sense for NMRもCo-Sense for MSもうまく組み合わせていくといいですね。

グローバル化が進む中で,日本の分析技術の強みというのは何だとお考えになりますか。

日本の分析でいちばんの強みは精度です。これは相当レベルが高いと思います。逆に効率的或いは合理的に,というのは欧米のほうが強いですね。あの速さは日本にはないですね。日本はデータ1つの1つの質は高いのですが,もっと合理的に,スピードを増すためにはどうしたらよいか。こういうことを目指していけば世界と勝負できるのではないかと思います。

合理性,スピード,その感覚を採り入れていくということですね。
島津には今後このようにしてほしいというような,ご意見やご要望などをお聞かせいただけますでしょうか。

インタビュー写真7

島津さんは,ユーザー目線で,色々とディスカッションできるのが強みだと思います。当社も製造業なので,クレームを受けております。でもクレームには極めて重要な情報が入っています。クレームへの対応というのはユーザーとの信頼関係を築く1つのツールでもあり,そこに隠れている核心があります。クレームは将来への成長に向けての警告であり,それを大事にしていくことが自分たちの進歩・発展につながっていくと思います。孔子の言葉に「忠言は耳に逆らえども行いに利あり」というのがあります。忠言というものは,素直に聞けないのですが,役に立つものだということです。耳障りのいい言葉だけ聞いても嬉しいということだけ残って,将来に何もつながらないですね。ですから,苦言が大事で,またそれを言ってくれるユーザーを大切にする。島津さんはこのようなポリシーで進んでおられますので,これをさらに続けていただきたいと思います。完璧などというのは絶対ありえないわけですから,完璧に向かって知恵を出し合えるような,コミュニケーションの場を多く設けるといいと思います。そういうプロセスが,新しいものを生み出すきっかけにもなってくると思います。

Co-Sense共同開発のきっかけともなったエーザイさんでのトラブルには技術者も苦労したと思うのですが,経験や得られた知見はまた次の装置開発に生かされたと思います。今後はコミュニケーションの機会をさらに増やし,ユーザーさんの意見も聞きつつ,感動を与えられる製品を開発していきたいと思います。
それでは,最後になるのですが,浅川さんの分析に対するポリシーというか,お考えについてぜひお聞かせいただければと思います。

薬を創るということにおいて,分析というのは探索研究段階から商業生産までに至るほとんどの研究分野に関わっています。そこで果たすべき分析の役割はとても重要です。先日,創薬における分析の本の出版をお手伝いした際に,製薬メーカーの各研究分野の研究員を中心に32名の方々に執筆をお願いし,出版に至りました。薬理研究の人も,薬物動態研究の人も,安全性研究の人も・・・,これは何を意味しているかというと,やはり薬を創るということの土台は分析にあるということです。そこに自分が関れるという幸運を肌身で受け止めて,分析に携わる誇りを感じてもらいたいですね。それだけの意味合いをもっているのだという誇りをね。

今,製薬業界で分析に携わっていらっしゃる方へのメッセージですね。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

A bridge with our customers!
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インタビュアコメント

Co-Sense for Impurities

近年,不純物の分析手法に注目が集まり,今回お話をお聞かせ頂いたCo-Sense for Impuritiesだけでなく,10年以上前に開発されたCo-Sense for NMRはNMRのための効率的な分取に,Co-Sense for LC-MSはMS検出のための揮発性移動相への切替(関連技術資料:Technical Report No.39 「CMCにおける2次元LC/MSを用いた不純物同定の効率化」)に,今もその輝きを失わずお客様の関心を集めています。
浅川様よりコメント頂きました分析への誇り・責任・楽しみを常に認識しながら,今後もお客様と共に考え,新しい価値観と技術を持ったソリューションを提案していきたいと思います。

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