全有機体炭素計 TOC-V

日本薬局方では第16改正で製薬用水全般へのTOC適用拡大が検討され,また,洗浄バリデーションの分析方法としてもTOC測定は多用されるなど,医薬品の製造分野でTOCが活用される分野が広がってきています。今回は,バイオ関連医薬品の製造管理における洗浄バリデーションに島津のTOC計をご活用いただいている,中外製薬株式会社 秋山様に製品に関するご意見・ご要望を伺いました。

今回のCustomer

中外製薬株式会社
製薬本部
製薬研究部(生物技術)
秋山智洋 様

※掲載内容(所属団体,役職名等)は取材時のものです。

中外製薬 株式会社様 Webサイト

インタビュー

島津TOC-Vをお使いになっている目的をお話しいただけますか。

バイオ原薬の製造管理において,使用した設備が十分に洗浄され次回の製造に向けて汚れはないということを保証するための,洗浄バリデーションを目的として使っています。別の部門では同じTOC計を製薬用水の管理のためにも使っています。

サンプリング方法についてご説明いただけますか。

インタビュー写真1

サンプルとしては,洗浄後に設備をリンスした溶液と設備をスワブでサンプリングしたスワブそのものの2種類を測定しています。スワブ法は設備に残ったものをより直接的に評価できるのでできる限りスワブ法を使いますが,配管の中などスワブサンプリングできないのでリンス法で評価しています。設備の箇所によって使い分けをしていますが大体の場合は両方使います。私たちの部署は製法開発と治験薬をつくる部門なので,工場と違って品目の切り替わることがとても多く,残留の確認がより重要になっています。ここで確立された分析方法を宇都宮や浮間の工場に移管しています。

島津のTOCを選んでいただいた理由はどういったことでしょうか。

固体燃焼装置がまずありまして,スワブ/直接燃焼炭素測定法を使用できるというのが大きな理由でした。抽出法よりもメリットが大きいと思っており,それをやりたいということで島津さんの装置を選びました。

固体燃焼法を採用されている主な理由はどのようなことですか。

スワブ材をそのままサンプルとして直接燃焼させて測定するか,スワブ材を水で抽出して抽出液を測定するかだと思うのですが,直接燃焼する方法というのは抽出が必要ないので抽出によるロスが起きず,また回収率が高くなるという意味で,より高感度に,かつ高回収率で測定できます。そういった理由から,弊社では固体燃焼装置を使って直接的に測るという方法を採用しています。

他のお客様からは,スワブ法で拭き取ったときに拭き取るものの素材自体がそちらに残ってしまうリスクなどについてご質問を受けることがあるのですが,その辺りはどう思われますか。

インタビュー写真2

拭き取るものはシリカ繊維でできた濾紙なので毒性が低いですし,拭き取ったあとにまた蒸留水で中をリンスしますのでリスクは低いと思います。それと,抽出法を使うとするとどのような基材で拭くかというのは,拭き取りの回収率にも影響しますし,逆に吸着してしまうと抽出できないこともあるので,抽出法の方がよりスワブに使う基材について検討しなければいけない。逆にいうと,直接燃焼させる方法というのはシリカの濾紙ですべて回収できるということで,より汎用的に使えるのかなと思います。

なるほど,そうですか。ところでバイオ原薬の洗浄バリデーションにはほとんどTOCが用いられるのでしょうか。それ以外の方法も試されたことはありますか。例えば低分子薬のようにLCで測定されることはありますか。

ほとんどTOCだと思いますね。HPLCだと,バイオ原薬の場合は設備表面にタンパクが残ると,スワブして抽出するときに回収率が劣ったり,抽出したものをどういう方法で検出するかも,それなりに検討を要するし,回収率や感度についてもメリットが高くないので,スワブで直接燃焼するのがベターかな,と考えています。また,サンプルが変性する可能性もありますし,変性タンパクを測るというのも結構難しいので,炭素としてタンパクを測りましょうということです。それに,TOCという方法ならタンパク以外にも例えばバッファーとか培地といったものも含めて検出できるので,汚れを広範囲で見ることができるという意味にもなります。

島津TOCをお使いいただいたご意見・ご感想等を率直にお聞かせいただければと思います。

インタビュー写真3

旧機種のTOC-5000からTOC-Vになって,オートサンプラーにセットできるサンプル数が増えたことが良かったです。一日で処理できる検体数がだいぶ増えました。それから,酸の添加が自動でできて,レンジオーバーしたときにも自動希釈・測定ができるということで,利便性がかなり高くなったと思います。あと意外に便利なのが,自動的にシャットダウンしてまた再起動できることです。TOC計というのは燃焼炉が温まるまで使えない,立ち上げにちょっと時間がかかる装置なのですが,そういう時間の短縮が可能になり効率化につながっていると思います。
またノイズが少ないというのも特長のひとつだと思います。洗浄バリデーションは汚れがないということを証明しなければいけないので,どうしてもノイズが大きいとイレギュラーに測定値を拾ったりする可能性があります。TOC-Vはノイズを拾いにくいという実感があって,とても安定して測定できると思います。

ありがとうございます。TOC-VはTOC-5000に比べて検出器の感度が上がっているのでノイズも低くなっていると思います。

あとは,要望があります。固体燃焼装置はすごく大きな特長のある製品だと思うのですが,手動でサンプルをセットする必要があり,セットしたあとに2分間とか5分間とか待たなければなりません。また測定が終わったら,セットした部分をちょっと手前に引いて冷えるのを待つことがある,など装置に付き添っている必要があり待ち時間も多いので,そのあたりは改善する余地があると思います。自動化していただくとか。

現在,固体燃焼装置でオートサンプラーというのは無いのですが,どれくらいのサンプル数を考えられていますか?

20か30セットできるといいのではないでしょうか。スワブといってもタンクの中の1カ所をサンプリングするというより何カ所か代表的なところからサンプリングするので,一つの設備から測定サンプルが複数個出てきて,設備も何個かあることを考えると,20個ぐらいは必要です。リンス法は用水試験を考えるとたくさんセットしたいのですが,スワブ法で洗浄バリデーションを行う場合にはそこまでの数は要らないと思います。
それから,ディスポーザブルの標準品キットみたいなものをセットして,それを自動的に燃焼して測定し検量線を自動作成してくれるような機能があったらいいと思います。そんな自動化が可能になれば,もっと需要があるのではないでしょうか。

市場としても広がりますし,選択の幅が広がりますね。製品としてはちょっと大がかりになりますが,工夫しながらやらないといけないと思っています。今後の開発の参考にさせていただきます。

現状の装置に対する要望としては,スワブが終わったとき,終了をわかりやすくしてもらいたいと思います。今は測定終了の合図はパソコンの画面でちょっと出るだけです。音を鳴らしてくれるとか,何かしら固体燃焼装置の前に座っていても終わったということがわかるようにしてもらえるといいですね。

パソコンがいちばん左,TOC計を挟んで燃焼装置がいちばん右に配置されているので,動かないといけないですね。

あとは固体燃焼炉の温度が上がるのに結構時間がかかるなということで,われわれが準備して待機しないといけない時間がちょっとかかるという意味では,なるべく温度が上がる時間を早くして欲しいと思っています。

検討課題として持ち帰り,今後の開発の参考とさせていただきます。

インタビュー写真4

それから,同じTOC計をいろいろな場所で使うと,設置環境によって測定値が影響を受ける場合があります。ですので外部環境に影響をなるべく受けづらいように機器を開発していっていただきたいと思っています。そうすれば,どこかに技術を移管するときにその装置を設置して同じプロトコルでやれば同じ定量限界で値が得られるようになります。私たちは数台での情報しか知らないので,実際に設置環境によってどれぐらいずれるという情報があれば,例えばこの程度の環境の動きであれば大丈夫ですよというような情報が欲しいと思います。
例えば,LCを隣の部屋で使うと有機溶媒も使用するので大丈夫かなとかちょっと悩むことがあります。当然影響があると思うのですが,どれくらい影響があるのか情報があれば判断しやすいと思います。

定量的には難しいのですが,設置要項書にもう少し何かしら記載があればいいのかもしれないですね。温度のほうは温度勾配がどれくらいでとかそういうのは表記しやすいのですが,確かに有機性雰囲気の影響というとちょっと難しいところもあるので,例えばこういう雰囲気のときでこれくらいの影響が出るというようなものでもあれば,参考にしていただける材料になるでしょうね。実際に,ひょっとしたらこれは有機性雰囲気の影響かなという事例にあわれたことはありますか。

インタビュー写真5

今のところはないのですけれど,変な値が出たときに責任がとれないので,やめようということになってしまう。そういう意味で何かデータがあれば,これぐらいならいけそうだねという判断もあったのかなと思いますので。心配しすぎなのかどうかの判断がつかないのがいちばん問題なのかなと思うのです。心配しなければいけないのなら,いけないです,といわれたほうが安心できるし,意外と大丈夫ですよといわれたら,意外と大丈夫なのかな,やればいいのかなと思いますのでね。

これは重要なことですので,どういう形で情報提供するのがいちばんいいのかというのを含めて検討して,できるだけ早くに形にしたいと思います。
メンテナンスについては何かご意見などございますか。

インタビュー写真6

トラブルが起きたときに点検とかでよく来ていただくエンジニアの方に電話で相談させていただくと,結構的確に教えてくれるのでとても助かります。またメーカーによってはユーザーがメンテナンスをする,もしくは部品を交換するというのはあまりしないでくださいというのですが,島津さんは簡単なメンテナンスはやってくださいという感じで講習会をやってくれているようで,いいなと思います。ですから装置自体がもう少しユーザーがメンテナンスしやすくなると良いと思います。

紙芝居方式でメンテナンスの仕方が写真になって出てくるようになっている機器を時々みかけます。データ処理の画面のメンテナンスヘルプから見られるようになっているもので,やり方が画面で出てくればたぶん実際にされる方もそれを見ながらするのと若干違うのかなと思うので,ハード的に変えるというよりも,まずはそういうところでも簡単にできるのかなと思うのですがいかがでしょうか。

それはそうですね。確かに紙芝居方式というのはいいと思います。言葉で表現されると例えば排水ドレインといわれても,どのチューブが排水ドレインなのかわからないことがあります。電話で問い合わせていても,どれですか,奥ですか,手前ですか,白いのだ,太いのだという話を聞きながら,これだろうとやるのですけれど,そういう意味ではやはり画面が出てくるのは確かにいいですね。

マニュアルもちょっとわかりにくいと思われますか。そういうメンテナンスをしていただく部分に関しては。

そうですね。図は入っていたと思うのですけれど,やはり写真が入っていたほうがわかりやすいです。

少なくとも,もうちょっと丁寧に絵や写真を付けて分かりやすくということですね。話がちょっと逸れますが,当社の組織でCS統括部という部門ができ,そこが全社のマニュアルをチェックしたり,プロデュースするようになってきています。少しずつよくなってきていると思いますが,今後は,特にそういうメンテナンスのところを充実していきたいと思います。

インタビュー写真7

よろしくお願いします。

あと,年次点検は OQ点検という形でやっているのですね。こういうサービスプランがあれば利用したいのだけどなというものがもしあればお聞かせいただけますか。今は年次点検でやらせていただいているわけですが,TOCの保守契約もやっていますので,そういうものも利用いただければと思います。

工場みたいにたくさんのTOC計を動かしているところは故障に備えて保守契約もいいのかなと思っています。私たちのような治験薬の部署も,洗浄バリデーションという重要なところを担保するための装置なので,保守は重要なんじゃないかなと思いますね。

わかりました。ぜひご検討いただければと思います。
現在医薬品に関する分野でTOCが使われているのは主に製薬用水管理と洗浄バリデーションだと思うのですが,今後TOCを製薬工程全体のなかで使われる可能性など,もし思い当たるところがあればお伺いしたいのですが。

オンラインで測るというのが重要になってきていると思っていて,用水管理でもこれまでのオンライン管理にプラスしてTOCのオンライン計を取り付けるという動きは世界の中で活発になってきています。また用水管理に限らず洗浄バリデーションでもオンラインというのが重要になっているのかなと思っています。この先オンラインというキーワードで使用していく機会がTOC計は増えていくのではないかと思います。
洗浄バリデーションというのは,料理でいえば料理を作ったあとの後片づけのチェックのように裏方に近い仕事なのですが,とても重要だと思います。治験薬という人に投与される薬を造るということにおいて使われる設備が十分洗浄されているというのは重要なことであり,それを証明できる装置はそんなにないわけですから,その中でTOCは大きな役目を果たしています。私たちにとっては島津のTOC計は洗浄バリデーションの中核になっているし,とても役に立っていると思っています。

今日はいろいろとお話を聞かせていただき大変参考になりました。どうもありがとうございました。

A bridge with our customers!
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インタビュアーコメント

TOC-V

中外製薬様で洗浄バリデーションに使用いただいている,スワブサンプリングによる直接燃焼炭素測定法は10年以上前に島津が提案した手法なのですが,最新の製造管理でも有効に活用されていることを伺うことができました。今回お話を伺うことで,改めて洗浄バリデーションにおける本方式の効用を確認することができました。一方,測定の自動化などの装置に対する提案もいただいており,このようなお客様からの提案や要望を取り入れ,使いやすい装置,システムとなるよう今後の製品開発に取り組んでいかなければならない,と決意を新たにした次第です。

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