マルチディメンジョナルGC/GCMSシステム

高砂香料工業株式会社様には,島津マルチディメンジョナル(MD)GCの開発において機能面だけでなく使い勝手や装置の安定性などもご評価いただき,装置完成のために多大なご協力をいただきました。今回は光学活性香料のご研究などにこのMDGCをフル活用されている矢口様に,開発当時苦労されたことや現在の装置ご使用状況についてお話を伺いました。

今回のCustomer

高砂香料工業株式会社
研究開発本部
分析技術研究所 第二部
主管
矢口 善博 様

※掲載内容(所属団体,役職名等)は取材時のものです。

高砂香料工業 株式会社様 Webサイト

インタビュー

マルチディメンジョナルGCシステム(以下MDGC)は2003年ごろ,御社より島津へ開発・カスタマイズをご依頼いただいて完成させた装置ですが,きっかけについてお話いただけますか。

インタビュー写真1

もともと持っていた他社のMDGCは当時ヨーロッパの香料分析関係でよく使われていた装置でした。しかし大変複雑な装置でよく理解していないとなかなか使い込めないものでした。カラムの取り替えなど装置のハンドリングに時間とテクニックを要していました。それが長年使って老朽化してきたので,新しいMDGCにリプレイスする必要が出てまいりました。その際にハードウェア・ソフトウェアの両面で扱いやすい機器が欲しいということになり,弊社が希望するカスタマイズを受け入れていただけるメーカーさんを探していました。

その時島津にご相談いただいて,一緒に作りましょうという話になったのですよね。ハードウェア,スイッチング用の素子を何度か改良して,御社にお持ちして実際に使っていただき,またソフトウェアもMDGC用に簡単に使えるようにということで特注のソフトウェアを作って共に改良してきたという経緯がありました。そのときの苦労話のようものはありますか。

バッチ分析で10ラインの分析を仕掛けて帰宅し,翌日出社すると3つ終了した時点で止まっていたことがありました。非常に時間がタイトな中で実験を組んでいたので厳しかったですね。どうして止まるのかというのを技術者とディスカッションしながら,うまく動いていない部分を少しずつ改良していきました。もちろん今は止まるようなことはありません。

MDGCの開発初期の頃と製品化された時とではハードウェア,ソフトウェアともにかなり違ったものに仕上がっていますが,島津のMDGCでこれは良いというのはどの辺りになりますか。

インタビュー写真2

MDGCのソフトウェアとして改良のベースになっているのは島津ワークステーションのSolutionシリーズであるため,非常に使いやすいです。もちろん,シングルカラムのGCもGC/MSも十分使っていたので,MDGCを使う時の違和感はまったくありませんでした。

現行のMDGCシステムについて更に改良したほうが良いという点はございますか。

盛り込むべき機能は十分に入っていると思います。ちょっと細かい話になりますが,ネジ山がつぶれないようにするとか,そういう日常的な細かいところではあるのですが。システムとしては過不足なく,扱いやすいです。

じゃあ,完成度が高いということですか。

そうです。

ありがとうございます。現在はどのような構成で使われているか,また分析の目的についてお聞かせいただけますか。

インタビュー写真3

構成は,1段目がFIDの検出器で,AOC-20i(オートインジェクタ)とTD(サーマルデソープション)を切り替えながら使っています。2段目はMSがついている状態で使用しています。定性とキラル分析に使うことが多いですね。天然物中に含まれるキラル化合物は必ずしもラセミ体ではないので,その d 体と l 体の比率つまり70対30とか80対20とか割合を調べるのにMDGCを使っています。 d 体と l 体で匂いの質が違うという化合物が多く知られていて,例えば d 体100%の場合と l 体100%の場合で全然匂いが違うということがあります。弊社では不斉合成や酵素反応を利用して得られた光学活性香料をChiraroma®と称し調合素材として利用しています。

ということは,それらの光学活性体香料を用いて天然のものに近づけるための調合をしたりするのですね。ところでこのMDGCと通常のシングルカラムのGC,GCMSの使い分けはどのようにされていますか。

シングルカラムのGCMSは汎用的にルーチン用に決められたメソッドをひたすら測定するという使い方が多く,MDGCの場合は一つ一つ分析メソッド構築から入るという一歩踏み込んだ使い方が多いですね。よりわかりやすいデータが得られる,クオリティの高いデータを得たいときにMDGCに頼ることが多いです。

クオリティが高いというのは,ピークを確実に捉えるという意味でしょうか。それとも,実際には純度の高いピークという意味でしょうか。

インタビュー写真4

ターゲットの純度が高いときには普通のシングルカラムのGC,GCMSで分析することはそれほど苦でもないのですが,香気成分の組成物の場合,ピークが100本も200本も検出されます。そこから狙ったターゲットだけをきれいに取り出してその情報を得るというと,やはりシングルカラムのGCやGCMSでは分画,精製などで苦労を必要とします。天然物中のターゲット化合物の表裏( d 体, l 体)を見る場合,周りを全部きれいにしてから分析するのは現実的でありません。MDGCを使えばその複雑な組成物のなかから非常に簡便に狙った情報が得られてくるということです。

実際にGC分析条件はどんな形の分析条件を使われているか教えていただけますか。

1段目のGCは極性の高いWAX系カラムを通常使用しています。2段目のGCはキラル分析するときはキラルの光学異性体分離用のカラムですね。定性目的では極性の低いカラムと組み合わせて使うこともあります。定性目的のなかでは,匂いの化合物を同定していくうえでは匂いの強度と量の問題があって,量が少なくても非常に匂いの強い化合物があります。そういった場合,普通にシングルカラムのGC/MSで測定してもなかなか姿が見えてこないことがあるので,GC/O(スニッフィング)のデータとからめて一緒に使っています。

今回お使いいただいていて,島津MDGCシステムで期待どおりの結果が得られていますか。何か製品へのご要望といったものはありませんか?

インタビュー写真3

非常にきれいなクロマトがとれ,メソッド構築も簡便で,出てきたデータの解析も,それはMDGCのシステムというわけではなくて,GCMSsolutionに相応するのですが,非常にやりやすいので扱いやすいですね。現状のところほぼ機能としては十分だと思います。他のメーカーのGCMSのコントロールソフトウェアと比べても使いやすいシステムになっています。とくに再解析は秀逸です。ただ,GCsolutionと GCMSsolution を並べて何かいうのであれば,インターフェースはなるべく統一したほうがいいかなと思います。この二つのインターフェースは,メニューの配置とか,ルールが違うところが結構あります。一方で持っている機能がもう一方に無いとか,機能が違うとか,違う場所にメニューがあるとか,そういうことがあるので,両方頻繁に使う人にとっては,「あれ?」という感じです。

貴重なご意見ありがとうございます。 今後の開発の課題とさせていただきます。
また,将来的に既存製品以外でこういうものを出してほしいとか,こういうものを作って欲しいと思われるものはありますか。

GCの革新的技術開発を希望します。新しい次世代のGC技術を,世界の香料会社がみんなこぞって面白いなと注目するような新しい仕組みとか新しい技術が出てくるのが楽しみですね。もちろん島津さんにはそれができると思っています。

島津製作所あるいは分析機器全般に対してご意見,ご要望はありますか。

インタビュー写真5

いっぱいありすぎて難しいですね。ハードウェアとソフトウェアの関係というのがやはり重要だと思います。ハードウェアが良くても,ハードウェア屋さんだけが使えるものであってはユーザーが使えない。やはりインターフェースになる部分がとっつきやすかったりとか,見た目でわかりやすかったりとか,思ったところに思った操作メニューがちゃんとあるというのが非常に重要です。やりたいことを捜しても,どこを捜しても出てこないというのはユーザーにとっては大きなストレスです。ソフトウェアがよくないと,多機能・高性能であっても結局それを十分に引き出せません。もちろん説明書を熟読したらいいのですが,すぐわかりやすいところに操作メニューがないと結局は使いにくいということになってしまいます。やはりそこはとても重要だと思います。

ハードの性能だけでなくて,ソフトウェアの使い勝手と両方合わせもって本当にいいシステムということになるわけですね。今後も御社のご意見をお聞きして,いい製品を開発してまいりたいと思います。MDGCは御社のおかげでいいものに仕上がったと自負しております。今後ともよろしくお願いします。

お役に立ててなによりです。ありがとうございました。

高砂香料工業様の敷地内にあるバラ園では,バラが満開の時期を迎えていました。

A bridge with our customers!
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開発担当者コメント

MDGC/GC-2010

本装置の開発は2003年に高砂香料工業様より,「島津でより良いハートカット分析できる装置を開発する気はないか?」とのご提案を頂いた事に端を発しています。香料会社様は最も要求の高いユーザーの1つであるためにハードウェアの設計には細心の注意を払う必要がありました。また複雑な流路計算にも苦戦し,加えてより扱い易いソフトウェアの開発も不可避でした。特に2つのSolutionを同時に制御するMDGCsolutionはチェック項目が指数関数的に増えるために予想以上の開発の困難さを伴いました。最終的にハード,ソフト共に他社製品に対する優位性のあるシステムに仕上がり,開発の苦労が報われたとの思いを深めています。今後ともお客様にとって使い易い事を念頭においた製品開発に取り組んで行きたいと考えております。

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