沢井製薬 株式会社

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八木様のグループは複数のハイエンドLC/MSシステムの他NMRやIRなど多数の有機構造解析用分析装置を所有されており,混合物中の成分(不純物)同定のためのツールのひとつとして島津LCMS-IT-TOFをご利用いただいています。今回はLC/MSを用いた不純物分析における課題と弊社システムへのご要望についてお話を伺いました。

Customer

八木 卓 様

物性分析研究部
分析IIIグループ
薬学博士
八木 卓 様

*お客様のご所属・役職は掲載当時のものです。

沢井製薬 株式会社
URL http://www.sawai.co.jp/

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インタビュー

島津LCMS-IT-TOFシステムはどのような用途でお使いでしょうか。

インタビュー写真1

最近,後発医薬品は「高品質,高純度」と言われ,原薬然り製剤も純度を問われるようになってきています。LC分析では構造がわからない不純物があったとしてその構造がわからないと何でそれができているかわかりませんから,そのために構造推定するのが目的です。構造が推定できれば不純物の生成を抑える事も可能になり,高品質な医薬品の製造に繋がるわけです。今までもイオントラップ型のMSはありましたが,微量な未知化合物の構造推定をするためにいろいろ検討して,LCMS-IT-TOFを選びました。

最終的に弊社の製品をお選びいただいた理由についてお聞かせいただけますか。

いちばん大きかったのが金額ですね。FTMSとかになると桁が変わってきますので,その分有用性はあると思いますが,そこまでは出せなかったというのが正直なところです。低価格帯なところを考え,精密質量を知りたいということとMS/MSをかけたいのと,両方一度に測ることを考えると,最終的には御社のIT-TOFと他社のQ-TOFになるのですが,性能プラス価格という点でいちばん折り合いがついて良かったので御社のLCMS-IT-TOFを選びました。

コストと性能をシビアに見て選定していただいたということですね。ありがとうございます。実際のご使用状況ついてお聞かせいただきたいのですが,御社では何名ぐらいの方でLCMS-IT-TOFをお使いですか。

インタビュー写真2

誰かを担当と決めているわけではなく,グループ6人はみんな使っても良いということで管理しています。

6名の方がオープン機器のような形で使われているのですね。構造解析用の装置でも最近は使い方が結構楽になっていると思います。今までお使いのイオントラップ型との違いは精密質量測定ですが,それも含めてLCMS-IT-TOFならではの優位な点やベネフィットはございますか。

インタビュー写真3
最近の装置は違うのかもしれませんが,既存の装置は極性反転ができません。スキャンスピードもIT-TOFと比べてちょっと遅いです。未知化合物を測定する場合どういう条件で出るかわからないのが実際ですから,ポジティブで出るのかネガティブで出るのかもわからないともう一度測定しなければいけません。また,主成分であればいいのですが,たった0.1%とか0.05%の成分をきっちり分離していくということになると,それなりのカラムの長さが必要で分析時間も長くなります。vでは今まで2回測定するところが1回で済むようになりました。また精密質量測定ができるというのがやはり大きいですね。IT-TOFでMS/MSの精密質量が測れる,そこがいちばん重要ですね。構造解析するときにニュートラルロスなどが精密質量になるので,そのときに何が出ているのかがわかるようになってきました。

たった28のニュートラルロスでも整数だと,組成候補はCO,C2H4,N2など,3つぐらい考えられますよね。極性反転とMS/MSの精密質量スペクトルが取れるというところ,スキャンスピードが速いというところが優位だと思われる点ですね。では逆に改善すべき点や追加すべき機能などはありますか。

機械的には安定しているというお話だったのですが,1回のキャリブレーションで何週間も安定しているという感じではないのですね。もう少し,本当に1回チューニングをかけたら何週間も同じ状態になったらもっと良いと思います。それと現在は外標によるチューニングですが,内標も利用できて,それを用途に合わせて使い分けるということができたら良いと思います。現在は使用前に必ず一度オートチューニングをかけて使用するようにしています。

まだ新しいソフトウェアでお届けできていないと思うのですが,バージョン3.5という新しいソフトで新しいチューニングの機能を追加しました。オートチューニングの機能を使う場合,ポジティブ・ネガティブでだいたい20分程かかるのですが,新しい機能ではもとのチューニングファイルを補正するだけにしています。シリンジポンプは使うのですが,1分間ぐらいNaTFAクラスターを送液した後,その積算スペクトルを使って,既存のキャリブレーションファイルを補正し直します。この方法であれば,1日1回実行したとしても1分間で迅速にキャリブレーションを終了できます。ぜひお使いいただきたいと思います。

次によくお使いのLC分析条件はどのようなものですか。

インタビュー写真4

移動相は一般によく使われる,ギ酸水,アセトニトリルとか,TFAなどです。ギ酸系がいちばん多いかもしれません。まずLCメソッドで分離を確認してそこからMS用のメソッドに移行します。普通の医薬品ですとリン酸系のメソッドが多く,イオンペア系などもありそのままでは使えないので,それを使える条件に変更して,なおかつ分離も同じようになるようなものを探していきます。このプロセスが私達のMS分析での第一段階なのですが結構手間ですね。そうでないと,例えば私達がMSで出てきた成分を,この構造はこれだといっても,今度分析部門に持って行ったときに違うメソッドではどこに溶出するかわからない。本当にそれがそうなのかという話になったら,構造を決めている意味がなくなってしまいます。このメソッドのこの位置に出てくる成分が,この構造であるというのとイコールにならないとダメなので,同じになるようなメソッドを開発するというのがまずしなければならない仕事です。

メソッドを変えるときに溶出順位が変わることも結構ありそうですね。

あります。そういう場合はPDAでとって,UVスペクトルを見たりして,目的とする不純物がメソッドを変えたときにどこに移動するかというのも見ながら分離を確認していくので,そこでメソッドを確立させてからMSに取りかかるのまでは結構時間がかかります。とにかく分析時間の短縮よりもほぼ同じ順番に出てくるのが望ましいのです。リテンションタイムが多少ずれても,それは動かすことができますから。

LCからLCへというようなメソッド移管や開発用のソフトウェアは存在しますが,御部署ですとLC/MSへのメソッド移管・開発に絞ったようなソフトウェアあるいはソリューションができると現実に役立ちますね。あるいはLCメソッドがそのままMSで使えたらいいですね。

いちばんいいのはそうです。リン酸は問題ないですよというMS製品(メーカー)もあるようですが,実際にはそんなことは絶対ないと思いますので。

弊社としてはひとつ提案があるのですが,Co-Senseシステムというのをご存じですか。例えばリン酸系の移動相を使っているLC分析でピークトラップしながら移動相置換をしていくようなシステムなのですが,そのようなシステムにご興味はございますか。

NMRのための,Co-Senseというのをちょっと見たことがあるのですが,今言われているのはMS用ということですか。

MSのほうにリン酸化緩衝液がいかないようにするというようなシステムです。また機会があればご紹介させていただきます。

お使いのLCMS-IT-TOFシステムには,組成推定ソフトウェアとか,クロマト比較をするプログラムとかいくつかソフトウェアが入っています。データ解析ソフトウェアの全体像として,良い点やお気づきの点があればお聞かせいただきたいのですが。

インタビュー写真5

実はまだ全部を使いこなしていないですね。LCMSsolutionの組成推定プログラムは使っています。

正解である不純物の組成式が高い順位に入ってきていますか。

そうですね。それなりに入ってきていると思います。

あのソフトウェアのいいところは,MSのスペクトルのピークをクリックして,右クリックしてソフトウェアを立ち上げると自動的にソフトウェア判定して結果を出してくれるというところで,精密質量の装置ならではの機能だと思います。2クリックぐらいで結果が出てくるので,簡単に使えます。弊社では自信をもってお勧めしています。

NMRやIRなど他の構造解析手法と比較してLCMS-IT-TOFの利点はどのようなものだとお考えになりますか。

それはやはりサンプルが単一成分でなくてもいいということが一番ですね。混合物からでもLCで分離したものをそのまま見られるというのと,量も少なくて良いというのが大きいですね。NMRとかIRだともっと量が必

それはやはりサンプルが単一成分でなくてもいいということが一番ですね。混合物からでもLCで分離したものをそのまま見られるというのと,量も少なくて良いというのが大きいですね。NMRとかIRだともっと量が必要ですし,単品でないと何を見ているのかわからないので,だからそういう意味ではLC/MSの有用性というのは,単品にする必要がなく,感度もいいというので,とくに微量な不純物を見るには適していますね。

そうしますとお仕事の流れは,まずLCメソッドをLC/MSにかけられるメソッドに変えていって,すべてIT-TOFで測定して,推定構造を得るのですね。そのプロセスの中で,MSで構造が推定できなかった場合には分取して,補完的にIRやNMR測定を行うのですね。

その通りです。分取を行う,もしくは構造推定できれば,逆にそれを合成してみます。それで合成できたものをNMR・IR測定する,分取したサンプルもNMR・IR測定して,最終的に完全に構造を決めるという流れです。

では構造解析用の装置として,MS,NMR,IRがあり,その中でLCMS-IT-TOFの使用頻度が最も高いということでしょうか。

そうですね。いちばん上流に位置していますので,まずはLCMS-IT-TOFの測定から始まるという感じですね。

実際に精密質量測定ができるLCMS-IT-TOFが入って,以前に比べて構造推定のスピードが早くなっていますか。

インタビュー写真7

早くなったと思います。以前なら大きい分子量であっても,それが何であるかまず組成式から考えないといけませんでした。現在では組成式にある程度絞り込みができるので,では構造はどこがどう変化したものかと,すぐに次に進むことができるようになった分早くなっていると思います。

今後挑戦してみたいサンプルや測定法があれば,簡単にご意見をいただけるとありがたいのですが。

今は低分子ばかり扱っているのですけれど,それが変わっていく可能性もあると思っています。低分子から,抗体医薬とか核酸医薬に移行していけば,それに対応できるだけの技術を持っていないといけません。装置はお金を出せば何とでもなりますが,解析する技術というものを身につけていくべきだと思います。

システム全体についてもコメントをいただけたらと思います。

導入して良かったと思っています。当初は,既存の装置である程度測定して,最後に仕上げみたいにもうちょっと細かく知りたいところをIT-TOFで測ろうという話をしていました。でも実際は皆LCMS-IT-TOFが空いていればまずそれを使って,空いていなければ仕方がないから古い装置を使うというような感じになっています。データ量が十分で精密質量が測れるので二度手間,三度手間にならなくて済み,かなり有用です。

ありがとうございます。LCMS-IT-TOFは既に6カ月間ご使用いただいているのですが,メンテナンスの頻度はどれくらいですか。

インタビュー写真8

うちでは全然やっていません。メンテナンスとしては,ソースのところを拭いたのも1回か2回ぐらいです。そのあいだは全然感度とかそんなのは問題なくて。落ちることもなく安定して,スプレーも詰まらず,イオンが出ないということもありませんでした。

では最後に弊社のサポートや,分析機器メーカー全体に対してのご意見,ご要望などがあればお聞かせください。

サービスは早くできるのであれば,早い方が助かります。例えば朝電話をかけたら午前中に来てくれるというのが理想は理想ですが,それは他社さんを考えてもあり得ないことなので我慢するしかないです。IT-TOFを担当されている方がまだ少ないのかもしれないですね。

今のご意見を参考に,LCMS-IT-TOFのエンジニアを増やすようにしていきたいと思います。LCMS-IT-TOFは欧米やアジア・南米など海外の方が日本に比べて納品数が多いのです。弊社は日本のメーカーなのでエンジニアが海外へ行くこともあります。今後海外のエンジニアがもっと育ってくれば日本のエンジニアの仕事量も減ってきますし,海外のエンジニアがスペシャリストになっていくとさらに他にスペシャリストをつくることもできるので,そのへんはどんどん改善していきたいと考えています。今日のお話はとてもためになりました。LC/MS用のメソッド開発のところで何かいい提案ができれば良いと思いました。弊社のようにLC/MSを販売する立場としては,リン酸は使わないでください,メソッドを変えてくださいと,あまり気にせずに言っていたのですが,そこにはすごいご苦労があるということがわかりました。どうもありがとうございました。

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開発担当者コメント

液体クロマトグラフ質量分析計 LCMS-IT-TOF

インタビューの中でも取り挙げていただいた,LCMS-IT-TOFならではのベネフィットのひとつである0.1秒という高速の正負極性反転は,製品開発の過程で技術者が最も苦労した部分でもあります。「正・負ともに高い精度を保ちながら0.1秒での極性切替は無理」という弱音が出たこともありました。発売後,お客様にお役に立つ特長となり,開発メンバーもとても喜んでいます。

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