熱分析装置は,高分子材料・医薬品・食品等の研究開発・品質管理分野において材料のキャラクタリゼーションに利用されています。熱分析応用データ集より,いくつかの事例をご紹介いたします。
 

 



温度変調DSCシステムによるアプリケーションデータは,こちら(温度変調DSCシステムを使ったアプリケーション)でご紹介しています。

マーガリン中の油脂成分の融解

マーガリンに含まれる油脂はいろいろな種類の脂肪酸から構成されたトリグリセリドが多数集合しています。このマーガリンでは-33 ℃から22.4 ℃までの約55 ℃の広い温度にわたって数種のトリグリセリドの融解ピークが見られます。ここでは部分面積解析プログラムを使用してピークを縦切りすることによってピーク開始温度から任意の温度までの部分融解熱量を測定しました。

Fig.1 マーガリンのDSC曲線

小麦粉でんぷんの糊化

でんぷんは水とともに加熱すると糊化します。糊化反応は吸熱を伴うためDSCで測定することができます。ここでは小麦粉でんぷん(17.4 %)を測定しました。

Fig.2 小麦粉(17.4 %)の糊化温度

パン中のでんぷんの老化測定

でんぷんは水を加えて加熱糊化して放置すると,膨潤したでんぷん粒子内のアミロペクチンの会合再配列が緩やかに進行し,粒子そのものが堅くなっていくと言われています。これは「でんぷんの老化」と呼ばれています。ここではパンを測定しました。 焼き上げ直後のパン(Fig.3-1),1日経過後のパン(Fig.3-2),3日経過後のパン(Fig.3-3)と貯蔵期間が長くなるにつれて吸熱量が増加している様子が分かります。

Fig.3-1 焼き上げ直後のパンのDSC曲線
Fig.3-2 1日経過後のパンのDSC曲線
Fig.3-3 3日経過後のパンのDSC曲線

ウィスキーの分析

ウィスキーをシールセルに入れ密閉してDSCで測定しました。-74.2 ℃に見られる発熱ピークは,結晶化によるピークだと思われます。-65.9 ℃のピークはエタノールの融解、-49.8 ℃のピークは水とエタノールの共融、-25.6 ℃は水の融解によるピークであり、共融のピーク高さは貯蔵期間によって変化すると言われています。

Fig.4 ウィスキーのDSC曲線

アスピリン製剤の融解

融点や融解熱は,医薬品の基本的な熱物性値の1つであり,DSCによって求められます。ここでは解熱鎮痛,抗炎症作用のあるアセチルサリチル酸(アスピリン)を測定しました。

Fig.5 アスピリンのDSC曲線

カルバマゼピンの結晶多形の観察

カルバマゼピンは抗てんかん薬として使用されており、複数の結晶形が存在することが知られています。ここではカルバマゼピンI形(Fig.6-1)とIII形(Fig.6-2)を測定しました。それぞれ190 ℃付近に鋭い吸熱ピークが見られます。これはIII形結晶の融解に相当します。I形試料では170 ℃ から180 ℃にかけて吸発熱ピークが見られます。これはI形結晶が融解後,安定形であるIII形へ再結晶化を起こしたためと考えられます。

Fig.6-1 カルバマゼピンIのDSC曲線
Fig.6-2 カルバマゼピンIIIのDSC曲線

安息香酸と酸化マグネシウムの相互作用の観察

医薬品には種々の成分が混合されます。成分が相互に反応して変化していないかをDSCで容易に調べることができます。ここでは,安息香酸と酸化マグネシウムの相互作用についてDSCで検討しました。曲線1では安息香酸単体を測定しました。
122.7 ℃に融解が見られます。曲線2では酸化マグネシウム単体を測定しましたが,何も変化は検出されていません。曲線3では安息香酸と酸化マグネシウムを1:1 に機械的に混合してDSC測定を行いました。各単独のDSC曲線とは,全く異なるパターンを示し,両者の間で何らかの相互作用が起こっていることがわかります。

Fig.7 安息香酸と酸化マグネシウムの相互作用