Q2-1
SPMで観察できる試料はどんなものですか?
A
試料ホルダーに固定できる,表面を持つ固体試料が観察できます。

 SPMは,固体試料の表面に対して,大気中,液中,ガス雰囲気中を問わず,観察が可能です。大気中,液中,ガス雰囲気中での観察例を,それぞれ示します。

 

 SPMには,硬くて平らな試料がもっとも適切であり,そのような試料の場合は,試料ホルダーの位置に水平に置くだけで良質な像が得られます。
 留意すべき試料としては,変化の速い表面,固定されていない試料,根本は固定されていても上部は浮いている表面,時間経過で浮いてくる表面,アスペクト比(試料の断面構造の横と縦の比)の大きい表面(たとえば狭くて深い溝の底など)に対しては,観察が不可能であったり,観察と解釈に注意が必要な試料もあります。
 また,SPM装置が発揮できる性能(分解能,再現性,凹凸以外の信号取得の可否)は,試料の素性,表面処理方法,試料固定方法,試料近傍の雰囲気,使用するカンチレバーの種類・個体差,などにより大きく左右されます。とくに粉体のような微小な試料の固定方法,断面を見たいときの割断手法,生体試料のような軟らかい対象物の標本化や固定には多くのノウハウが必要です。
 「SPMは何でも見える」というのは言い過ぎです。SPMの原理や特性を十分に理解して,装置の性能を発揮できるように試料のコンディション(硬さ,固定方法,対象の露出方法,対象物の存在する割合など)を装置に適切となるように整えるのが,重要な研究課題となります。これは,他の分析装置でも同様の留意点です。

Q2-2
SPMで観察できる試料の大きさはどれくらいですか?
A
小型試料用タイプは,一般に10~20mm程度。ウエハサイズに対応する大型試料用のタイプもあります。

 市販のSPM装置には,実験用の小型試料に対応する装置と,ウエハなどの大型試料に対応する装置があります。試料の保持,固定と顕微鏡本体の剛性との関係で,小型試料用タイプの方が性能は良いといわれています。
 小型試料用タイプは,一般に探針に対して試料側を走査するように装置が構成されています。この場合,試料ホルダー(一般に10~20mm程度)をはみ出さない範囲の試料がセット可能です。試料の高さは一般に数mm~10mm程度がセットできます。図1に小型試料用SPMに試料ホルダーをまさに装填するところの写真を示します。このタイプでの注意点としては,撮像点はカンチレバー先端の探針の位置であるため,試料ホルダーの端の部分は観察できない場合が多いです。したがって観察したい目的の場所を試料ホルダーの中央付近に位置決めすることが重要です。小さい試料や粉体試料や生体試料は,ガラス,マイカ,シリコンウエハなどを基板として,その上に試料を固定する方法が採られています。また,固定した試料の観察面が,ほぼ水平になっていることが必須となります。

島津SPMに試料をセットしているところ,ピンセットで保持しているのが試料ホルダー(15mm径)

大型試料用SPMステージ廻り
(レーザー顕微鏡との複合機,SFT-4500)

 右図に大型試料用SPMのステージ廻りの様子を示します。このタイプの装置での注意点は,試料ステージの可動範囲と搭載できる試料寸法の違いです。試料ステージの可動範囲をL×Mmmとすると,L×Mmm以下の大きさの試料であれば,全面の任意の点にカンチレバー先端の探針の位置を合わせることが可能です。一方,搭載するだけであれば,2L×2Mmmまでの大きさの試料がセットできますが,この場合,移動するための左右や奥行きの余裕がなくなるため,試料中央部にしか探針の位置を合わせることができなくなります。なお,試料が大きくなると,全体を低倍率で把握するための光学顕微鏡などの組み合わせにも一層の配慮が必要となります。

Q2-3
SPMで観察できる範囲,観察倍率はどれくらいですか?
A
観察範囲は100nm~100µm,倍率は1,000倍~1,000,000倍くらいです。

 SPMでは,試料またはカンチレバーを試料面(XY平面)内で走査するスキャナの駆動範囲に応じて観察範囲が決まります。 市販のSPM装置では一般にスキャナが交換可能で,その走査範囲(=観察範囲)は使用するスキャナによって異なります(SPM-9700HTで使用できるスキャナは,オプションを含めて4種類)。 もっとも一般的なスキャナの最大走査範囲は10µm×10µm程度であり,すなわち,水平方向の観察視野(X,Y)が□10µmということです。 一方,垂直方向(高さ)の可動範囲(Z)は1µm程度です。
 もっと広い視野を必要とする場合,広域走査用の大きいスキャナでは,(X,Y)の最大値が100µm以上のものが用意されています。垂直方向(高さ)Zの最大値は10~15µm程度が多いです。ただしカンチレバー先端の探針部分の高さは一般に数µmであることと,根元へいくほど太い形状をしているため,数µmを超える深さの穴の底を見ることには適していません。例えば下図に示すように,アスペクト比(試料の断面構造の横と縦の比)の大きい表面の細い溝や穴の底には探針が届かない,アーティファクトが出るといった注意点があります。一般には試料の高さ方向の観察範囲は数µmまでが現実的です。

アスペクト比の大きい試料表面とカンチレバーの探針部分の模式図

 観察倍率は,出力表示上の長さ÷試料上の長さで計算できます。例えば,試料上で125µmの長さを,PCモニタ上,またはプリント出力上で125mmに表示した場合,その表示倍率は1000倍となります。これが一般的使用での“最低”倍率となります。走査範囲(=観察範囲)を小さくしていくことが,倍率を上げることに相当します。ソフトウェア上は,例えば0.1nmという走査範囲を設定して出力上で125mmに表示すれば,125mm÷0.1nm=12億5千万倍となりますが,これは計算上の数字に過ぎません。顕微鏡で重要なのは分解能であり,いたずらに引き伸ばしてもぼけた像となってしまいます。
 原子・分子を研究する最先端応用や超高真空中での使用を別として,一般的な走査範囲の最小は100nm程度までが実用的であり,その時の倍率は100万倍程度(125mm÷100nm=125万倍)となります。なお,SPMはデジタル信号で取り込むため,印画紙写真にアナログで焼き付けた時代のような原版倍率の概念はなく,倍率よりも走査範囲で表示する方が一般的となっています。