粉博士のやさしい粉講座
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初級コース:粉の世界へようこそ
 
3 環境分野と粉体測定
 
イラク(中東)からの黄砂
2003年3月25日~27日にかけて、西日本において黄砂が観測されました。

通常の黄砂は、中国大陸で巻き上げられた砂塵が偏西風に乗って飛来します。ところが、この時期、中国大陸では大規模な砂嵐の発生がなく、イラク(中東)で大規模な砂嵐が発生しており、これによって巻き上げられた砂塵が日本まで運ばれてきたものだと考えられています。
黄砂の粒度分布データ
上図に示すように、2003年3月26日に大気中の浮遊粒子を捕集し、測定した粒度分布データでは、1μm付近に、イラク(中東)からの黄砂によるピークがあり、また、30μm付近にスギ花粉によるピークが現れています。一方、2002年4月11日の粒度分布データでは、5~10μm付近に中国からの黄砂のピークが現れています。

イラク(中東)から日本までの距離は約8,000kmもあり、このような長距離を運ばれる間に、粗大粒子は徐々に沈降・落下し、微小粒子だけが日本まで到達するため、イラク(中東)からの黄砂のほうが、比較的距離の短い中国からの黄砂に比べて、かなり小さくなっていることがわかります。

地球の温暖化・乾燥化が進む中、人体や環境に対する黄砂の悪影響が懸念されています。実際、イラク(中東)で発生した砂嵐が、遠く離れた日本の大気に影響を与えるという事実には驚きを感じます。発生地点の違いによって生じる粒子径の差についても、今後、充分な検討を必要とするかもしれません。


なお、個々でご紹介したデータは、浮遊粒子サンプラSSPM-100で捕集し、レーザ回折式<粒度分布測定装置SALD-7000>で測定したものです。
 
黄砂と粒度分布
2002年の春、例年になく大量の黄砂が降り注ぎ、空も黄色っぽくなりました。日本では札幌での影響が最も大きかったようで、洗濯物を屋外で干せなくなってしまいました。さらに、北京、ソウルでの被害はもっと深刻なものであり、人的な被害も報告されており、警報も必要になってきたようです。
 
黄砂は、春の雪解けの後、ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠などで、強い風のために多量の砂塵が空中に吹き上げられ、比較的低い高度(約3,000m)で移動して中国、韓国、日本等に降り注ぐことになります。大きな粒子は比較的近距離で落ちてしまい、小さな粒子が遠くまで運ばれていきます。
 
例えば、中国の黄土は、黄砂が長い年月をかけて降り積もったものですが、その粒度分布(図1)は比較的大きく、日本国内で採取される黄砂の粒度分布(図2)はそれよりも小さくなっています。
図1 中国の黄土の粒度分布
図1 中国の黄土の粒度分布
図2 日本国内で採取された黄砂の粒度分布
図2 日本国内で採取された黄砂の粒度分布

地球温暖化が進み、各地で砂漠化が促進されると、黄砂の問題は益々深刻になってくることが予想されます。ただし、地理的条件と気象条件の関係から、欧米では黄砂に類する現象はそれほど問題にはならないようで、あまり研究も進んでいないとのことです。
 
したがって、黄砂の問題に直面するのは、中国、韓国、日本であり、今後この3カ国を中心に黄砂の研究が進んでいくことになります。黄砂の影響が及ぶ範囲とその粒度分布には密接な関係があり、重要な研究課題の一つになります。
 
沖縄県の赤土流出と粒度分布
沖縄県では、赤土の海洋への流出によって、さんご礁が取り返しがつかないほど大きな被害を受けています。
 
土地改良事業等を行う場合、土砂の流出防止対策として、土砂溜マスや沈砂池が作られていますが、これは、200μm以上の比較的大きな土砂粒子を基準に設計されていました。
 
 
赤土の平均的な粒度分布を測定してみると、200μm以下の粒子が4分の3を占め、さらに20μm以下の粒子も全体の2分の1を占めています。これでは、従来の手法では流出を食い止められないことがわかりました。
 
最近では新しい手法による対策がとられるようになりましたが、失われたさんご礁は戻ってきません。
沖縄赤土の粒度分布データ
沖縄の赤土の粒度分布
 
環境に役立つ新材料・新素材と比表面積/細孔分布
ダイオキシンの除去、シックハウス(ホルマリン他)対策、水道水からのクリプトスポリジウムの除去、地球温暖化ガスである二酸化炭素の排出抑制/分離/固定化など、いろいろな環境問題があり、それらの対策が検討されています。
 
 
その中で、活性炭、ゼオライト、モレキュラーシーブ、木炭、セラミック膜、中空糸膜、(光)触媒、金属錯体、カーボンナノチューブなど、多くの材料・新素材の開発と利用が進められています。
 
さて、ここで注目すべきことがあります。これらの大半が微細な構造(ナノサイズ)をもつものであり、吸着特性に特徴があるものだということです。つまり、比表面積や細孔分布測定は、これらの材料を評価をする上で非常に重要なものとなるのです。代表的な比表面積測定法であるガス吸着法を応用すれば、吸着特性に関する情報を得ることができます。
PDF ダイオキシン吸着用活性炭の測定例 その1
PDF ダイオキシン吸着用活性炭の測定例 その2
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