執筆者紹介

vol.82 HPLCに出会って四半世紀

坂 真智子 先生

財団法人 残留農薬研究所
化学部残留第2研究室 室長 (ご所属・役職は2012年1月発行時)

学生時代は農学部農芸化学科の食品保存学研究室に所属し,卒論のテーマが不飽和脂肪酸の分析であったため,最初の使用分析機器はGCであった。HPLCに出会ったのは,現在の職場に就職してからである。

弊所の主な業務は,農薬登録に必要な各種試験(安全性試験,代謝動態試験,作物残留試験等)の受託で,また,農林水産省,厚生労働省,環境省からの委託事業にも参画している。これら業務の担当部署は,化学部と毒性部で,化学部には残留研究室と代謝研究室がある。残留研究室では,作物,環境試料(土壌,水等)中の残留農薬分析,農薬の物理的化学的性状試験,毒性試験に使用する飼料や投与液中の被験物質等の分析,被験物質の純度分析等を実施している。

私が弊所に入所した当時は,農薬の分析法としてはGCが主流で,特に農薬は脂溶性が高く,熱をかけると気化するものが多かったことから,GCが測定装置として汎用されていた。このため,極性の高い農薬に対しても誘導体化を施しGCを用い分析していた。一方,HPLCに関しては当時まだ十分に活用されておらず,市販カラムの種類は少なく,品質も低く,ロット差があったことから,分析者が独自で工夫・充填していたことを思い出す。しかしながら,その後は徐々にHPLCがGCに代わって測定法として普及・汎用されるようになり,市販カラムも充実していった。それに伴いカラムの充填剤も改良され種類も増えたことから,自分で充填する必要がなくなり,新しいカラムが販売される度に購入し試したものである。当時の古いODSカラムには残存シラノールや不純物(金属等)が存在したため,農薬によってはピークがテーリングしたり,検出できなかったりしたこともあったが,それが新しいカラムによって改善された時は,本当に嬉しかった。

また,当時は試料に含まれる夾雑物の分離にも随分悩まされ,何でも分離できる魔法のカラムはないものかと同僚と語り合ったたことを今も覚えている。ただし,検出・分離で苦労したものの,HPLCは測定においては感度変化がほとんどなく,再現性も良かったので,大変助かった。これらの点を考慮して,HPLCではGCよりもかなり早い段階でオートサンプラーを導入し,その結果,一晩中運転が可能となり,こなせる分析点数も格段に増えたことは周知の事実である。

HPLCのハード面については,農薬分析ではUV検出器が主に使用されるが,感度がもう少し向上すると今以上に活用範囲が広がると思う。また,いくつかの農薬には蛍光検出器を用いるが,その特異性は貴重なものの,測定の安定性に問題があり,室温などの影響を受けやすく,感度の上昇や減少が生じる問題があった。この問題点をクリアした新しい機種「Prominence RF-20Axs」が島津製作所から最近発売された。すぐに購入を考えたが,予算の問題等から検討に時間を要することとなり,その間に次世代UHPLC「Nexera」が発表された。優れた拡張性,高分離および高速化の実現を可能とする本機種は理想的で,特にNexeraの低キャリーオーバーを謳ったオートサンプラーが魅力的であった。

これらの要素を色々と検討した結果,「Prominence(ポンプ,カラムオーブン,蛍光検出器,UV検出器)」+「Nexera(オートサンプラー)」という組合せを最終的に選択し購入に至った。希望を叶えて頂いた島津製作所,代理店の担当者の方には心から感謝する。ここまで拘って測定機器を購入した経験はなかったので,私にとって記憶に残る機器となると思う。最後に島津の製品をもうひとつ挙げるとすれば,それは「C-R4A」である。今後は,分析現場の中心ではなくなるので,直接,機器購入に携わることはないかと思うが,分析に対する拘りだけは持ち続けて,業務を遂行していく所存である。

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