執筆者紹介

vol.65 「次世代HPLCに期待して」

斉藤 邦明 先生

京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 教授 (ご所属・役職は2007年8月発行時)

私がHPLCに出会ったのは今から約20年前の大学院生時代のことである。 その当時アミノ酸輸送に関する仕事をしており,HPLCは代謝産物を分離することのできる機器としてしか当時は認識がなかった。
  私にとって今でも忘れられることのできないことの1つに,当時お付き合いのあったエンジニアとの出会いがある。 その方は,何も知らない私にとってHPLCの師匠であり,いくつかのHPLC技術のイロハを教えていただいた。 現在は引退されたとお聞きしているが,今思い起こしても改めて感謝している。
  その後,私は米国国立衛生研究所(NIH)に5年間研究員として滞在することとなり,その時のボス(Sanford P. Markey博士)が縁あって質量分析計(MS)をはじめとした分析化学を専門としていた。 私のような医学研究者にとっては,分析が必要なときに最先端の分析技術をすぐに使わせていただいたことは今から振り返っても極めて幸せであったように思う。
  その後,日本に帰ってからも私の傍らには常にHPLCがあった。 検出器は UV,PDA,蛍光,ECD,MSをはじめとして様々な検出器を利用した。
  2002年に再度NIH に上席研究員として招聘され,約2年間滞在した際には,プロテオーム,メタボローム解析が全盛の時代で,その際,同じ研究室に島津から出向して来ておられた方との縁があって,2次元ナノLC/MS/MSを使うことができたのも私の現在の財産となっている。
  多くの医学関連の研究者は,企業の一流研究者の開発したハイテクを利用し,多くの恩恵を受けている。 HPLCの概念はハイテクから広く一般に普及したと言う点ではローテクに近い技術になってきたかもしれない。 最先端のハイテクを駆使しないと一流の仕事ができないと勘違いしている研究者もいるが,私は実際にはローテクを如何に駆使するか,あるいはハイテクが生まれるまでの過程をよく理解することは特に若い研究者に極めて重要と考えている。

さて,タイトルにさせて頂いた次世代HPLCの到来が,研究やビジネスにもたらす影響について考えてみたのでご批評頂きたい。
  私は,HPLCの高速化,機器の高感度化と安定性,サンプルの微量化によって,今までとは明らかに異なったユーザーの満足感に加え多分野への応用を通じて新たなHPLCの時代(ビジネスチャンス)が来るように感じている。
  時は金なりといつの時代にも言われてきたが,今までのHPLC分析時間が,たとえば 1時間から 5分に短縮できることのインパクトがどれほど強いかは冷静に考えれば誰もが理解できると思う。 我々は時間には敏感であり,例は悪いが,列車の所要時間2時間が1時間30分になっただけでも,快適性と料金が同じであれば,多くのヒトがどちらを選ぶかは言うまでもない。 医療関係では,従来5時間かかっていた検査の所要時間が3時間になっても実はさほどインパクトはない。 理由は,病気を患っている患者様に,外来診療で結果が出るまで3時間待ってもらうわけにはいかないからである。
  ところが,その分析時間が30分から 1時間以内に入ったときには明らかに今までと異なった視野が見えてくる。 さらに,高速タイプの次世代HPLCは一度ユーザーが使用し,その利便性を体験すると,特殊な分析を除いて高速システムから従来のシステムにはどうしても戻れないように思う。
  これから,まだ次世代のHPLCに対応したカラムや検出器の改良,機器への新たなハイテク技術の応用などが必要と思うが,次世代高速型HPLCに私は期待している。

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