LC-MSの分析条件について その2「フローインジェクション分析」

LCtalk61号in the LAB

LC-MSの分析条件について(その1) では,第一選択移動相についての話をしました。 今回は,それを用いて簡単な分析を行い,LC-MSの分析条件を決めていく過程についての話をします。

 分析をするといってもはじめは,カラムを使いません。 溶媒(移動相)の流れに試料を乗せて分析することをフローインジェクション分析(FIA)と呼びます。

 対象化合物がイオン化しなければ分析にならないため,

(1)対象化合物がイオン化するか?
(2)正または負イオンのどちらの検出が適しているか?


を先ず調べます。

  もし島津の LCMS-2010EV(A)をお使いならば,マルチシーケンスモード を用いることで正・負イオン同時分析ができますし,イオン化条件であるCDL電圧や,Q-array DCおよびRF電圧などは,イオン質量により最適された値を利用するC(onstant)-モード,S(can)-モードを用いることで,わずらわしい条 件設定をしなくとも良好な分析結果が得られます。 FIA条件を表1に示します。

 FIAでは,試料溶媒がイオン化効率に大きく影響する ことがあるので,試料調製が非常に重要です。 必要があれば,酸や塩基によるpH調整や溶解補助剤を加え完全に溶解させます。 イオンが生成しているかどうかは全イオンクロマトグラム(TIC)から容易に判断できますが,FIAは分離を行っていないため,そのイオンが対象化合物由 来のイオンかどうかの確認をしなければなりません。 試料濃度が低いと判断が難しくなるため,慣れるまでは数十から百ppmオーダの試料で実験したほう良いでしょう。 図1にある化合物のFIA結果を示します。 各イオン化におけるTICと最大イオン強度の質量によるマスクロマトグラムを表示させています。 「何らかのイオン」が観察されていることはこのデータから容易に判定できます。
表1. FIA分析条件
移動相流量:
第一選択移動相:
カラム:
イオン化モード:
霧化ガス流量:
乾燥ガス圧力:
印加電圧:
CDL電圧:
CDL温度:
ブロックヒータ温度:
Q-array DC 電圧:
Q-array RF 電圧:
分析モード:
スキャン範囲:
取込時間:
分析時間:
0.2 mL/min
0.1 %ぎ酸水溶液/アセトニトリル=1/1
なし
ESI(+/-)
1.5 L/min
0.1 MPa
+4.5 / -3.5 kV
C-mode
250 ℃
200 ℃
S-mode
S-mode
SCAN
m/z 10-1000
1.5 sec
3.0 min

フローインジェクション分析(FIA)結果
図1 フローインジェクション分析(FIA)結果
● 正イオンのみで検出できる場合
 第一選択移動相を用いて,うまく分析できる可能性が高い化合物といえます。

● 正および負イオン両方で検出できる場合
  一般に負イオンで観察されるイオン強度は,正イオンのそれと比べ弱い傾向があります。 しかし,負イオン検出はバックグランドのイオン強度も正イオンより遥かに低い傾向があるため,S/Nで見れば高い感度が得られる場合があります。 1/5~1/10程度の強度差であれば,負イオン検出の方が優れている可能性があると考えて良いと思います。 この場合も第一選択移動相のまま実験を進めます。

● 負イオンのみで検出できる場合
 第一選択移動相が適していない可能性があります。 ぎ酸水溶液の代わりに,5mmol/L ぎ酸アンモニウム水溶液に変更できる準備をします。

● イオンが検出されない場合
 エレクトロスプレー(ESI)法 だけでなく 大気圧化学イオン化(APCI)法大気圧光イオン化(APPI)法などのイオン化法をトライしてみるのが良いでしょう。 ESIの場合には,試料溶液に酸または塩基を添加することで試料溶液のpHを変化させること,ESIおよびAPCIではアンモニウムイオンを添加することなど試してみることもお勧めします。

 一般的に,FIAでは綺麗なピーク形状を示しますが,ここでピークのテーリングなどが認められる場合は,移動相における対象化合物の溶解性が悪いためと考えられます。 感度が若干低下しますが,溶解補助剤を移動相に添加するなどの対策が必要になります。
  "何らかのイオン"が観察されたではなく,"対象化合物のイオン"が観察されていることを確かめる作業が,この実験の最も大切なところです。
 このために観察されたイオンを帰属することが必要になります。 帰属の基本は,正イオンならプロトン化分子[M+H]+,負イオンなら脱プロトン分子[M-H]-が観察されると考えて, 対象化合物の分子量と一致しているかどうか調べるわけですが,他にも様々なイオン種が観察されます(図1)。
 表2にはESIでよく観察される分子イオン種をまとめました。 正イオンの場合,対象化合物と中性分子がプロトンを奪い合う力関係(プロトン親和力)で観察されるイオン種が変化します。
  どのようなイオン種が出現するかにより,化合物の性質を垣間見ることができます。 例えばアンモニウムイオン付加型分子は,対象化合物のプロトン親和力がアンモニアのそれより弱いことを示しています。 従って,アンモニウムイオン付加型分子が観察される化合物は,アンモニアより塩基性の低い化合物ということが分かります。 また,負イオンでも,酸性官能基を持たなくとも,塩イオンや移動相に添加した酸の力を借りることで,塩素イオン付加型分子[M+Cl]-や[M+HCOO]-などのイオン種を与える化合物が多々存在します。 イオン種の帰属は,これらのイオンの質量差に着目して行います。
表2. ESIでよく観察される分子イオン種
ESI Positive :
[M+H]+
[M+NH4]+
[M+Na]+
[M+K]+

[M+H+CH3CN]+
[M+NH4+CH3CN]+
[M+Na+CH3CN]+

[2M+H]+
[2M+NH4]+

[2M+Na]+
[M+2H]2+
[M+2Na]2+

ESI Negative :
[M-H]-
[M+Cl]-
[M+HCOO]-
[M+CH3COO]-

[2M+HCOO]-

M+1
M+18
M+23
M+39

M+42
M+59
M+64









M-1
M+35(37)
M+45
M+59

 

 

 それでは,図1のある化合物の分子量はいくつでしょうか?…慣れてくれば,正イオンでナトリウムイオン付加型分子,負イオンで塩素イオンやぎ酸イオン付加型分子が観察されているから,分子量は388 と判断できます。
(参考 : 図1の"ESI-P"において,m/z 411 は 388+23なのでナトリウム付加型イオン,"ESI-N"においてm/z 423 は 388+35なので塩素付加型イオンです)

 観察されたイオンが目的化合物のイオンであることが判断できれば,LC-MS分析の第一ステージはクリアです。 第一ステージを行わないとひどい目に合うことがあります。 たった数分で終了する分析なので,必ず実施することをお勧めします。(Mu)
 
補 足説明:過去の分析実績などから,目的化合物が適切に検出できると予想される場合は,フローインジェクション分析をせず,移動相A,Bのグラジエント条件 で分離できるかどうか確認することもあります。その場合,イオン化に問題があればフローインジェクション分析を行って下さい。

LCMS, 液体クロマトグラフィー質量分析装置

 

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