今回は、糖類の「検出法」(主に中性糖)についてのお話です。

検出法の種類

ある物質の検出法を選ぶ際,みなさんはまず,その物質の構造をご覧になることと思います。 糖類の構造といえば,めぼし官能基は「OH基(水酸基)」のみで,さて,どうやって検出しようか・・・ということになりますね。 HPLCによる糖類の検出法としては,大きくは以下の方法があります。
  紫外可視検出・・・直接(190~195nm),誘導体化(プレカラム,ポストカラム)
  示差屈折率
  蛍光検出・・・・誘導体化(プレカラム,ポストカラム)
  電気化学検出・・・Cu電極,Au電極
  蒸発光散乱検出
それでは,それぞれについて簡単に解説しましょう。

紫外可視検出

糖類の紫外吸収は190~195nm付近でしか得られません。 従って,直接紫外検出を行う場合,このような低波長域に限られますので,移動相が水のみの条件で,かつ,よほどきれいな試料でない限り,実用上は困難と考えてください。
紫外可視検出を目的とした誘導体化法としては,ポストカラム法では,古くはオルシノール-硫酸法などの呈色反応を利用した方法が用いられていましたが,耐食性の装置が必要で取り扱いも厄介なため,今では使われていません。 その他,プレカラム法も実用的に使われている方法はありません。

示差屈折率検出

示差屈折率検出法は,試料成分と移動相に屈折率の差があれば何であれ検出できる汎用検出法で,糖類の分析には定番の検出法として広く用いられています。 従来検出感度はあまり期待できませんでしたが,最近では装置の性能が向上し,水系移動相においてはnmolオーダーの検出も可能となっています。 しかし,汎用検出法であるが故,検出の選択性は乏しくなります。
また,グラジエント溶出法が使えませんので,分配法によるオリゴ糖分析やほう酸錯体陰イオン交換法を用いる多成分分析には有効ではありません。
さらに,分配法では,高感度時にベースラインの「うねり」が起こります。 これは,固定相表面における移動相(アセトニトリル/水混合液)の平衡状態が僅かな温度変化により微妙にずれるため,これが屈折率変化となって検出器で検出されると考えられます。
その他,ほう酸錯体陰イオン交換法では,ほう酸のゴーストピーク(システムピーク)があたかも糖のピークのように出現しますのでご注意ください。

蛍光検出

蛍光検出法は,感度や検出選択性の面で非常に優れていますが,成分が発蛍光性であることが必要です。 糖類は,発蛍光性ではありませんので,蛍光誘導体化法が種々検討されています。
プレカラム法では,2-アミノピリジンを試薬に用いるピリジルアミノ誘導体化が,糖タンパクの糖鎖構造解析において広く用いられおり,pmolオーダーの検出が可能となります。 ただし,プレカラム法の常ですが,誘導体化処理にはある程度の時間と手間が必要です。
この点,ポストカラム法では誘導体化反応は自動化されていますので,ルーチン分析で好まれます。 ポストカラム法としては,1980年代に2-シアノアセタミド,エタノールアミンなどを用いた多くの方法が考案されました。 同時期,筆者らは,塩基性アミノ酸であるアルギニンがほう酸存在下,糖類との加熱反応で強い発蛍光誘導体を生成することを見出し,これを利用した分析システムを構築しました。 このシステムは,現在も多くのお客様にお使いいただいています。

電気化学検出

電気化学検出法も高感度な検出法で,糖類についてはCuやAu電極を用いる方法があります。 特に,Au電極とパルスモ-ドを組み合わせる方法では,数pmolレベルの糖が検出できます。
ただし,反応液を強アルカリに保つ必要があるため,移動相条件によっては,カラム溶出液に別ポンプにより,高濃度の水酸化ナトリウムを添加することが必要になります。 また,検出の選択性は高くありませんので,夾雑成分との分離が問題になることがあります。

蒸発光散乱検出器

蒸発光散乱法は,カラム溶出液を噴霧して移動相を蒸発除去後,溶質に光を当ててその散乱光を検出する方法で,不揮発性の成分は何でも検出できる汎用検出器です。 20年ほど前から市販装置がありましたが,感度や操作性などの点で難があり,あまり普及しませんでした。
しかし,最近では性能の良い装置(例えばELSD-LTII)も現れ,汎用検出器として見直されています。 グラジエント溶出法が適用できますので,糖類の検出では,特に分配法によるオリゴ糖分析に効果的です。 ただし,その原理上,不揮発性移動相(例えば緩衝液)は使用できませんので注意してください。

以上,糖類の分析を行う際には,分離法に加えて検出法も選択肢が多いですので,目的に応じて最適なものをお選びください。