糖類は自然界にもっとも広く,多量に存在する有機化合物群のひとつであり,その種類は単糖,オリゴ糖から多糖,中性糖,酸性糖,アミノ糖,糖アルコール,さらにそれらの異性体等々多岐に渡ります。
これら糖類の分離分析にはHPLCが広く用いられていますが,分析にあたっては目的に応じて適切な分離法や検出法を選択する必要があります。今回は,この内分離法(主に中性糖)についてのお話です。

分離方法の種類

糖類の分離法には,代表的なモードとして以下の5種類があり,それぞれ異なった作用に基づき分離されます。

  サイズ排除・・・・・・・・・・・・・・・・分子の大きさ
  配位子交換・・・・・・・・・・・・・・・・金属対イオンとの錯形成力
  分配(順相)・・・・・・・・・・・・・・固定相(水相)への分配力
  陰イオン交換・・・・・・・・・・・・・・陰イオン交換力
  ほう酸錯体陰イオン交換・・・・ほう酸との錯体の陰イオン交換力
 (ただし,これらのモードが複数関与する場合もあります)

サイズ排除

糖類を分子量により分離したい場合に用います。数百から数百万分子量に渡る分子量分布がわかります。基本的には分子サイズによる分離ですので,同一分子量の成分は分離できません。
充てん剤としては親水性ポリマーが用いられ,通常移動相には水のみを用います。しかし,イオン性成分などでは,充てん剤と相互作用が起こるため,移動相に塩類を添加することもあります。

配位子交換

スルホン化ポリスチレンゲルに金属対イオンとして,ナトリウム(Na型),カルシウム(Ca型),鉛(Pb型)などをもたせた充てん剤が用いられ,主として2糖類以下の糖類の分離に適しています。 この方法による糖類の保持は,主として糖類の水酸基と金属対イオンとの錯形成に基づくもので,糖類が金属対イオンの水和水と交換して生成した錯体の安定性と関係付けられます。 分離のベースにあるのは,排除限界分子量約1000のサイズ排除法なのですが,金属対イオンの種類と糖類のもつ水酸基の位置や数により同じ分子量の単糖類でも保持に差が出てきます。
Na型ではほとんどサイズ排除作用のため,グルコースとフルクトースが分離できる程度ですが,Ca型では糖アルコールが選択的に保持され,Pb型では糖アルコールの保持がさらに強くなり,一部単糖類相互分離も良くなります。
この方法で用いる移動相は水だけですので,環境にやさしい分離法と言えますが,逆に移動相による分離のコントロールはできません。

また,2糖類の相互分離が困難,Ca型やPb型ではカラム温度を80℃程度に設定する必要がある(アノマー分離によるピークの割れや崩れを防ぐため)点など注意が必要です。

配位子交換での糖分離例

分配(順相)

単糖類からオリゴ糖までの分離に適しています。特に,オリゴ糖構成糖の1個1個の違いを識別することができますので,2糖類の相互分離も容易です。
分配法では,一般にシリカポリマー坦体にアミノ(プロピル)基を結合させた充てん剤が用いられます。 移動相はアセトニトリルと水の混合液が用いられ,水の比率が増えるほど溶出がはやくなります。 また,糖類の分子量が大きくものほど遅く溶出します。
この方法による糖類の保持は,固定相に「濃縮」された水に対する糖類の分配に起因するものと考えられます。 なお,固定相のアミノ基は糖類のアルデヒド基と反応してシッフ塩基を作りますので,特に五単糖(アラビノース,リボース等)ではピークが大きくテーリングすることがあります。 これは,移動相に塩を添加することにより抑制することができます。 また,単糖同士の相互分離には限界がありますのでご注意ください。

陰イオン交換

中性糖のpKaは12程度ですから,強塩基性移動相では陰イオン交換樹脂に保持させることができます。 この場合,移動相としては0.1M程度の水酸化ナトリウム溶液が用いられます。
一般に,単糖類からオリゴ糖の順に溶出します。 水酸化ナトリウム濃度を変化させるグラジエント法と組み合わせますと,多成分の一斉分離が可能となります。

ほう酸錯体陰イオン交換法

糖類のようなポリオキシ化合物は,ほう酸やほう酸塩と速やかに反応して負電荷をもつ錯体を形成します。 つまり,移動相にほう酸緩衝液を用いると,糖類を陰イオン交換で分離することが可能となります。
この方法は,単糖から2糖類の相互分離に優れた方法です。 特にほう酸緩衝液の濃度とpHを変化させるグラジエント法により,多成分を効率良く分離することができます。

以上,糖類の分離は案外と難しいものです。 目的成分と夾雑成分を考慮して,最適な分離モードを選ぶ必要があります。

ほう酸錯体陰イオン交換での糖分離例

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