TFA入り 水/アセトニトリル グラジエントのベースライン

分析の留意点

LCtalk39号LAB

 ペプチド・たんぱくの分析・分取には,トリフルオロ酢酸(TFA)入りの水/アセトニトリルでグラジエント溶離(GE)をよく行います。このときベースラインには盛り上がりやゴーストが出やすく,データ処理をどのように行うべきか判断が難しい場合があります。 今回はこれを調べなおしてみましょう。

LC博士イラスト

 図1は, A液: 0.01 M TFA水溶液 とB液: 0.01 M TFA アセトニトリル溶液を用いて,B液濃度0→100 %のGEを行った際の3次元クロマトグラムです。ここには,B液が初めて検出器に達した時間付近のピーク(ア),200 nm付近の盛り上がり(イ)と落ち込み(ウ),B液が増えるにつれて増大する225 nm付近の盛り上がり(エ)などが見られます。

 さてここでカラムをはずして配管だけにしてGEを行うと,図2のようになります。大きな違いは図1の (ア)ピークが無くなったことなので,このピークはカラムに保持されていた移動相中のTFAや不純物が溶出したピークであったことがわかります。 一方(イ)(ウ)(エ)は,原理的に生じるものと判断されます。図2のデータをクロマトグラムで確認したのが図3です。ベースライン変動は215 nm付近で少なく,短波長では盛り上がった後にマイナスに落ち込み,長波長では凹型に上がっていきます。

 それでは215nmで測定を行えば問題は少なそううに思えますが,必ずしもそうではありません。図4は測定波長は215nmですが,波長バンド幅を変えたときのクロマトグラムです。波長バンド幅が拡がるとベースラインは結構変動するのがわかります。これは215nm付近では,短波長側の吸光度変化の方が長波長側の変化よりも大きい(図5)ので,短波長側にシフトしたかのような影響が出るためです。通常の単波長UV-VIS検出器の波長バンド幅は8nm程度ですから,B液50%以上へのGEの場合は要注意ですね。

 

 

図1
図2

 ここで,A液とB液のスペクトルを確認してみましょう。 両者は同じ濃度のTFA(0.01M)を含んでいるにも拘わらず,図6のように大きく異なったスペクトルになっています。 従って述べてきたGEベースの変化は, A-B液混合の混ざり具合の問題ではなく,主にそれ自体のスペクトルが変わるために生じることなのです。

 さて,アセトニトリルの比率が高まるとどうして吸収スペクトルが変化するのでしょうか? 理由としては, (1)TFAの解離が抑制される (2)TFAとアセトニトリルとの相互作用,などが考えられます。

 ここで試し実験として,TFAの解離している状態をできるだけ保つようにしてみました。 A液の溶媒として,水の代わりに0.1Mりん酸(ナトリウム)緩衝液(pH2.1)にTFAを溶解させ(この溶液のスペクトルは,図6に示すように水溶媒時とほぼ同じ),B液0→70%へのGEを行いました。 その結果,図7のようにベースラインの不規則な変動は認められませんでした。 従って,スペクトルの変化の理由は主にTFAの解離状態の変化によると考えられます。 (アセトニトリル%が高いと,下の平衡では左へずれる)

平衡式

 TFA以外でも酢酸などの有機酸を用いたGEを行う場合は,似たようなベースライン変動が起こります。 「何か不具合がある」と早まらないで,「その変動が妥当かどうか」「定性や定量には問題がないかどうか」を確認してみてはいかがでしょうか。

参考文献:G.Winkler,et al., J.Chromatogr.,347(1985)83-88.
(Y.Eg)

図5

図6

図7


補足キーワード:HPLC, 液体クロ, クロマトグラフィー
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