オートサンプラで注入した試料は、配管を通じてカラムに到達します。
カラムに入る前に試料溶媒と移動相との混合が不十分な場合、試料溶媒の種類により、ピーク形状が劣化することがあります。移動相よりも溶出力が高い試料溶媒の使用ではピークがブロードになることがありますが、内径が小さい配管を使用するUHPLCシステムでは、試料溶媒と移動相が混合されにくくなるため、特に気を付ける必要があります。

試料溶媒の溶出力がピーク形状に及ぼす影響について、逆相クロマトグラフィーによるカフェイン分析時の理論段数を例として図1に示します。ここではピーク形状の指標を理論段数で表しており、理論段数の値が高いほど、ピークがシャープです。この分析では、移動相にメタノール/水=3/7を用いています。試料溶媒にメタノールを使用した場合(移動相より溶出力が高い)と水を用いた場合(移動相より溶出力が低い)では、理論段数に差が生じ、さらに注入容量を増やすと顕著な違いがみられます。

試料溶媒としてメタノールを使用した時の、注入容量によるピーク形状の比較を図2に示します(カラムへの絶対注入量は一定になるように試料濃度を調整しています)。注入容量が多くなるほど、ピーク形状の劣化が起こっていることがわかります。

 

図3には溶質と試料溶媒がカラム内を移動していく様子を表しています。試料溶媒はカラム内で移動相の一部分と見なせますが、移動相よりも溶出力が高い試料溶媒は、溶出力の高い移動相としてカラム内で溶質を速く移動させています。一方、移動相よりも溶出力が低い試料溶媒は溶出力の弱い移動相として働いたために溶質がカラム入口部で一旦濃縮され、移動相で改めて分離展開が始まったと考えられます。移動相よりも溶出力が低い試料溶媒を使用することにより、カラム内で溶質の拡散が抑えられるため、ピーク形状をシャープにすることが可能です。

図3 試料溶媒の溶出力の違いによる溶質の保持の比較

 

移動相と比較した試料溶媒の溶出力がピーク形状に影響することをここまで説明してきました。移動相よりも溶出力が低い試料溶媒を使用することでピーク形状をシャープにできますが、溶出力が高い溶媒(逆相クロマトグラフィーでは、例えばメタノール100%など)で試料調整されている場合、置換や希釈などさらなる前処理の手間が懸念されます。

島津製作所製高速液体クロマトグラフNexera Seriesおよびi-Seriesのオートサンプラには自動前処理機能が搭載されています。図4に共注入モードの動作イメージを示します。共注入モードは特定のバイアルから共注入用の溶媒を吸引し、試料と共に分析カラムへ注入することが可能なため、手動で置換や希釈などの前処理を行う手間をかけずにシャープなピークを実現できます。図 5 に逆相クロマトグラフィーで、移動相よりも溶出力が高い溶媒で調整した試料の分析における、希釈溶媒(水)共注入の有無によるクロマトグラムの比較を示します。注入量を1~10 μLに4段階で増加させ、ピーク形状を比較していますが、共注入した分析でのクロマトグラムは注入量が増加しても試料溶媒の影響を受けず、ピーク形状が維持されています。

図4 共注入モード動作イメージ

 

図5 希釈液を共注入した場合のピーク形状比較

残留農薬動物医薬品などの分析時に、固相抽出等の処理でメタノール100%など有機溶媒のみを用いて抽出することがあります。特に、溶質が高極性の場合、逆相クロマトグラフィーの分析では水が高比率の移動相が使用されますが、溶出力が高い試料溶媒と溶出力が低い移動相の組み合わせとなり、ピーク形状が崩れやすいという問題が起こります。
自動前処理機能による共注入を用いることで、ピークのシャープな形状を維持し、定量の信頼性が担保された分析を実現できます。