送液圧力異常上昇時のチェック法
1.はじめに
よくお電話で「カラム圧が高くなった!交換しないとだめかなぁ?」という問合せがあります。でも話をお伺いすると「送液ユニットがpress.max(圧力上限設定)に引っかかって止まっていた」という内容で,実際はカラムではなくてほかの所が問題(詰まっている)であることも多いようです。今回はこれらのお話です。
2.予備知識
<送液圧力異常上昇時に生じる可能性のある問題>
まず,圧力が異常に上昇した時に起こりうる問題をおさらいしてみましょう。
A. カラム充填剤に圧がかかり過ぎると,充填剤の割れ・偏平が起こり奥へ押し込まれる。そのためさらに圧力がかかる。入口充填部に隙間が空くとピークが変形する。サイズ排除クロマトグラフィーではポアサイズが小さくなるため分離も悪くなる。なお,カラムの下流に圧がかかっており,カラム自体の圧力勾配が緩い時は、相対的にダメージは少ない。
B. 検出セル自体に圧がかかり過ぎると,液モレあるいはセルが割れる。
C. 配管チューブ・フィルタに不溶物が詰まると,液の流れがスムーズに行かず,またそこに成分が吸着してピークが変形することがある。
D. 送液圧力が高くなり過ぎると,所定の分析流量で送液できなくなる。また,消耗品の寿命が短くなる。
<送液ユニットのpress.maxの設定>
異常を早めに発見するため,送液ユニットのpress.maxを、通常はカラム耐圧の1/2~2/3(シリカ系5μm分析カラムなら100~150 kgf/cm2くらい)に設定します。なお,送液ユニットとインジェクタの間に抵抗管1)(図1参照)や高感度ダンパー2),プレカラム3)があれば,そこに圧力がかかるため,press.maxの設定値はその分を加えます。
3.流路チェック法
<まず移動相ビンを見る>
もしも移動相ビンの中に白い濁りが見えたら,不溶物を敢えて流路に詰め込んでいるようなものです。確かにサクションフィルタはありますが,下流のフィルタポアの方が小さい場合が多いからです。移動相はろ過されていても,溶質の溶解度がギリギリだと放置すると析出することがあります。一方純水のみでも放置するとバクテリアが繁殖することもあります。また緩衝液と有機溶媒のグラジエント溶出では,混合後に析出しないことを予めビーカーかフラスコで確認しておきましょう。有機溶媒同士でも混合比によっては白濁することもありますよ!白濁・析出する場合は,流路の洗浄以外に移動相の再検討も必要です。
<流路チェックは,基本的に下流から配管を外す>
圧力の異常上昇している所を見つけるため,基本的には下流側から順次配管をはずして送液し,圧力をチェックします。すぐにpress.maxにかかるようであれば、流量を下げて行います。まず,図1の接続(1)(背圧管4)チェック)をはずして送液します。圧力がガクっと下がれば(数kgf/cm2以上),背圧管の詰まりです。下がらなければ詰まりはもっと上流ですので,次に接続(2)(検出器のチェック)をはずして調べます。そして同様に(3)(分析カラム),(4)(ガードカラム,ラインフィルタ),(5)(インジェクタ),(6)(抵抗管,プレカラムなど),(7)(送液ユニットのラインフィルタ)などを調べて行きます。場合によっては,その他のコネクタそれぞれもはずします。配管チューブやセル,フィルタ,インジェクタは,それ自体で数kgf/cm2以上かかっていれば問題があります。詰まりやすい所は,フィルタ部と細い配管の入口部分ですので,特に注意しておきましょう。
なお,カラムオーブン内の流路チェックは,オーブンを開けた状態,つまりほぼ室温で行いますので,分析時の流量をそのまま流すとカラムに圧がかかり過ぎる場合があります。通常は半分程度で流すと無難ですね。
4.流路部別解決策
流路中の詰まりは,(溶解)洗浄できるものとできないものがあります(表1)。できないものは,逆流させるか,その配管部分を交換します。
<配管チューブ>
詰まりやすい所は,内径が太いチューブから細いチューブへの継ぎ目,そして流路が折れている箇所です(図2)。
配管チューブは,入口側を1 cmほど短くカットすれば解決することも多いですよ(そのためには手締めのメイルナットPEEKをコネクタに使うと便利)。
<検出器セル>
UVセルの圧力が極端に高い場合は,割れるのを防ぐためにセルを分解してから洗浄を行います。
<カラム>
カラム圧がやや高い程度なら,カラムチェック(出荷時検査条件で理論段数測定)してみて,使用目的を満足するか調べてみましょう。圧力が極端に高い場合は,基本的にはカラムを交換して下さい。しかし詰まりが入口側カラムエンドのフィルタであれば,保証はできませんが,次を行って回復する場合があります。
(1)流量を半分位にして逆流してみる。
(2)入口側カラムエンドにかかる圧力を調べる(図3,フィルタがエンドと一体の場合)。その圧力が高い時,超音波洗浄し,改善されなければエンドを交換する。ただし,新しいエンドがフェルール(図3)と密着できない場合があり,その時は液モレをバルカテープで防ぐ。なお,フィルタがエンドから取り外し可能な場合は,フィルタを交換。
入口側フィルタがよく詰まるようであれば,インジェクタとの間にラインフィルタを挿入しておくと良いでしょう。ただし,若干ピークは広がります。
<ラインフィルタ,インジェクタ>
逆流させるか,分解して超音波洗浄します。
表1. 「詰まり」と「(溶解)洗浄液」の例
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表2. 直接は混合すべきではない溶液の組合せ例
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5.場合別の考え方
<久しぶりに使用した場合>
久しぶりに使用したとき,または前の使用条件が不明な場合は,まずカラムなしの状態で流路を洗浄します。
<低流量で送液しても極端に高い圧力の場合>
低流量で送液してもすぐにpress.maxにかかるようであれば,下流からはずしていくのではなくて,流路を全てはずして逆に上流の部分からそれぞれを送液ユニットに直結して調べてみましょう。
<試料を注入するたびに徐々に圧が上がる場合>
これは試料中の不溶物か,試料溶媒に溶けていても移動相には溶解しなくて析出しているものと考えられます。
<注入すると一旦少し上昇してまた落ちる場合>
試料成分の溶解度不足,試料溶媒と移動相の混合時の粘性抵抗圧上昇が考えられます。
6.日常から留意しておきたいこと
<移動相と試料溶液はろ過しましょう>
移動相と特に試料溶液は,必ずメンブランフィルターでろ過しましょう。さらにグラジエントする溶液同士,そして移動相と試料溶液を混ぜてみて不溶物がでないことも確認しましょう。
<分析時の圧力を記録する習慣をつけましょう>
トラブルをすぐ発見するため,日頃から分析時の圧力を記録しておきましょう。
<送液ユニットの圧力ゼロ調整>
圧力モニタを正確に行うため,定期的にゼロ調整を行いましょう。ゼロ調整は,ドレインバルブを開けてしかも流れの無い状態で行います。
<分析終了時の検出器の出口チューブ先の処理>
検出器の出口チューブ(背圧管)先は,空気に触れているためチューブ内の溶媒が蒸発しやすい所です。緩衝液を用いた分析を終了する時は,チューブ先を廃液(濁っていたら取り替えましょうね)の中に入れてしまうか,パラフィルムを巻いておきましょう。何日か放置する時は,カラムをはずしてLC流路を水,そしてメタノールで置換しておきましょう。カラムの寿命を短くするような移動相条件の時は,勿論保管の前に充分洗浄しておくべきです。
1) | 抵抗管:ここでいう抵抗管は,例えば0.1 mm内径×2 mの配管チューブであり,送液ユニット出口に接続して,分析流量での負荷圧力を数十kgf/cm 2 上乗せすることにより,送液ユニット本体の高圧ダンパーの効きを良くするために用いられる。 |
2) | 高感度ダンパー:送液脈流を小さくして,電気伝導度,電気化学,屈折率,各検出の高感度ベースラインを得るためのダンパー。通常は抵抗管と共に用いられる。 |
3) | プレカラム:移動相から分析カラムを保護することを目的としてインジェクタより上流に設置されるカラム。 |
4) | 背圧管:検出セルの下流側(背側)に接続する抵抗管のことで,UV検出器などでは通常0.3 mm内径×2 mのチューブが用いられる。水,およびメタノールを1 mL/minで流した時にかかる圧力はそれぞれ約2,1 kgf/cm 2 となる。セル部分がほぼ大気圧の時に気泡が発生するような場合に用いられる。 |
(Y.Eg)