イオンクロマトグラフィーに用いるカラムの洗浄方法
よくお問い合わせ頂いているイオンクロマト用カラムの洗浄方法や洗浄する上での注意点について説明します。
イオンクロマト用のカラムの洗浄は,主に「多価イオン」と「有機化合物」をターゲットにして行います。多価イオンの洗浄(除去)には,「溶出力の強いイオン種を含む洗浄液を用いる」「イオン種の濃度の高い洗浄液を用いる」が有効となります。一方,有機化合物の洗浄には有機溶媒を含む洗浄液が有効ですが,カラムによって使用できる濃度に制限があります。
注) ここに示した洗浄方法は,カラム性能の回復を保証するものではありません。
(1) 共通事項 (カラムの種類に拘わらずお読みください
<方法・流量・時間>
- カラムの洗浄は,ポンプから通液することにより行なってください。 ただし,IC-C1 でアルカリ金属を分析する場合についてのみ,溶離液を送液した状態で,インジェクターから洗浄液を繰り返し注入することにより洗浄することが可能です。
- 洗浄時の流量は,特に指定がなければ分析時の流量の半分程度か,0.5 mL/min としてください。 カラムの汚染や洗浄の種類によってはカラム圧が高くなることがありますが,そのような場合は流量を下げて通常時の使用圧を超えないようにしてください。
- 洗浄時間は,特に指定がなければ 1~2時間程度としてください。
<ガードカラムの洗浄方法>
以下の分析カラムの洗浄方法は,各々に対応するガードカラムについてもまったく同じ洗浄方法を適用することができます。 ただし,ガードカラムに蓄積された汚れが洗浄によってメインカラムに流れ込んでは逆効果なので,メインカラムとガードカラムは別々に洗浄することを推奨します。
<サプレッサ方式の場合>
サプレッサ方式の場合は,カラム洗浄液がサプレッサカートリッジに流れ込まないよう,カラムの出口から廃液びんへ直接配管を接続するなどの処置を行なってから洗浄操作を実行してください。
同じ理由により,洗浄後はカラムに溶離液を通液し,洗浄液を十分に洗い流してからサプレッサカートリッジを接続してください。
<カラムの通液方向>
洗浄液のカラムへの通液方向は,基本的には分析時と同じ「順方向」とします。 「逆方向」に通液すると,カラム性能低下が発生する場合があります。
一方,汚れは通常カラムの入口付近に蓄積されるため,洗浄液を分析時の「逆方向」に通液する方が洗浄効果が高いこともあります。 洗浄液を「逆方向」に通液する際には,充てん状態が大きく変わり,カラムの性能低下が発生する場合があることを十分ご承知おきください(取扱説明書などに明確に逆方向での洗浄が指示されている場合は除く)。
<カラム洗浄が与える影響>
カラムの洗浄は必要なときにのみ実施してください。 みだりに組成の異なる溶液を通液すると,充てん剤の性質に変化をもたらして性能低下や圧力上昇の原因となることがあります。
<カラム保管時の封入液について>
一ヶ月以内の保管 | :分析に使用している移動相を封入してください。 |
一ヶ月を超えての保管 | :一ヶ月毎に,移動相で封入液の入れ換えを行ってください。 |
(3) Shim-pack IC-A3 留意事項
洗浄液1 多価電解質により汚染されたとき |
120 mmol/L フタル酸水素カリウム水溶液 |
洗浄液2 疎水性物質により汚染されたとき |
8.0 mmol/L p-ヒドロキシ安息香酸および3.2 mmol/L Bis-tris を含む水溶液とアセトニトリルの混合液(1/1, v/v) (アセトニトリルの代わりにメタノールを用いてもよい) |
洗浄液3 圧力上昇,保持時間減少などの際の最終手段 |
100 mmol/L 過塩素酸ナトリウムを含む 20 mmol/L りん酸(ナトリウム) 緩衝液(pH 2.5) とエタノールの混合液(1/2, v/v) 接続方向を逆向きにして通液 洗浄方法詳細 |
有機溶媒濃度 | エタノール,メタノール,アセトニトリルのいずれかを最大70 %。 |
使用制限 | pH=3~8.5,圧力 < 12 MPa (常用8 MPa), 温度 < 50 ℃(常用40 ℃) |
封入液 | 出荷時や長期保管時は70 %エタノール水溶液。通常保管は移動相を封入したまま。 |
(4) Shim-pack IC-SA2,IC-SA3,IC-SA4
洗浄方法 1 Fがテーリング,またはPO4が小さくなったとき |
20 mmol/L EDTA-2Na水溶液*とアセトニトリルの混合液(10/1,v/v),12時間程度通液 (その後分析用移動相を0.5 mL/minで15分,さらに分析流量にて約2時間通液した後にサプレッサを接続) * EDTA-2Na水溶液:エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム水溶液 |
洗浄方法 2 親水性物質(多価電解質)により汚染されたとき |
10倍塩濃度の移動相溶液 (その後分析用移動相を0.5 mL/minで1時間通液した後にサプレッサを接続) |
洗浄方法 3 疎水性物質により汚染されたとき |
5 %アセトニトリルを10分間通液後,100 %アセトニトリルを1時間通液 (カラム圧が上がりやすいので要注意) (その後精製水を0.5 mL/minで30分,移動相を0.5 mL/minで1時間通液した後にサプレッサを接続) |
留意点 | 1. 上記の手順はいずれもサプレッサカートリッジを外した状態で行う。EDTAがサプレッサカートリッジに流れ込むと目詰まりの危険性がある。 2. IC-SA4のガードフィルタの圧力が上昇した場合は,フリットを交換してください。 |
使用制限 | pH=3~12, IC-SA2:圧力<12 MPa(常用<5 MPa),温度<60℃(常用 30 ℃) IC-SA3:圧力<15 MPa(常用<11 MPa),温度 20~60℃(常用 45 ℃) IC-SA4:圧力<15 MPa(常用<11 MPa),温度 20~60℃(常用 45 ℃) |
封入液 |
IC-SA2:1.8 mmol/L 炭酸ナトリウム/1.7 mmol/L 炭酸水素ナトリウム 水溶液
IC-SA3:3.6 mmol/L 炭酸ナトリウム 水溶液 IC-SA4:1.7 mmol/L 炭酸ナトリウム/5.0 mmol/L 炭酸水素ナトリウム水溶液** ** 一ヶ月を超えて保管する場合には,定期的に移動相により封入液の入替えをおこなってください。 |
(5) Shim-pack IC-C1
洗浄方法1 アルカリ金属分析時 (移動相;5 mmol/L 硝酸) |
溶離液送液中に,1 mol/L 硝酸をインジェクターから注入する。繰り返し注入して,計0.5~1 mL になるようにする。注1) |
洗浄方法2 その他の分析条件 |
20 mmol/L エチレンジアミン/ 40 mmol/L 酒石酸 混合水溶液をポンプから通液 |
有機溶媒濃度 | メタノール,アセトニトリルのいずれかを最大10 % |
使用制限 | pH=2~11, 圧力 < 5 MPa(常用2 MPa), 温度 < 50 ℃ |
注1); | 流路に1 mol/L 硝酸を滞留させると腐食する可能性があるので操作には注意してください。 例えばシリンジやインジェクションポートは注入後に純水で十分に洗浄します。 またマニュアルインジェクタの場合,1 mol/L 硝酸をLoad後すぐにInjectし,Inject位置でループ内を移動相で十分に置換します。 |
(6) Shim-pack IC-C3(販売終了)
洗浄液1 多価電解質により汚染されたとき |
100 mmol/L りん酸(ナトリウム)緩衝液(pH=2.1)注2) |
洗浄液2 疎水性物質により汚染されたとき |
2.5 mmol/L しゅう酸水溶液とアセトニトリルの混合液(1/1, v/v)注3) (アセトニトリルの代わりにメタノールを用いてもよい) |
有機溶媒濃度 | アセトニトリルを最大70 %。 (エタノール,2-プロパノールの高濃度使用は不可 )注3) |
使用制限 | pH=2~5, 圧力 < 12 MPa(常用5 MPa), 温度< 50 ℃(常用40 ℃) |
封入液 | 2.5 mmol/Lしゅう酸水溶液 |
注2); | りん酸2水素ナトリウム2水和物(MW:156.01)7.8 g,りん酸(85 %)3.4 mLを水に溶解し,全量を1000 mLにします。 |
注3); | 過去の技術資料(PIA分析マニュアル,LCtalk No.36 p.9)に現在の知見に照らし合わせると不適切な洗浄方法が掲載されていました。 お詫びして上記のように訂正いたします。 |
(8) Shim-pack IC-C4
洗浄方法1 親水性物質(多価電解質) により汚染されたとき |
超純水1 mL,20 mmol/L EDTA-2Na水溶液*とアセトニトリルの混合液(20/1,v/v) 50 mL,超純水1 mL の順でカラムの通液方向で通液(0.5 ml/min) 通液量はおおよその目安です。 * エチレンジアミン四酢酸 2 ナトリウム水溶液 |
洗浄方法2 疎水性物質により汚染されたとき |
溶離液と有機溶媒(アセトニトリルまたはメタノール)の混合溶液(9/1,v/v) 50 mL をカラムの通液方向で通液(0.5 mL/min)する。 |
使用制限 | pH 2~9,圧力 最大6.5 MPa(常用4.5 MPa 以下),温度 50 ℃以下(常用40 ℃),流量 最大 1.2 mL/min(常用1.0 mL/min) |
出荷時封入液 | 2.5 mmol/L しゅう酸水溶液 |